17_脂肪の塊
頭上では、カラスの群れが騒ぎ始めていた。
カラスたちに助けはいらないと手で合図した。
金髪は至近距離から、ちゅうちょすることなく、鋭いパンチを繰り出してきた。
道元よりもケンカ慣れしている。
俺は金髪のパンチを腕でガードした。
胸ぐらを掴むヤツの腕の関節をキメようとするが、金髪はそれを察知して手を離し距離を取る。
前蹴りをしてくる。
素早い蹴りなので、掴んだり受け流すことが出来ずに、俺は体を半身にして避けるのが精一杯だ。
まずい。
息が上がる。
何度も言うが洋平は脂肪の塊なのだ。
金髪の突きをなんとか避けて、俺は間合いを詰め洋平の全体重をかけた肘打ちを相手の首めがけて繰り出した。
非常に危険な技だが、他に選ぶ余裕がなかった。
金髪は俺の肘打ちを急所に食らってしゃがみこむ。
苦しいだろうが、後遺症になることはないはずだった。
俺は肩で息をしていた。
これ以上はマズイ。
殺してしまう可能性もある。
「次は名を名乗れよ」
そう言い捨てると、急ぎ足でその場を逃げた。
ケンカしている俺達の周囲に出来た人の輪をくぐり抜け、他の学生たちに紛れ込む。
洋平は巨体なのでどうしても目立ってしまう。
だが、金髪は追いかけてこなかった。
今のは一体誰だったのだろう。
それにしても早急に体重を落とし持久力をつけなければいけない。
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「洋平!お前またケンカしたみたいだな。すごい噂になってるよ」
席につくと隣に座る陽子が話しかけてきた。
「俺のこと洋平って呼ぶことにしたのか?」
「まあね。有理もそうみたいだから」
陽子は少し照れくさそうに笑う。
「ケンカなんだけど。金髪のやつだった。水色のシャツの」
「たぶん道元の地元の先輩じゃないかな。チンピラみたいなヤツだよ」
「ふうん。陽子。金髪のフルネームはなんていうか知ってる?」
「名前は知らない。洋平ってやけに人の名前を聞きたがるね」
「気づいたか」
ニヤリと笑う。
相手の名前を知っておくことは重要だ。
いざという時に呪いに使えるからだ。
セルパン同士でさえ、お互いのフルネームを教え合うことは稀だ。
なにかの呪いに悪用されることもあり得る。
だから、フルネームは簡単に人には教えてはいけない。
ちなみに同姓同名でも大丈夫だ。
呪うときに相手の顔を思うからだ。
今日は、学校での時間は平和に過ぎていった。
道元はときどきこちらを睨みつけてくるが、どうってことはない。
昼休み。
みんなは何かを食べに食堂などに行った。
俺は昨日に引き続き、昼メシは抜くつもりだった。
ダイエットだ。
「あれっ、川田くん、ご飯食べないの?」
典明が話しかけてきた。
「俺は痩せなければならない。この肉をみて」
腹の肉をつまみ上げてみせる。
「典明も俺のことを洋平と呼んだら?」
「えっ......?いいの?なんだか照れるなあ」
典明は俺の座る席の隣に腰掛けた。
「僕はパンを食べるけど」




