14_暴力の影
無事、関所も超え電車にも間違いなく乗って家に帰ってこれた。
自宅付近に着くと、カラスの親玉がふわりと俺の肩に舞い降りる。
「何だお前。よほど暇なんだな」
(明日の朝、約束の食い物、おねがいしますよ)
「分かってる」
(寺の息子は敵ですね?任せてください。若い衆を集めて明日、襲いましょう)
俺が教室で道元と闘っていたのを、窓から見ていたらしい。
部下にスパイをさせて、道元が寺の息子だということも、すでに突き止めたか。
「いや。いい。勝手なことするなよ?」
俺は親玉に釘を刺す。
こいつらは、
「やれ」
といえば道元を集団で襲い、目玉をくり抜くくらいは平気でやるだろう。
そこまでは必要ない。
子ども同士のケンカなのだ。
親玉は、カァとひと声鳴くと飛び立っていった。
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「ただいま帰りました」
玄関のドアを開け、誰に言うでもなくつぶやく。
今日も、平林さんと妹のゆかりの3人だけだろうか。
しかし玄関には見慣れぬ女物の靴が置いてあった。
リビングで物音が聞こえる。
ガタッ!
「痛い!ごめんなさい」
ゆかりの声ではないか?
俺はリビングに急いで入った。
リビングでは見知らぬ中年の女が、ゆかりを叩いていた。
「あなたは、しつけがなってない!
あの女にそっくりだわ」
そんなことを言いながら、ゆかりの頭を叩き、背中を蹴っている。
「何してんだ!」
俺は、ゆかりをさらに叩こうとする中年女の腕をつかんだ。
幼い子どもが大人にぶたれている。
あってはならない状況ではないか?
中年女は俺を見て言う。
「あらっ、洋ちゃんおかえりなさい」
甘い声を出す。
「なぜ、ゆかりを叩く?お前は母親か?」
「洋ちゃん、何言ってるの?そういうの学校で流行ってるの?」
「なぜ叩くか聞いている」
俺は女の腕を強く握った。
「痛い!洋ちゃん離して。この子が言うことを聞かないから、しつけていただけでしょ。いつもやっているじゃない」
「しつけ?」
「背中を丸めてお菓子を食べていたからみっともないって思って」
「なんだそれ」
俺は小夜子の腕を離してやった。
「私が悪かったの。ごめんなさい。小夜子さん」
ゆかりは目に涙をためて、泣いていた。
「小夜子さん?」
俺はわけがわからなかった。
こいつは母親じゃないのか?
小夜子からはどす黒いオーラが広がっていた。
子どもを愛する母親のオーラではない。
「子どもに暴力を振るってはいけない」
俺は小夜子の目を見て説教した。
「洋ちゃん、なんだか......おかしい」
小夜子は怯えたような目をする。
「洋ちゃん。お母さんがいなくて寂しかったのね?」
やはりこの女は、洋平の母親なのか。
「ちょっと痩せたんじゃない。平林さんちゃんと料理してるの」
俺の両頬に手を当てる。
「お母さん、今夜から大阪で講演会があるの。
またしばらく留守にするけど。大丈夫かな」
「大丈夫だ。とにかく二度と暴力は振るうな。こんなに怯えている」
俺はゆかりをみた。
ゆかりは床にぺたんと座ったまま震え、頬は涙で濡れていた。
道元と言い、この母親と言い、どうやら洋平の周囲には「暴力」の影がつきまとっているようだ。




