13_下手に闘うよりも逃げるほうが賢い
放課後、道元は怒りが収まらないのか、俺に話しかけてきた。
「おい、川田?わかっているだろうな。帰りに教室に残れ」
「誘ってもらって悪いけど今日は早く帰りたい。筋力を鍛える」
俺はシッシと道元を追い払った。
道元と闘ってみて分かった。
今の洋平には筋力も体力も足りない。
正直言うと、道元とその取り巻きが本気でかかってきたら、危ういかもしれないという予感があった。
危ういというのは、負けるという意味ではない。
手加減できるか分からないという意味だ。
本気を出すとなると、致命傷を追わせてしまう。
だから手加減して闘わなければならない。
となると、圧倒的に洋平の実力は不足していた。
道元の挑発には乗らない。逃げるべきだ。
セルパンは、悪の権化だし、卑しい影の存在だ。
契約した人間の魂をいただく。
だけど、生きている人間を傷つけたりはしない。
生身の人間が苦しむ姿を見るのは、俺は好きではない。
俺は優しい魔物なのだ。
「お前......後悔するぞ」
道元は俺をにらみつけると去っていった。
「有理!今日はアルバイトなのか?」
俺は帰ろうとしている有理に話しかけた。
人間界にいる間、せっかくなのだから、有理との時間を楽しみたかった。
「うん。今日はバイト」
「たしか仕事は、お茶屋さんだよな?」
「えぇっ、お茶?違う。カフェだ」
「俺と駅まで一緒に行こう」
「あはっ!いいけど。陽子も一緒だよ?」
「川田くん!今帰り?一緒に途中まで帰らない?」
典明が話しかけてきた。
「いいけど。有理と陽子も一緒だよ?」
俺は有理のマネをして答えた。
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有理と俺、それに陽子は3人で歩いていた。
後ろに、典明も着いてきていた。
「......お前たちはなにか、運動部に入っていないのか?」
学生といえば、放課後に運動をするものだと俺は思っていた。
「運動はいってない。あたしはバイトだよ?」
有理が言う。
「僕はメディア部にはいってるんだけど、あまり活動してない」
「メディア......?ふうん。陽子は?テニスとかバレーボールとかやってないのか」
「あたしは、軽音に入っていたけど、止めたんだよねぇ、気が合わないやつがいて」
「なんだ。有理は良いとして、お前らは体を動かすべきじゃないのか」
「デブの洋平に言われたくないんだけど」
陽子が鼻で笑う。
「洋平は、空手をやればいい。合気道もいい」
有理が言う。
「俺はもう技を極めているからな。これ以上教わることもないし」
「お前スゲー強気だな。でもなんかこのままじゃ終わんない気ぃするよね」
陽子が言う。
「笹山って、しつこいじゃん?」
「何度きても、やることは同じだよ?」
俺は平然と答える。
「ひとつ、気になるんだけど」
俺は有理と陽子のほうを見ながら言った。
「道元は、有理が好きなのかな?」
それを聞き、陽子が笑う。
「今気づいたん?おっそ~!有名なハナシじゃん
笹山って、しょっちゅう、北条~。北条~。ってしつこいよね」
「あたしは、嫌だ」
有理は頬をふくらませた。
「有理には手出しさせない。俺が許さないよ」
俺は有理を見つめながら言った。
「洋平......えっと」
有理が俺を見上げる。
「かっちょいいなぁ!お前!マンガみたいなセリフじゃん」
陽子が俺をからかう。
「川田くん、川田くん、ボクにも教えてほしいな。あの腕をひねり上げるやつ」
後ろから典明が言う。
「典明は背が低いから、タックルとか金的蹴りがいいかもしれないな。
けど、何かあれば逃げるのが一番だと思う」
俺は典明に答える。
実力差があきらかなら、下手に闘うよりも逃げるほうが賢い。
ほとんどの場合がそうだ。
俺も今日は、道元とその取り巻きたちから逃げることにした。
「そんなぁ!僕もエイってやってみたいんだけどな」
典明はそんなことを言う。
「お前はちょこまかと逃げるのが良いんだよ」
陽子が典明をからかっていた。




