12_いにしえから伝わる呪いの言葉
道元が自分の机を見て大声を出していた。
「なんだよこれ!?」
思わず「ククク」と邪悪な笑いが漏れてしまったが、なんとか隠した。
「うわ!道元の机......でも、なんだか、カッコいいな」
道元の取り巻きの一人、犬山が言う。
「なんだ?英語じゃないよな。何語?これ。印刷されたみたいな、きれいな文字だ」
俺は、セルパンの中でも美文字が書けると有名だった。
光栄に思え。道元。
道元は自分の机を見て、苛立っていた。
「誰がやったんだよ!」
大声を出してクラスを見回す。
なぜか道元は俺がやったとは思いもしないようだった。
「誰がやった!?」
道元は、うるさくわめき散らす。
「笹山。怒鳴る。怖いよ?」
有理が立ち上がると、道元にそう言った。
「また北条かよ。お前、俺のこと好きなのか?」
道元がニヤニヤ笑いながら有理の方に近づく。
俺は立ち上がった。
汚らわしい道元が有理に触れるのではないかとヒヤヒヤしたのだ。
「道元。有理から離れるんだ。俺が書いたに決まっている」
俺は机から立ち上がると、道元と有理の方へと歩いていった。
「なに?川田が?」
道元が驚いたような顔をする。
「そうだ。お前が俺の机に書いてくれたから、そのお返しだよ」
「有理。危ないから離れてて」
小声で有理に話しかけた。
クラスのみんなはシーンとして、俺たちを見ていた。
廊下側の窓からは別のクラスの奴らまで見に来ている。
人が人を呼び、どんどん増えていた。
「お前、なんでこんな」
「気に入った?いにしえから伝わる呪いの言葉。お前はバカだから読めないと思うけど」
フッと笑いが漏れてしまう。
「お前、なんだか知らねーけど、いい気になるなよ」
バカと言われて図星だったのか、道元は顔を赤くして怒り、俺に殴りかかる。
「川田くんっ」
典明が叫ぶ。
脂肪のカタマリの中に閉じ込められはしたが、俺は古武術の達人の魂を持っている。
殴りかかってきた道元の突きを受け流し、その手首をつかむ。
そして、ひねり上げた。
「イテ!いてぇよ!」
道元は手首の関節を決められて、床に転がるとジタバタとしている。
「ハハハ。痛いか。お前の突きは時間遅延の魔法が効いているのかと思った」
「おい。犬山!佐々木!」
道元が取り巻きを呼ぶ。
取り巻きの二人がこちらにやってきた。
俺は道元の手首をキメたまま、近づいてきた犬山と佐々木をにらみつける。
子ども同士の喧嘩だ。
打撃はせずに、なるべく関節技でキメなければ。
だが......。
「おーい、なにやってんだ?授業始めるぞ」
例によってまた、学生の本分の始まりのようだ。
俺は道元の手を離した。
「強くなりたかったら、俺に弟子入りすればいい」
道元にそう言いながらウィンクした。
道元は顔を赤くして唸った。
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「あいつら弱いな?」
俺は席に座りながら、陽子に話しかけた。
陽子は
「あんた、別人みたいだね。急によく喋るようになったし。
いままで、声もめったに聞いたことなかったのに......」
と言い、じっと見つめてきた。
その視線は、今までのようなバカにした雰囲気はなかった。
そうだ。
俺は今までの川田洋平ではないんだ。
中身が入れ替わっている。
俺は今までの洋平を知らないし、知っていたとしても洋平のフリをするつもりは、無かった。




