108_パーティがはじまる
「洋平、ゆかり。準備はできたのか」
義理の父親の川田高次が2階の書斎から降りてきた。
「はい。できています。お父さん」
俺とゆかりは立ち上がる。
「あっ。こんにちは。北条有理です」
有理は立ち上がると、高次にあいさつした。
「こんにちは、北条有理さん。洋平の同級生だね。今日は来てくれてありがとう」
高次は有理に向かってにっこりと笑った。
川田洋平の母親の小夜子はゆかりに暴力を振るうような女だった。
しかし、父親の川田高次は常識的で落ち着いた男のようだ。
巨大企業の次期社長だと言うが、そういった大物のオーラも感じられない。
勤勉さと誠実さ。
オーラからはそう言ったものしか感じられなかった。
高次は親の跡を継いでエスカレーター式に権力者になった男だ。
おそらく抜きんでた決断力やカリスマ性はとくに持ち合わせていないのだろう。
「小夜子さんは......お母さんは今日は来れないの?」
ゆかりが恐る恐る高次に聞く。
「あぁ。お母さんは今日は大阪でラジオ番組の出演があるから」
ゆかりはホッとしたような顔をする。
俺もホッとしている。
小夜子に有理を見られずに済んだ。
「さぁ行こうか」
家の前に停まっていた車にみんなで乗り込んだ。
------------------------
パーティの会場は、都心にひっそりと建つ古い洋館だった。
大正時代に建てられたものが何回か修復され、いまの形を保っているという。
広い庭園も備えていて、迷路のような植え込みと大きな噴水からは水がいくつも吹き出ている。
じゅうたんのような芝生ときれいに手入れされた庭木が配置されていた。
主催者の一人が先祖代々保有している物件らしい。
建築様式としても貴重なものなので、研究者向けに館内を公開することもあるという。
「お前たちを関係者に紹介したあと、私は高山先生や河内グループの幹部と話がある。帰りたくなったら駐車場に飯島さんが待機しているから、声をかけるといい」
高次は俺たちを見ると、そう言った。
「わかりました」
さて、支配者はどこにいるのか。
俺はあらかじめ、支配者の顔や名前を頭に刻み込んできたのだ。
広間を素早く見回した。
いまのところ、それらしき姿は見当たらなかった。
有理は壁にかけられた絵画をじっくりと見ている。
その横顔はうっとりするほどきれいだった。
俺は有理に話しかけた。
「有理。今日はこないだみたいに危険な目にあったりしない。
前みたいに手を握って教えたセリフを念じるだけでいいんだ」
「そうか。でもなんなのか。洋平。ワケを話せ」
有理はためいきをついた。
「そうだよな。ほんとごめん」
俺は頭をかいた。
「約束して。明日。そうだ明日。話すって」
有理は絵画から視線を俺にうつした。
「明日!?急だな。......うん。でもいいよ。分かったよ」
「洋平、ゆかり。こっちに来なさい」
高次が俺たちを呼び寄せた。
俺やゆかりは、高次の会社の役員や他の会社の誰だかに次々に紹介された。
その間、有理は広間に飾られた絵画や美術品をみてうれしそうにしていた。




