106_服従の印の解除と救出と
夏休みというやつが始まっていた。
学校は休みで、有理とは毎日会えない。
毎晩、彼女に電話はしていたけど、顔を見れないのがつらい。
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俺は暗黒世界で働いていた。
昼すぎに瞬とナナがやってきた。
瞬とナナは二人並んでカウンター席に座った。
「お前、今日は河原での訓練に来ないで、ここでバイトかよ」
「そうだよ。だって暑いからさぁ。
それに俺は、毎朝5時には河原でトレーニングを終えてる。
そうだ、次から朝、訓練しよう?」
「あー、朝は無理だわ」
瞬が、首をふる。
「あたしは、いつでも大丈夫よ」
ナナがにっこりと笑う。
「そういえばセルパンの救出はどうなってるの?」
「うん。それなんだけど。ちょっと進展があった」
「おっ?なにか分かったのか」
「服従の印の支配者に近づけそうなんだ。印の解除ができるかもしれない」
「どういうことだ?」
瞬が身を乗り出した。
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「川田洋平の義理の父親がドイツから一時的に戻ってきたんだ」
「へえ。そうなん。お前の父親はいままで、家にいなかったんだ?」
「うん。いなかった。父親の川田高次は、妹のゆかりにとっては実の父親なんだ。
だから、ゆかりはすごく嬉しそうにしてるけど」
「ふうん、それで」
瞬が、早く話せと先をうながす。
「それでさ。日本にいる間、うちの父親が、政治家や起業家なんかがあつまるパーティに出席するんだ」
「パーティ?」
「そう。そのパーティの参加者名を父親のパソコンをのぞいたときに偶然見た。
なんだか、見覚えのある名前があるなぁって思って、目に入ったんだよ。
子どもをさらった服従の印の支配者がパーティに参加するんだ」
「おぉ!それはチャンスだな」
「パーティには家族も参加できるらしくて。
俺は父親に頼み込んでそのパーティに参加することにした」
「支配者に近づくチャンスね」
ナナが目を輝かせる。
「だけどよ。服従の印の解除ができるのは......」
「そうだ。有理だけだ」
「パーティにガールフレンドを連れて行っていいか、父親に聞いたんだ。
そしたら構わないと言われた。
俺は有理とパーティに参加して印の解除にうごく。
瞬とナナは、支配者の自宅を調査して、囚われの少年セルパンを探してほしい」
瞬とナナは、俺の話を聞いてうなづいた。
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「ナナは最近、しょっちゅう人間界に降りてくるね?」
俺がナナにそう言うと、ナナはにっこりと笑った。
「だって瞬のことが好きなんだもの」
気づいていたけど。
ナナはやっぱり瞬に心を奪われている。
セルパンは滅多に恋に落ちることはない。
だが一度恋に落ちるともう相手を離さない。
ナナはよりによって人間の瞬に心を奪われた。
レザールがこのことを知ったら、どうなるだろう。
瞬が氷漬けにされるのは見たくない。
俺はためいきをついた。
「ナナ。レザールはこのこと、知ってるの?」
「言ってないわ。瞬が氷漬けにされたら困るもの」
「だよなぁ」
俺はマグカップを片手に、丸椅子に座った。
「瞬は、不良だし遊び人だよ?こないだも一晩中女と遊んだって言ってたし。
それにケンカ好きだし勉強はまったくしない。タバコのポイ捨てはするし酒も飲む」
俺は瞬の目の前でヤツの悪口を並べ立てた。
瞬はだまって、肩をすくめていた。
全部事実だから反論はできないはずだ。
「あたしはそんな瞬が好きなのよ。他の女と遊んでいるのは悲しいけど。
いずれあたしだけのものにしてみせるわ」
予想通り、ナナはまったく動じなかった。
セルパンがだれかを愛すると、こうなってしまう。
「うーん。俺も人間の有理に心を奪われている。
だから、ナナに説教するような立場じゃないけどさ」
「そうよ。ルイ!あたしたちは仲間だわ」
ナナが突然、立ち上がり俺に握手を求める。
俺はナナの手を握り返した。
「おい、変な仲間意識、もつなよな」
瞬が呆れたような声を出した。




