103_解放
神様。
どうか有理を守ってください。
俺は生まれて初めて神に祈った。
道華が男3人と戻ってきた。
「この子よ」
道華が有理を指差す。
「誰?誰ですか」
有理は上半身を起こしているが足が動かない。
男が有理の肩を乱暴に押して、ベットに寝かせた。
「怖いよ。洋平っ!」
有理は俺のほうに手を伸ばした。
(有理!落ち着いて。がんばるんだ!)
俺は見ていられなくて思わず目をつぶりそうになる。
だめだ。
有理から目をそらしてはいけない。
俺が目をそらしたり不安そうな顔をすれば有理はパニックを起こす。
「洋平っ。助けて」
俺は、有理をしっかり見つめた。
涙であふれている有理と俺の目が合った。
(ほら、言ったとおりにするんだ!有理)
「そうだった!道華さん。笹山のお姉さん!」
有理が道華を呼ぶ。
「こっちに来て!道華さん!」
有理は懸命に道華を呼ぶ。
「なによ?なんなの」
「道華さん。見てほしいものがある!」
男に服を脱がされながら、有理は必死に道華を呼んだ。
「見てほしいもの?なんなの」
道華は有理のそばへと歩いていった。
有理の下着を脱がそうとしていた男の手が止まる。
「手を......手をこっちに。渡すから」
有理は道華のほうに手を伸ばした。
「渡す?なにを?」
道華は有理のほうに左手を伸ばした。
道華は左利きだった。
左手にムチを持っていたし、食事のときも左手をよく使っていた。
俺を叩くときも左手が多かった。
有理は、男に馬乗りになられたまま、道華のほうに手を伸ばす。
有理の手が道華の左手に触れた。
有理は思い切りグイッと道華の左手を自分の方に引っ張った。
「笹山道華。ただちにルイス・ベルナルドを解放せよ」
有理は道華の左手をつかんだまま、そう叫んだ。
その言葉は力強くなめらかだった。
瞬間、俺には見えた。
有理の目の奥が白く光ったのだ。
(うまくいった!うまくいったんだよな?)
俺はまた、神に祈った。
俺を縛り付けていたロープがようやく緩んできていた。
だがまだ動けない。
足のロープをこっそりほどかなければ。
有理の体から、白く眩しい光が放射状に発せられた。
「うっ!」
有理に馬乗りになっていた男が、顔をしかめる。
「なんか、光が見えた気がする」
「光?そんなもの見えなかったわ。
一体なんなのよ。その子、頭が弱いのよ。
早く、痛めつけなさい」
道華は首を傾げている。
男は有理の頬を思い切りたたいた。
「どうしてぶつの?いやだ!やめて」
有理は両手で自分の顔をカバーしようとしたが、別の男に両手を抑えられてしまう。
無防備になった有理の体に男の手がふれる。
「触らないで。やだよ。洋平!たすけてよ」
ロープが完全に外れた!
俺は椅子から立ち上がり、有理に触れる男の襟首をつかむ。
男のこめかみを、思い切り殴りつけた。
背後にいた懐からナイフを取り出そうとする男めがけて、後ろ回し蹴り。
顔面に突きを入れると男は尻餅をつく
「ルイ!そこまでよ。椅子に戻りなさい」
道華が俺に命令する。
道華の命令が耳に届いた。
だが、俺は、男たちを殴り続けた。
「なぜ!?言うことを聞かないの.......えっ!服従の印が!!服従の印が消えている」
道華が自分の手の甲を見て慌てている。
俺は男たちを殴り倒しながら、有理に叫ぶ。
「有理、逃げるから服を着て」
「わかった」
有理は動かすことのできる手で、脱がされた服をかき集めた。
3人の男は、床にうずくまってうめいている。
俺は、呆然と立ち尽くす道華をにらみつけた。
「道華。お前は俺のいちばん大切なものに手を出した」
小声で呪術をつぶやく。
手のひらに俺の蛇が出現する。
「俺のことを傷つけるのはかまわない。
でも有理に手を出した。もう許すことはできない」
俺は部屋の壁際に道華を追い詰めると、肘で喉を押さえ、彼女を壁に押し付けた。
左腕は道華の喉をおさえ、右手で蛇をあやつる。
うめいていた男のひとりが、背後から忍び寄る気配がする。
俺はすばやく振り向いて、右手で昏睡の呪文を掛けた。
男は、床に崩れ落ちる。
ふたたび、道華の方に向き直った。
「あ、あたしにはセルパンの呪術は効かないわ」
道華はそういうと蛇から目をそらす。
「俺の呪術はきつい。逃げられる人間はそういない」
呪術を唱え続ける。
蛇が道華の鼻先まで近づく。
「くっ......」
道華の目に恐怖の色が浮かんだ。
呪術にかかったのだ。
「蛇の毒で死んでもらう!」
道華の喉元に、蛇が牙をむく。
「だめだ!洋平」
背後から有理の叫び声が聞こえた。
「殺さない!だめだ」
俺は首だけ有理の方に振り返る。
有理は、薬が効いていて足が動かない。
はうようにして、ベッドから降りようとしている。
「有理。道華は一線を越えた。殺さなければいけない」
「だめだ。洋平。殺す。だめだ」
有理はベッドから降りると、床をはって俺の方に近づいてくる。
「有理。来るな。見ないほうが良い」
「だめだ。殺したらだめだ」
有理は両手で床をはって、俺の足元まで来た。
そして俺の足に抱きつく。
「殺したら洋平。嫌いになる」
「......っ。有理......」
俺は道華の怯えた顔を再びじっとみる。
こんなに怯えている道華は初めてだった。
その姿は、ただの怯えた若い女だった。
道華に言う。
「服従の印は解除された。今後、有理に危害を加えれば俺は、お前のことを必ず殺す。
有理に何かあればお前の仕業だと考える!
もう二度と俺の前に姿を表すな」
「逃げよう」
俺は、俺の足元にいる有理を背負い、彼女の荷物のリュックを拾い上げた。
そして部屋から飛び出した。




