102_真実
「......よ......へい」
道華に髪を触られた有理は、うわ言のように俺の名前を呼んだ。
「道華。なんでもする。願いも叶えるし、奴隷でいる。
だから、有理を解放してほしい」
「あなたは私を裏切った罪を償うべきよ」
「俺が裏切るのは、最初から分かっていたって、さっきそう言ったじゃないか」
「フフフ。そうね。そのとおりよ。裏切られたことにショックは受けてない。
それじゃ真実を言うわね」
「真実?」
「あたしはあなたの苦しむ顔が好き。だから彼女を痛めつけたい」
「そんな」
道華は異常だ。
「苦しむ顔が見たいなら、俺を痛めつけろ。俺の手足を切り落とせ。指を一本ずつ切り落としてもいい。有理は関係ない。彼女は何も悪くない」
「そうね。彼女は悪くないわ。あなたに愛されてしまった。強いて言うなら運が悪い」
「くそっ!道華、お前を許さない。お前の死後、かならず魂を八つ裂きにしてやる」
「そう?楽しみにしてるわ」
道華はうれしそうに笑うと立ち上がった。
「男たちを呼んでくるわ」
「男たち?」
「あたしとあなたは、彼女が痛めつけられている様子を眺めるのよ」
「道華!やめてくれ。有理は純粋な魂の持ち主だ。そんなことされたら壊れてしまう」
「そうなのね。それならなおさら楽しみね」
道華はそういうと、部屋のドアから出ていった。
「有理!有理!」
俺は有理に向かって声をかけた。
「う.....ん」
有理は眉間にしわを寄せて、うなっている。
俺は道華と会話しながら密かに、縛られた両手のロープをゆるめていた。
まだ動けない。
でもあと少しで外れそうだ。
しかし仮に、ロープが外れたところで道華が戻ってきてしまえば意味がない。
道華に「大人しく座っていなさい」と言われれば、俺は言われるがまま、座っていることになる。
どうしたらいい。
グースもリザベルも俺をスコープで覗いてくれていないようだ。
見ているならとっくに助けに来てくれているはずだ。
「有理、目を覚まして。起きて逃げるんだ」
有理が起きて、逃げてくれれば良い。
そう思って俺は有理に声をかけ続けた。
「よう......へい。......あれっ、ここどこ?」
有理が目を覚ました。
ここがどこだか分からず、目をキョロキョロさせている。
「有理。落ち着いて」
「洋平?あっ、あたし。お花。落としたんだ」
有理は自分の手のひらをじっと見ている。
「お花!あぁ。ごめんなさい」
「有理。花のことは忘れるんだ」
「いやだ。嬉しかったのに」
そう言うと有理は泣きそうな顔になった。
まずい。
パニック一歩手前だ。
まずは落ち着かせなくては。
「あぁ。お花。落とした」
「大丈夫。きっとまだあそこに落ちてるよ」
「まだ落ちてる。きっと」
「そうだよ、あとで拾いに行こうね?」
「うん。行こう」
有理は少し落ち着いたようだった。
「有理、起き上がって立てそう?」
有理が上半身を起こした。
「いいぞ。立って。ドアまで行って」
「無理だ。足が動かない」
「そんな」
「どうして?洋平!足が動かないよ」
有理は強い薬を飲まされたんだろうか。
これでは彼女一人で逃げるのは絶望的だろう。
「大丈夫だよ。時間が立てば、足は元通りになる」
「でも。どうなってる。ここはどこだ。人たちが車に乗せた。無理やり」
有理は涙目になっていた。
「有理。落ち着いて、時間がない」
「洋平。ここはどこだ」
「有理。深呼吸して」
俺がそう言うと、有理は素直に、深呼吸し始めた。
「これから少し、怖いことが起きる。
だけど、きっと切り抜けられる。一緒にがんばろう」
「怖いこと?嫌だ。怖いのは苦手なんだ」
有理は涙を流しながら首をふるふると横にふる。
「有理、勇気を出すんだ。
俺は道華にイジメられている。俺をイジメるやつをやっつけるって前に言ったよね?」
「うん。やっつける」
「だったら、できる。有理。これから俺の言う事をしっかり聞いてほしい」
「でも」
「有理。がんばるんだ!有理は俺を守ってくれるって言った。今がそのときなんだ」
有理は人を助けるためなら、勇敢な行動ができる。
可哀想だけど今は突き放すようなことを言ってでも、彼女の気持ちを奮い立たせるしかなかった。
有理は目をふせてしばらく黙り込んだ。
やがて俺としっかり視線をあわせてくれた。
「洋平。あたし、なにをする」
「俺がこれから言うこと......有理にとって疑問でいっぱいになると思う。
必ずあとで全部、説明する。もう誤魔化したりしない。でも今は時間がないから。
疑問に思うと思うけど、とりあえず、俺の言う通りに実行してほしい」
有理に話しながら俺はロープをゆるめようと、もがき続けた。
でもロープはまだ外れなかった。




