101_支配
「有理は関係ない。俺は大人しく捕まるから有理は解放しろ」
「この子にも、あなたにも用があるのよ」
「いやだ!んっ、うっ、ゴホッ!」
有理はナイフを突きつけられたまま、無理やり何かを飲まされていた。
「おい!有理に何を飲ませた」
「睡眠薬よ。念のため、あなたも薬を飲んでちょうだい」
道華が俺に水を渡した。
「飲みなさい。さぁ」
「こんなもの、飲まない」
服従の印の効力で、俺は道華の言いなりだった。
言葉とは裏腹に、言われるがまま水が口に運ばれる。
変な味がした。薬が入っているのだろう。
「お花が」
有理は道路に落とした花束にむかって、懸命に手を伸ばそうとした。
だが男たちに背中を押されて拾うことは出来なかった。
車の後部に乗せられた。
「どこへ行く。どうなってる?」
有理は不安そうに目をキョロキョロさせている。
俺は安心させようと、有理のほうへ手を伸ばそうとした。
そこで記憶が無くなる。
気がつくと、ホテルのような部屋で目覚めた。
俺は椅子に縛り付けられ、有理はベッドに寝かされている。
目の前には道華が立っていた。
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「ルイ。あたしを裏切ったわね。
でも驚きはしなかった。
あたし、あなたのこと、最初から信じてなかった。
オモチャにして、遊びたかっただけ」
「俺がお前を裏切るのは、最初から分かっていたってことか」
「あたりまえじゃない。前も言ったでしょ。あなたは表情に出やすい。
嘘はつけない。わかりやすいのよ。一生懸命、冷酷なふりをして演技していたのはとても可愛かったわ」
道華は俺の両肩に手をおき、目をのぞき込んできた。
「でも、ミーネの裏切りは予想できなかったわ。
そしてもちろん、ミーネとあなたが手を組むのも予想できなかった。
あなたたちは、対立しているように見えたから。
そこは油断していた」
「それで......どうするつもりだ!有理に手を出したら許さない」
道華はベッドで仰向けに寝ている有理に視線をやった。
「彼女のことを愛してるのも、すぐに分かったわ。
障害者みたいだけど。あなたにとっては特別な子なのね」
「......っ」
「あなたを拉致して、いじめて、楽しむのは簡単。
あなたは、服従の印で私に支配されているもの。
いくらでも、あたしの好きにできるはずよね?」
道華は自分の手の甲を、俺にみせた。
たしかに印は完成していた。
不完全だったはずの印が完成してしまった。
俺は道華の命令に逆らえないし、彼女を傷つけることはできない。
彼女の奴隷になったのだ。
道華は指先で俺の頬をゆっくりと撫でた。
恐怖で鳥肌が立った。
「口を開けなさい」
彼女は、俺の口の中に自分の指を入れた。
彼女の指が俺の前歯にゆっくりと触れた。
「あたしの指を噛みちぎる?そうすれば逃げられるかも」
「......」
道華を上目遣いでにらんだ。
口に力をこめようとした。
だが道華の指を噛みちぎることは、できなかった。
(彼女に危害を加えてはいけない)
そう考えている自分がいた。
「ふうん。やっぱりあたしに攻撃はできないようね。
わたしもセルパンを従えるのは初めて。
どの程度まで命令が有効なのか、手探り状態なの。
あなたにいろいろ試してみるのが、楽しみで仕方がない」
道華は口から指を抜き取ると、俺の顔を乱暴につかんで激しいキスをしてきた。
ふっ......はっ、はぁっ
恐怖で心臓が爆発しそうだった。
道華は俺の髪をひっぱり自分のほうに顔を向かせた。
「ルイ。とても会いたかったのよ?」
「俺は二度と会いたくなかった」
奴隷だが、口ごたえはできるようだった。
髪をつかんだまま、道華は俺を殴った。
「ふふふ。無抵抗で支配されているあなたを、いたぶるのは簡単過ぎる。
わたしは、あなたをもっと、深く傷つけたいの。
だから愛する彼女をあなたの目の前で痛めつけてあげる。
それが一番、あなたが傷つくことだから」
「ちがう。その子のことは別に愛してなんかない」
「ルイ。何度言ったら分かるの。あなたの嘘はすぐに分かる。
こうしてみると、きれいな顔の子ね。あたし、女の子も好きなのよ」
道華はベッドに腰掛けると、気を失っている有理の髪に触れた。
「やめろ!有理に触るな」
道華をにらみつける。
すると道華はうれしそうに笑った。
「そうよ。その表情が見たかったの!
恐怖に耐える顔も可愛いけど、やっぱりルイはその表情が良いわ」




