100_有理の誕生日の夜
夜19時。
有理の働くカフェの前で、彼女を待ち伏せしていた。
有理とは、ぎこちない関係が続いていた。
有理は「何が起きているのか知りたい」と言う。
だけど俺は、話すのをためらっていた。
話すのなら、自分の正体、川田洋平に憑依した理由、全てを話さなければいけない。
有理は川田洋平の死に関わっている。
話の内容は、とても重いものだ。
有理の運命さえ左右する可能性がある。
いずれ話そう。
そう思いながら先のばしを続けていた。
シルクハットに言われことも、もちろん気になっていた。
「彼女を導け」
やつはそう言った。
でも正直言って、俺には自信がなかった。
本当のことはまだ話せないけど、有理と元通りになりたい。
もっと普通に会話がしたい。
デートしたり、みんなで遊んだりしたい。
俺は、そんなムシのいい考えを持っていた。
その日は有理の誕生日だと、陽子から聞かされていた。
有理と陽子が愛し合っているのかどうか。
それは分からない。
だけど、気にしても仕方がない。
俺は俺のやり方で、有理に好きになってもらうしかない。
花束を持って、有理のバイトが終わるのを店の前で待っていた。
「洋平!?びっくり。いたんだ」
有理は、店の裏口から出てきた。
「うん。待ってた。有理、誕生日おめでとう」
体の後ろに隠していた花束を有理に見せる。
「わぁっ。すごい!きれい」
有理は目を丸くして喜んでくれた。
「ありがとう。洋平」
「有理の家まで一緒に歩こう?」
「うん.....」
有理はちょっと緊張した顔で俺を見上げた。
「洋平。瞬間移動。道華さんのこと。話して」
「俺は超能力者ではない、ってことだけは言える。いやしい生き物なんだ。そんな説明じゃダメかな?」
有理はため息を付いた。
「洋平は誤魔化す」
「違うんだ、話せばものごとが良くない方向に進む気がして」
公園の前まで来た。
「公園は通らない」
有理が言う。
「消えたら困る」
有理は突然俺が消えたことがよほど怖かったらしい。
「公園を通るからって、消えたりしないと思うけど......でもいいよ。こっちから帰ろう?」
有理と手をつなぎたい。
だけど、拒絶されそうで勇気が出なかった。
「洋平が話したくない。あたしのこと好きじゃないからだ」
有理が思い切ったように、そんなことを言った。
「えっ?」
びっくりして有理の顔を見る。
「洋平は隠している。隠しごと。おかしい。好きだったら、何でも話す」
「好きだからこそ、話せないこともある......」
俺は有理から目をそらした。
「そんなの、おかしい!」
「おかしくない。俺は有理を大切に思ってる。だからこそ、言えないんじゃないか」
「嘘だ!隠しごとしてる、嘘つき。洋平はダマしてる。好きじゃない」
「ダマしてる?そんなつもりない。それは違う」
「洋平はあたしのこと嫌いだ!好きだったら嘘つきにならない」
「有理はどうして、そうやっていつも俺の気持ちを疑うの?」
「ほんとのこと知りたい!ぜんぶ!」
有理は強い口調で言った。
「話せないこともあるって、どうして分からないんだよ!」
俺も強い口調で言い返してしまった。
とうとう喧嘩になった。
有理は花束を両手に抱えたまま、そっぽを向いて口をとがらせている。
(好きだっていくら言っても信じてくれない)
俺も腹が立ってきて、そっぽを向いて無言になった。
その時だった。
黒いバンが俺達の前に止まった。
中から数人の男たちが素早く飛び出してきた。そのうちの一人が、有理を羽交い締めにする。
「うわぁ!」
有理が驚いて叫んだ。
花束が地面に落ちる。
「有理っ」
俺を背後から羽交い締めにしようとしてきたやつの顔面に裏拳を打ち込んだ。
さらに、みぞおちに肘打ち。
正面から来た男の大ぶりのフックを身をかがめて避けながら膝蹴り。
さらに殴りかかってきたヤツのパンチを受け流して腕をひねり上げた。
そのとき、別の車の中から道華が現れた。
「暴れるのは止めなさい。ルイ」
「道華......!」
「暴れたら、この子の顔に傷あとが残るわよ」
有理の頬にナイフが当てられていた。
「有理を離せ」
「迎えに来たのよ、ルイ。服従の印は完成している。
あなたはもう、私のものなの」




