10_カラスと協定を結んだ
家事代行という人間がつくった料理を食べる。
「洋平さん、もう食べないんですか。いつもなら.......」
平林さんが俺に聞く。
「もういいかな」
洋平の胃袋は底なしで食べ物を求めていたが、俺の魂はもう十分と判断した。
洋平の肉体であれば、断食をしても3日くらいは生き残れそうだ。
今後は死なない程度の食事と水で過ごす。
そう決めた。
こんなに太っていては動きにくい。
体重を減らしたい。
筋力もつけよう。
洋平の肉体からは数か月で抜け出るつもりだけど、なるべく快適に過ごしたい。
その日、ゆかり以外の家族には出会わなかった。
父親と母親はどこにいるのだろうか。
ゆかりは不安そうに俺の様子を見ている。
これ以上は、ゆかりから情報を引き出すのは難しいと感じた。
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翌日。
俺は日の出とともに目覚め、全力疾走を行った。
全身から汗が吹き出し、肺と心臓は悲鳴を上げていたが、かまわない。
俺の魂についていけないのなら、肉体よ、滅びれば良い。
その後、川沿いの心地よい空間を見つけ、腕立てや腹筋を行った。
ついでに草むらでトカゲを捕まえ、お守りにする。
さらに、近隣のカラスをまとめるリーダー格のカラスと協定を結んでおいた。
やつらは人間界にいる間、俺の味方になると約束した。
その代わり俺も、やつらにときどきは、食い物をやる約束をした。
家に戻り、汗の匂いに我慢がならずシャワーを浴びる。
朝食のときに妹のゆかりが俺に声をかけてきた。
「お兄ちゃん......変な病気治った?」
「いや。まだちょっとおかしいかもな」
ゆかりは、泣きそうな顔になる。
「もとに戻ってよ。ねえ、久しぶりに学校一緒に行こっか」
「お前は中学生だろう。俺とは別の学校のはずだ」
「なに言ってんの?月ヶ丘学園中等部だよ?
お兄ちゃんは、同じ学校の高等部でしょう」
はーん?
よくわからないが、ゆかりの中学と俺の通う高校は、同じ場所にあるようだ。
「お兄ちゃん。なにかのお芝居の練習してるんだよね?」
電車のなかでゆかりが不安そうに俺に聞いてくる。
「いや。本当に記憶があやふやなんだよ。いろいろ教えてくれると助かる」
「うーん。病院にいかなくて良いのかな。
分かった。今日、家でまた話そう。計画の途中だったよね?」
「計画......?」
「それも忘れちゃってるの?」
ゆかりはまた泣きそうな顔になった。
学校の最寄りの駅に着くと、ゆかりは自分の友だちを見つけて、そちらに行った。
駅を出たところで、ふわりと空から一羽のカラスが俺の肩に舞い降りた。
今朝、協定を結んだカラスの親玉だった。
「お前、何の用だ?」
(あるじ。敵が来たら我々はいつでも闘う用意があります)
「物騒だな。人間は傷つけるなよ。お前たちとの協定は念のためだ」
俺は親玉とブツブツと小声で話した。
しばらく歩くと有理の背中を見つけた。
有理はオーラが白く輝いているので、群衆の中でもすぐに見つけられる。
「有理!おはよう」
「洋平、おはよう」
有理が元気良く振り向く。
なんて可愛いんだ。
俺は思わず目を細める。
闇の存在には笑顔がまぶしすぎた。
「うわぁ!カラスだ。びっくり」
「あぁ、これか?」
有理が怯えた顔をしている。
「これは、家臣のようなものだ。行けっ」
俺は腕を振って、カラスを遠くへ追いやった。
「頭は大丈夫」
「問題ないよ」
「おはよ、有理。うわっ、川田じゃん、キモッ」
有理に近寄ってきた女が、俺を見て顔をしかめる。
「お前は誰だ。俺に話しかけるのなら名を名乗れ」
俺は女にたずねた。
「バカじゃん?なに言ってんの?」
「お前こそ、バカじゃないのか。
名をたずねられて、答えられないとは」
「ねぇ、こいつ、変じゃね?ほんとキモッ」
女は有理の肩を叩く。
「名を名乗れといっているのだ」
俺はなおも詰め寄ったが、女は俺を無視した。
「洋平は頭打った。だから。この子、森陽子ちゃん」
「陽子か。よろしくな」
「ちょっと!呼び捨てしないでくれる?」
陽子はなにやら怒っていたが、俺にはどうでも良かった。




