女神も喰らう
「さー飯だ、飯だ」
「あんたの晩飯はないよ」
「なんだとう! 何でおれの飯が無いんだ! 毎日毎日、これほどこき使われているというのに」
「なぜなら、あんたの晩飯は、既に!……」
「あっ、モグモグ……ゴックンッ……五十鈴さん、おかえりなさい」
「すづ! さっきまで一緒だったのに、なんでもう飯を食っているんだ」
「ちゃんと、『いただきます』は言いましたよ!」
いわれのない言いがかりだと、すづは怒っていたが、飯を食う手と口は絶えず動いていた。
「そこでキレるとこなのか……。もう一人いるちっこいのは誰なんだ?」
すづの隣で、黙々と飯を食う、夜明けの太陽のように輝く長い髪の幼い少女、五十鈴は、その姿に見覚えがあった。
「女神エディシア! 何でここに居るんだ」
「五十鈴よ、お主が神殿を修復してくれたおかげで、この地で力を取り戻すことが出来ました。この供物も大変素晴らしく……礼を言います」
厳かに語りながらも、エディシアは、すづに負けぬ勢いで食べ物を口に運んでいた。
「このままでは、俺の飯が無くなってしまう! ……こうなれば、手段は一つだ」
――餓鬼魂顕現!
「――五十鈴さん! 食事中に何てもの出すのですか!」
「あ……いや……、つい……」
「こうなったら……すづが、おかわりします!」
新しく米をよそわれた茶碗を片手に皿に乗った餓鬼魂を箸でつつき始める。
「このお肉も、ぷりぷりでおいしいですね」
「女神様にも喜んでもらえてうれしいです」
「ああ……餓鬼魂が、供物にされちまう……」
「わたしの、刺繍も、喜んで、もらえましたよ……モグモグ……」
「すづ食べながら話すのはよせ。……力が戻ったのなら、もう一人でこの世界を救えるんじゃないのか?」
「いいえ、神殿一つでは、まだこうやって僅かな時間、姿を現すことくらいしか出来ません。この世界の命運は、五十鈴、貴方の双肩に掛かっているのです。……どうかこの世界を救ってください」
女神は神々しい光に包まれていたが、瞳には悲しみの光が溢れていた。
「そうか、他の神殿も直せばいいのか……、そう言えばこの羽織は、どんな能力があるんだ?」
「その羽織は、外気の肌寒さを和らげたり、また、一枚羽織る事で、みすぼらしく見えなくなると言う効果があります」
「ほうほう……それだけ?」
「……えーっと、……そして……その羽織は…………」
女神は強い光を発し始めた。
「うわっ、眩しい、いや、もういいから、羽織の話はもういいから」
「そうですか、……では、世界を頼みましたよ」
女神の姿は神々しい光に、ゆっくりと溶け込んで行く。
「待ってくれ! もう一つだけ……」
「はい、なんですか?」
「食った分の飯代を置いてってくれ」
「……では、この世界を頼みましたよ」
女神の姿は一瞬にして、光の中へと消えて行った。
女神の姿が消えた空間を呆然と眺める五十鈴の肩に、リエナがそっと手を添えた。
「五十鈴さん、あんた、本当に女神の使命を帯びてたんだね……」
「あぁ……」
女神に金はもらえなかったが、これで俺の偉大さが分かれば、扱いも変わるはずだな……。
「……五十鈴さん、明日から……」
「なに、気にする事は無い……」
「……あの子の食べた分も合わせて、3倍働いてもらうからね」
……やっぱ、そうなるか。




