クレープを喰らう
「女神様も喜んでくれてます!」
「その自信は何処から来るんだ、女神の機嫌を損ねて加護が無くなったらどうするんだよ」
すづはポンと手を叩いた。
「女神様の名前も入れましょう!」
「ダメだろ、もうこれ以上は……」
「うーん、女神様に聞いてみるのはどうですか?」
「どうやって? 女神がどこに居るのか知ってるのか?」
「はい! 女神様は神殿に居ます」
「そうなのか! 女神の神殿に行って飯代を借りれば、こんな店ともおさらば出来る! 早速、出かけるぞ!」
「はい!」
「すづ、神殿の場所は何処だ?」
「知りません!」
「何だと……。やはり、子供の話を真に受けるんじゃなかった……」
「なに騒いでるの? 女神って、創世の女神の事かい? 西の森に神殿があるけど……」
「知っているのかリエナ! 詳しい場所を教えてくれ」
「ええ、まぁ、そんなに遠くはないけど…………」
「ありがとう、恩に着るぜ!」
「あっ、ちょっと……。あんな所に行ってどうする気なんだか……」
そこは、日の光も届かぬほど鬱蒼と木々が生い茂り、得体の知れない魑魅魍魎が跋扈する、恐るべき魔の森であった。
木々の影から、深い闇から襲い掛かる、言葉に出来ぬ恐るべき姿の魔物たちを、五十鈴は無視して駆け抜け、女神の神殿へと到着した。
「ここが、女神の神殿なのか? ……荒れ放題だぞ?」
「はい、間違いないです。あそこに女神像もあります」
すづの指差した方に転がっている女神の石像は、確かにどことなく、あの幼い神に似ている気がしないでもなかった。
「仮にも創世の女神なのだろう。誰も神殿を訪れないのか? これではまるで廃墟じゃないか……」
「ひゃーっはっは、何が創世の女神だ! その女神が何をしてくれると言うのだ!」
突如、フードを被った男達が崩れた柱の陰から姿を現した。
「何者だ! 神殿を破壊したのはお前たちか!」
「やはり、こんな女神の神殿を訪れる愚か者か、我らはユピノ神の信徒よ、このフードが目に入らぬか!」
彼らが自慢げに見せた赤いフードは、頭をスッポリ覆うほど大きいが、丈は胸あたりまでしかなく、どうにも不格好なキノコの被りものにしか見えなかった。
「知らん、そんな神も、キノコの被り物も知らん」
「おのれ、我らの神を愚弄するか! だが、ちょうどいい、ここに神殿を建てる儀式の生贄に、この娘を使わせてもらうぞ」
「くきゅ~」
「すづ、いつの間に捕まったんだ」
「その男は、始末してしまえ」
フードの男たちが武器を構え一斉に襲い掛かる。
「貴様らこそ、あの世で後悔するといい!」
――餓鬼魂顕現。
「はっはっは、逃げ惑うがいい! キノコの踊り食いだ! はっはっは……」
高笑いが森の静寂に吸い込まれて消えて行くと、石像の転がる神殿の廃墟に、一人佇む五十鈴の姿が残されていた。
「また、やり過ぎちまった……。すづの奴、最近丸まると美味そうに育ってたからな……一緒に喰われちまったか……骨も残ってないが墓くらい建ててやるか」
周囲の瓦礫を片付け始めた五十鈴の足元に、小さな餓鬼魂が一匹這って来る。
「こいつは、まだ消えてなかったのか……」
獲物を食えば自然と消えてしまう筈であったが、芋虫の様に動き回るそれを不審に思い、覗き込んでみると、餓鬼魂の口からすづの頭がひょっこりと飛び出していた。
「うわぁ! すづ、…………そんな所で食われてたのか……成仏してくれ……」
「成仏はしません!」
「大丈夫なのか、すづ」
「はい! 戦闘に巻き込まれないように隠れていました」
「どう見ても、そこは戦闘の中心だろう……」
「いえ、モグ……モグ……、これも、けっこう、おいしいです」
すづはクレープの皮に包まれながらクレープを食うように、餓鬼魂を内側からかじっている。
「すづ! そんな物食っちゃだめだ! ……いや……それ、食えるのか?」
五十鈴達は、倒れた女神像を起こし、瓦礫を片付けて、廃墟に見えない程度に神殿を修復したが、そこで、女神の信託が降りるとは思えなかった。
「だめか……帰るか」
「はい! 急げばご飯に間に合います」
「お前、さっき食ったばかりじゃないか……」
「クレープは、別腹です!」
「別腹と言うか、別の腹の中だったけどな……」




