皿まで喰らう
「…………もうだめかもしれんな……」
疲れた体を引きずり歩く二人は口数も少なく、杖にすがって何とか前に進んでいる状態であった。
「これ以上進むのは無理か……俺たちの旅もこれまでか……」
彼は、世界を救うと約束した女神との約束を果たせずに、力尽きる己を呪っていた……女神の瞳から悲しみを拭い去れなかった事に……。
空を見上げた彼の瞳がゆっくりと閉じられようとした時、小さな連れ合いが叫び声を上げた。
「五十鈴さん、あの光は……間違いありません!」
「ついに、見つけたか……」
「はい、わたしたちは、辿り着いたのです!」
「これで、漸く……飯が食える!」
この時、飯屋に走り込んだ二人の走りは語り継がれる程であった。
余談ではあるが後の世で、その走法を会得した世界最速の男を生み出す事になる。
「いらっしゃいませ~」
「メニューにある料理を上から下まで持ってこい!」
勢いよく飛び込んで席に着く五十鈴達にウエイトレスが愛想よく応え、次々と料理をテーブルに運んでくる。
「モグモグ……うまい! いや、それ程うまい訳でも無いが、今は何を食ってもうまい!」
「むしゃむしゃ、モグ……モグ……、そうですね、むしゃ、空腹は、ゴクン、最高のスパイスです!」
「お客さん、いい食べっぷりだね。ペルフォネラのミソラ風煮込み、お待たせ」
「おう、何の料理か分からんがうまいな!」
「そうですね、この足の沢山ある生き物の姿焼きもおいしいです」
彼らは、テーブルに並ぶ料理を一心不乱に食べ続けていた……。
「ふーっ、飯がこれほどうまいとは、生きている喜びを感じるな」
「はい、お腹いっぱいご飯が食べられるほど幸せな事はありません。すづは今まで生きてきた中で、今が一番幸せです」
「そうか……。時に随分食べたが、金は持っているんだろうな?」
「何ですって! 盗賊に村を焼かれ、人攫いに売られそうになっていた子供に、お金を出させる気ですか!」
「やはり持ってないのか……」
「まさか、五十鈴さんも……?」
「この世界に来たばかりだしな、倒した盗賊も、身ぐるみごと食っちまってたからな」
「お代が払えませんよ……どうするんですか……」
「なに、こういう店はそのうち悪党が雪崩れ込んできて厄介事が起こるもんだ。そいつを片付ければ、感謝こそされ、飯代なんぞ……」
その時、五十鈴の背後にゆらりと立つ、怪しい影の気配が!
「お・きゃ・く・さ・ん……。これだけ食べて置いて、お金持ってないのですか?」
ウエイトレスのひきっつた笑顔がそこにあった。
「あの、その……すづ、プランBだ!」
「はい!!」
五十鈴はすづを両手で掲げた。
「……こいつで、勘弁してください!」
「すづは、売られるのですか!?」
「勘弁するわけないだろ! あんたも来るんだよ!」
店の奥に引きずられて行った五十鈴は、……皿の山と格闘していた。
「五十鈴さん、3番テーブルの食器も下げてきました~」
「はいよ~……。どうして俺が皿洗いなんぞ……」
「口を動かさないで、手を動かす! まだまだ、そんなもんじゃ、代金の足しにもならないんだからね」




