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飯喰う前に、世界を救え!  作者: 海土竜
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カードを喰らう

 五十鈴が宿を離れていた間に、大事件が起こっていた。

 海賊退治から戻った五十鈴のもとに、すづが慌てふためいて駆け寄ってくる。


「大変なのです。トンジールの子供がいないのです」


「大変よ! クリスティーナが攫われたわ」


「なんて事だ、俺が留守にしたばっかりに……また、法王クライの仕業か!」


 室内は複数の人間が押し入ったように荒らされ、壊れた家具が散乱していたが、そこに細工の施された短剣が一つ突き刺さっていた。


「この短剣は犯人の残した物か? ……この紋章は」


「それは、この町の領主サルバトレの紋章よ! クリスティーナはきっと領主の屋敷に連れていかれたんだわ」


「それならば、屋敷に乗り込んで助けるまでだ……」


「待って、サルバトレは人望のある領主なのよ、その屋敷を正面から襲撃したとなれば、この町すべてが敵になるわ……」


「しかし、このままにして置く訳にはいかないだろう!」


「手はあるは、サルバトレの屋敷で行われる、ルバトレ大会に出場するのよ。参加選手として、潜り込めば、怪しまれずに屋敷の中を調べられるわ」


「カードバトルなのか? 俺はやった事は無いが、参加できるのか?」


「大丈夫、ニコル兄さんが、毎日やっていたカードがあるわ! この使い込まれたカードを見せれば、誰もが納得するはずよ、これを使って出場するのよ!」


「おお! よし、クリスティーナを助け出しに行くぞ!」


「すづも行くのです!」


 こうして、五十鈴は誘拐などと卑劣な行為に怒りを燃やすすづとカードバトル大会に出場することになった。


「かなりの人数が、参加するみたいだな、これならうまく紛れ込めそうだが……すづは、カードを持っているのか?」


「はい、すづはカードを作ってきたのです」


「……そんな手書きのカードでいいのか……しかし、そのイカはなんで持ってきたんだ?」


「一人にすると攫われてしまうのです。すづが守るのです」


「……そうか」


「次の方、登録をどうぞ」


「すづなのです。出場するのです」


「お嬢ちゃん、子供の参加はダメなんだよ……はっ!」


 案の定、追い返されると思われたが、すづを見た受付の男は急に真っ青になって震えだす。


「そのイカは……まさか……一度に10枚のカードを切れるという、伝説のカードバトラー・月星イカ!」


「なんだと、月星イカが出場するのか?」


 月星イカ、その名前がもたらした戦慄は、静かに会場を波立たせていく。

 歴戦の勇士たちでさえ、生唾を飲み込み、こっそりと冷や汗をぬぐう。

 すでに闘志をむき出しにした戦いは、始まっていたのだ!


(潜入するのに、目立つなよすづ……しかし、10枚のカードを切れるって、どんなゲームなのだ?)


「月星イカが出場とは、すごい戦いが見られそうだな……あっ次の人、そこに名前書いといてね」



 首尾よく出場する事ができた五十鈴ではあったが、屋敷を捜索する暇もなく、すぐに一回戦のバトルが始められる事になった。


(この戦いに勝たねば、屋敷の中に入ることもできないのか、だが、俺にはこのニコルデッキがある! 何としても勝ち抜いてやるぜ!)


 ルィエル・バトル・トレーディングカード、通称ルバトレとは、10種類のユニットカードと3種類のスペルカードを各4枚づつで構成されたデッキから、5枚を手札に取り、ペアになったカードのユニットを場に出して戦うゲームであった。

 ユニットの相性や配置、装備アイテム、スペル等を駆使して、相手の裏を読む心理戦が勝敗のカギとなるのである!


 対戦者と向かい合った五十鈴はデッキから5枚のカードを手に取る。

 カードに描かれたイラストが、そのカードのユニットを示しているらしい、弓を持った兵士に、木の杭を組み合わせた柵、それに、シャッターのしまった店……なんだこのカードは……、しかし、弓を持った兵士のカードが初めから2枚そろっていたのは幸運だった。


「まずは、弓兵を召喚して攻撃だ、先制攻撃でHPを削る!」


「フッ、いきなり攻撃とは、荒波の小舟と言われた俺のカードさばきをなめるな! 城壁を召喚して弓を防御、さらに、騎馬兵を召喚、弓兵など蹴散らしてやる!」


「まずい、弓兵がやられてしまう、馬の進行を防がねば……バリケード、これだ! 馬防柵で騎馬兵を足止め! そして、シャッターのしまった店は、使えないか……辺りの様子をうかがう男? なんでこんなカードばかり……」


「それだけか? 投石機を召喚! 城壁の内側から攻撃だ!」


「柵が飛んでくる岩で壊される、弓兵で応戦だ……ダメか、城壁で守られて攻撃が届かない……」


「はっはっは、手も足も出まい貴様もここまでのようだな!」


「くっ……俺はこんなところで負けるわけには……いかない! そうだ、俺が信じなくてどうする、リエナの兄ニコルの魂の籠ったこのカードを、俺は次の一手で、逆転のカードを引いてくる!」


「何だ……これほど追い込まれても、奴からあふれ出る闘志は」


 五十鈴の右手が唸り、デッキから新たなカードを引き出す。

 それは、スペルカード・酔っ払い、だった!


(よし、このスペルで……絶対ダメだろう、というか、何だこのカード、何がしたいんだ? ニコルいったい何を考えているんだ……しかし、ユニットを出さねばやられる……)


「……シャッターのしまった店と辺りの様子をうかがう男を召喚!」


「まさか、そのコンボは! シャッターのしまった店、買えない、買えん、火炎。辺りの様子をうかがう、何もいない、気のせい、の精……火炎の精・イフリート!」


(こいつ何を言っているんだ……そんな効果があったのか、ならば、この酔っ払いも使えるはずだ)


「ふっふっふ、火炎の精・イフリートにスペル・酔っ払いを発動! 吐き出した炎で城壁ごと丸焼きだ!」


「グハッ、この俺が負けるなんて、そんな、馬鹿なー!」


「荒波の小舟よ、安らかに眠るがいい。お前の魂もこのカードに背負って俺は戦い抜く……」


 五十鈴は、激戦の末、一回戦を勝ち進むことができたが、試合が終わると同時に会場で歓声が沸き起る。

 皆、別のテーブルで行われている試合に惹きつけられていたのだった。


「向こうはずいぶん盛り上がっているな、実況アナウンスもあるのか」


 一回戦を勝ち抜いたことで気分を良くした五十鈴は、そこで行われてる試合に少し興味が出てき、試合の見える位置まで移動してみるとそこで熱戦を繰り広げていたのは、派手な鎧を着こんだ男とイカを被った子供であった。


(あれは、すづじゃないか。手書きのカードを持っていたが、試合になっているのだろうか? 怪しまれてつかまったりすれば、潜入の意味も……)


 五十鈴の心配も他所に、大げさなアナウンスが試合を盛り上げる。


「あーっと、ここで、月星イカ、マグロとアボガドのカルパッチョを召喚! これはどんなユニットなのかーー! さらに、続いて出されるカードはなんだー!」


「すづは『いただきます』を言うのです」


「スペルだー! スペルカードが発動、その効果は……食べた! 自分のユニットであるカルパッチョを食べたー!」


「自分のユニットを食うとは、まったく戦略が読めん……今まで俺の戦ってきた相手と、まったく次元が違う……だが! 俺は、俺のベストを尽くすだけだ! 召喚した勇者に光の剣を装備! 無防備なところを直接攻撃だ!」


「勇者の攻撃だー! 身を守る防御ユニット無しにどうやって戦うのかー!」


「もぐもぐ……もぐもぐ……」


「食べたー! 『いただきます』の効果で、勇者をまるかじりだー!」


「……俺の……負けだ……」


「圧倒的! 月星イカ、相手を寄せ付けない、圧倒的な強さで勝利だー!」



 その試合に向けられていた視線の中に、鋭く不気味に光る4つの眼差し……。


「なかなか、楽しめそうね……」


「あの実力は本物だ、しかし、奴の弱点はすでに見切った!」


「ふぉっふぉっふぉ、わしらと当たる時が楽しみじゃわい……」


 さらなる強敵との激戦を潜り抜け、進化し続ける五十鈴とニコルデッキ!

 覚醒したカードの力でライバルを打ち倒し、頂点まであと一歩という所で、立ちはだかるは、ルバトレ四天王!

 ついに、究極のバトルの幕が上がる。

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