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飯喰う前に、世界を救え!  作者: 海土竜
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海賊を喰らう

 何とか魚を買うお金を稼ごうと考えた五十鈴は、砂浜を離れ、漁船の並ぶ港に来ていた。


「船の掃除をすればお駄賃くらいは貰えるかもしれん……いや、漁師なら売れ残った魚を現物支給でもこの際問題はないのだが……」


 何人もの漁師に声を掛けて回る五十鈴であった。しかし、背に『喰う』の文字を縫い込んだ羽織を着た、怪しげな男をおいそれと雇ってくれる者などいはいなかった。


「ふぅ……ダメか……」


 海に向かってため息をついた時、隣で同じようにため息をつく男がいた。

 人間の背丈ほどもある筆を抱えた男……。


「一筆……お前、何やってんだ……」


「……五十鈴さんか。世の中、無常なものだな……儲け話など伝え聞いた時には既に朽ちた流木と同じ……」


(こいつ俺より深刻だな。あの本でどれだけ失敗したんだろうか……?)


「まぁ、次があるさ。一人より二人。二人で回れば何かいい仕事が見つかるかもしれんぞ」


「五十鈴さんは、めげないな。やっぱ、扶養家族がいると頑張れるのか?」


「すづは、俺の子供じゃねぇ!」


「違うのか……じゃーなんだ、育ててるのはいざという時に食うためか? 非常食なのか?」


「……いや、むしろ、非常時に食われるのは俺の方かもしれん……」


「おーい、兄さん方、仕事を探しているらしいな」


 二人の会話に割って入ったのは体格のいい漁師だった。


「今日の晩飯に魚を買って帰れるくらいでいいんだが、どこも雇ってくれなくてな……」


「はっはっは。ならば、うちに来い。荒くれ物の集まりだが兄さん方ならぴったりだ。少し手伝ってくれれば、魚なら嫌と言うほど食べれるぞ!」


「本当か! ありがたい」


 こうして、五十鈴達は漁船に乗る事になった……。


「よーそろー」


「よーそろー……って、違うだろう! これで晩飯までに帰れるのか?」


「そうだな、大体半年かけて漁場まで行って、途中港を回りながら、2,3年の航海になるかな」


「そんな遠洋漁業にいってられるか! 俺は暇な一筆と違って、世界を救う使命があるんだ!」


「俺だって暇じゃないぞ! ちゃんと目的があって旅をしているんだ」


「そうは言っても、一度走り出した船は止めらんねぇな……」


「止めやがれ、お前の気分次第で、止めれるだろうが!」


「新入りがっ! 船長に何をする」


「なんだと! こうなったら力ずくでも、船を戻してやるぜ!」


 漁師たちは手近にある武器を取り、五十鈴とにらみ合う。

 まさに一触即発のその時、彼らの間に飛来音を上げて砲弾が落下した。


「うわー! 海賊だー!」


「海賊だと? 何で漁船なんか襲うんだ」


「海賊に、相手の船の種類なんて関係ねぇ、目の前にいる船を沈める、それだけだ!」


「おのれ、海賊め……」


「まず、穴を塞げ! 水が入ってきて船が沈んじまう」


 次々と打ち込まれる砲弾に、漁師たちの悲鳴と怒号が飛び交う。

 揺れ動く船の上は一気に大混乱となった。


「ふっ、慌てる事は無い……一筆奏上!」


 一筆が筆を振るうと、船に空いた穴が真っ黒な墨で塗りつぶされる。


「俺に、塞げない物はねぇ……」


「やるな、一筆。なら、後は海賊どもか……」


――餓鬼魂顕現!


 雨の様に降り注ぐ砲弾を次々と餓鬼魂が呑み込み、海中から跳ね上がった巨大な口が海賊船を飲み込んだ。


「……すごい、海賊を一瞬で…………」


「ふっふっふ……俺に掛かればこんな物よ……」


 だが、その時、船は大きく揺れ始めた。


「五十鈴さん、餓鬼魂が船を食い始めているぞ!」


「一筆、墨が水で流されて穴が開いているぞ!」


「餓鬼魂が次々に穴を開けているんだ!」


「早く、こっちの穴を塞げ!」


「お前ら、何の役にも立ってないじゃないか! 人の船を沈める気か!」


「水をくみ出すんだ!」


「もうだめだ―! 船が沈むぞー!」


 漁師たちの悲鳴と怒号を飲み込み船は海の底へと沈んで行き、渦巻く波に引き込まれながら五十鈴の意識も暗い闇の中に沈んで行った。


 ……そして、気が付くと、はるか南の名もない島へ流れ着いていたのだった。


 そこに住む人々は毎月生贄を要求する凶悪な怪物に支配され、怯えて暮らしていたが、俺達は、激闘の末怪物を倒し、生贄の娘を救い出した。

 村の人々に感謝され、英雄として祭り上げられたが、小さな島だけでなく、この世界を救うため、船を作り上げ、引き留める美しい娘を残して海へと漕ぎ出す、そして、海賊やさらに恐ろしい海の怪物と戦い、ついに七つの海を制覇し、長い航海を経て、ようやく、この町へと辿り着こうという所で、嵐に会い船が沈んで命からがら泳いで辿り着いたのだ。


「……それで、今日も魚は買えなかったのかい?」


「うん……」


「さかな食べたいのです」

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