金平糖を喰らう
旅を続ける五十鈴達は、馬車の中でひと時の休息を取っていた。
魔物が跋扈し、戦いに明け暮れるこの世界でも、星空の下、静かに眠る小さな連れ合いの姿は、心を和ませてくれる。
起こさぬ様そっと馬車の外を眺めると、満天の星空を一筋の光が横切って行く。
「流れ星か……」
ふと呟いた五十鈴の言葉に、眠っているすづが答えた。
「あれは、金平糖なのです。食べるのです……」
振り向いた、五十鈴の目に映ったのは、眠っているすづの姿だった。
「何だ、寝言か……。夢で食べられるといいな」
布団からはみ出た腕を、そっと中に戻し、彼女の寝顔にいいようの無い安心感を覚えていると、突然、背後で巨大な爆発音が上がった。
振り返ると、木は薙ぎ倒され、土が吹き飛ばされ、地面はめくれ上がり、陥没したその中心で、何かが光りを放っていた。
「隕石でも落ちたのか? ……いや、あの光は……」
五十鈴は我知らず駆け寄っていた。
そこに落ちてきた発光する物体、それに心当たりがあったが、脳裏に浮かんだそれをすぐに頭から追い払った。
それについて、考える程、焦りが心を満たし、もつれる足を動かして、クレーターの縁へとたどり着いた。
そこから見下ろした、その光を放つ物体とは。
「……これは、…………金平糖だ」
それは、熱を帯びたように光る、巨大な金平糖だった。
黄色や赤にゆらゆらと七色に変わる光で周囲を照らし、ゆっくりと回転している。
その動きが止まると、金平糖の一部がハッチのように開いて、そのまま階段状になると、内側から小さな人影が一列になって階段を下り、巨大な金平糖の周りを輪になって踊り出す。
そして、最も驚きを隠せなかったのは、七色の光に照らし出されて小さな人影は皆そっくり同じ、すづの顔をしていた事だった。
「まさか、寝言と会話したために、すづの夢に入り込んでしまったのか?」
五十鈴が呆気に取られている間にも、金平糖から出てくるすづは増え続けていた。
「馬車だ! 馬車の中で寝ているすづを起こせば、この夢から覚めるはず……」
しかし、走って馬車に向かおうとした足がピクリとも動かない、まるで何かに縛り付けられたかのように……恐怖を抑えつつ、ゆっくりと足元に目を向けると、両足に大勢のすづがしがみついていた。
そして、そのままクレーターの中へと、五十鈴の体を引きずり込み始める。
「よせ! 放せ、すづ!」
一つ一つは小さな手であっても、無数に伸ばされ体を掴む。
五十鈴は仰向けにされたまま、クレーターの中心、光る金平糖の前へと運ばれて行った。
「すづ、何をする気なんだ……」
すづが手を伸ばすと金平糖はドロリと溶け、色鮮やかな粘り気のある液体となって、小さな手のひらに落ちる。
溶けた金平糖を手にしたすづは順に側にやって来ると、それを、五十鈴の体にべたべたと塗り始めた。
「べたべた……べたべた……甘くなるのです」
「まさか、俺を砂糖漬けにして、食べる気なのか!」
「べたべた……べたべた……」
「やめろー! やめてくれ、すづ!」
溶けた金平糖に、口も目も塞がれ、五十鈴は甘い闇へと落ちて行った……。
気が付くと五十鈴は、静かな馬車の中にいた。
隣ではすづが小さな寝息を立てている。
そっと、立ち上がった五十鈴の背後で、彼女の寝言が聞こえていた。
「甘いのです……食べるのです……」
五十鈴はもう答えなかった。
安らかな寝顔であんな夢を見ているのかと思うと、少し複雑な気分になった。




