肉を喰らう
「いやー、すまなかったね。お詫びと言っちゃなんだが、たんと飯を食って行ってくれ」
「おにく、おいしいのです。……モグモグ……」
何とか誤解が解けると、牧場の大女ひろねぇは、気さくでよい人物であったし、振る舞われた新鮮な肉をふんだんに使った料理にすづも大満足であった。
「最近、この辺りを荒らしまわる牛泥棒がいてね、みんな気が立ってたのさ」
「そうですか、しかし、この牧場は安泰ですね。どんな牛泥棒が来ても返り討ちできそうですし」
「それが、そうでもないんだよ。盗賊たちのアジトは分かっているんだが、その首領は、恐ろしい妖術の使い手でね、私らは手も足も出なかったよ」
「それはまさか……人間を巨大化させたり、牛と人間の区別がつかなくなったりする術か!」
「……ん? そんな術ではなかったが、あれは、我々が盗賊のアジトである山の砦を攻めた時……」
盗賊は幾重にも防壁を巡らした堅固な砦に立てこもっていた。
「怯むな! 牛泥棒共にCoW牧場の力を見せつけてやるぞ!」
「ひろねぇ、防壁が硬くて進めません!」
「なんだと! ならば、突撃だ!」
「ひろねぇ、道に罠が仕掛けられております」
「なんだと! 踏みつぶして、突撃だ!」
「ひろねぇ、巨大な岩が転がって来てます!」
「なんだと! 突撃だ!」
「……と、まぁ、こんな感じで、我らは甚大な被害を出して、返り討ちにあってな……恐るべき妖術だった」
(妖術関係ないやん……)
「しかし、牧場を荒らす盗賊とは許せませんな、旅の途中で通りがかったのも何かの縁、この五十鈴がそいつらを退治して見せましょう」
「本当か! ありがとう、大した礼は出来ないが、うちでとれた肉を持って行ってくれ」
「にく~にくなのです~」
(ふっふっふ……盗賊なら餓鬼魂でまとめて片付けられるしな、軽いものだ)
こうして、五十鈴達は首尾よく食料を獲得することが出来たのであった。
「はっはっは、どうだリエナ、今日は大量だぞ!」
「休日に釣りに行って釣れないからって魚屋で買って来た、お父さんみたいだよ」
「奇麗に捌かれてるけど、買ったんじゃないぞ、大変な苦労の末に手に入れたんだ……」
「あーはいはい、それじゃあ、料理しますか」
リエナは直ぐに料理に取り掛かかった。
柔らかく焼き上げられた肉に、肉汁を果実と煮込んだソースをかけると、辺りに良い匂いが広がる。
「まぁ、このフルーツソースは、味だけでなく香りも楽しめますね」
「そうだろう、盛り付けにもこだわりがあってね……」
「おいしいのです」
趣向を凝らした盛り付けも、皿まで食べそうなすづには、あまり関係はなさそうだった。
「この肉を分けてもらうのに、山を根城にしている盗賊を退治する事になってな」
「そうなのかい、あまり遅くならないうちに戻っておいでね」
「遊びに行くわけじゃないんだが……」
「そうです、この世界のためにも盗賊を退治するのはよい事です。五十鈴には、この世界を救ってもらわねばなりません」
答えたのは、ちゃっかり席について肉料理を食べていた女神エディシアだった。
「いつの間に! ちゃんとした料理の時は、出て来るんだな……そうか、かなり手強い盗賊らしいのだが、出て来たという事は、何か手助けをしてくれるのか?」
エディシアは無言のまま光りを放ち始めた。
強烈な光が周囲を包み、真っ白になった世界は何も見えない程である。
「うわっ、眩しい! 解った、盗賊は自分で何とかするから、手助けとかいらないから!」
「そうですか、五十鈴よ、この世界を頼みましたよ」
光を放っている間に料理を食べ終えたエディシアは、ゆっくりとその姿を周りに溶け込むように消えて行った。
だが、五十鈴は見逃さなかった、女神の頭にキノコが生えていたことを……。
(エディシア……キノコ鍋も食べに来てたんだな……。)
この世界を、そして、それを託した自分の事を、気にかけてくれているのだろうと考えつつ、中断していた食事に戻った五十鈴であったが、まだ半分ほどしか食べて無い料理が皿の上から奇麗に消え去っていた。
「……モグモグ……ごちそうさまなのです」
女神の光もすづを止めることは出来なかったのか……。




