唐揚げを喰らう
この世界を救うために、天から舞い降りた……筈だった。
「もう、3日も人に会ってねぇ……。このままでは、世界を救う前に飢え死にしてしまう」
降ろされた場所が悪かったのか、この世界には人が住んで居ないのかと思う程、深い山の中だった。
幼い女神に悪態をつきつつ慣れない獣通を歩き続け、ようやく人家の明かりが見えた時は心底ほっとした。
「やっと飯にありつける……と、思ったんだが、なんだ、この村の寂びれ様は?」
屋根や壁は穴だらけのあばら屋が並び、住人は老人だけというひどい有様だった。
これでは陸な物が食えそうにないな……。
「もし、そこのご老人……」
「ひぃ、お助けを! 見ての通りこの村にな何もありません、どうかお命だけは……」
「いや、ここで、飯を食える所はないのか?」
「はい、村の食べ物も、若い娘も、全てあの屋敷に連れていかれてしまい、残されたわしらは、今日の飯にも事欠く有様で……」
あばら家が並ぶ村の中心に、一軒だけ悪趣味なほど豪華絢爛な屋敷が建っていた。
「なるほど、いかにも悪党がが住んでいる所だ」
……まてよ、そう言えば俺は、この世界を救わなければならないのだ。こういう奴を退治していけばいいのか?
あの女神がくれた物と言えばこの羽織だけだ、これが何の役に立つのか分からんが、まぁ、こんな寂れた村で、のさばっている奴等だ、簡単に倒せる筈だ。
「爺さん、任せてろ、お悪党は俺が片付けてやるぜ」
颯爽と、正面から屋敷に向かったが、見張りの一人もおらず、呆気ないほど簡単に侵入できた。
罠かとも思ったが、奥の座敷から大勢の人の声が聞こえる。
「どうやら、奴らは呑気に宴会中らしいな……どれ、様子を探ってみるか」
障子の隙間から覗くと、若い娘をはべらし酒御飲んでいる悪党どもの姿が、そして、中心に座っている男の姿を見た途端、言い様の無い怒りがこみ上げ、障子を大きく開け放つと同時に叫んでいた。
「許せん! 貴様の様な雑魚キャラがハーレムを作るなど、言語道断だ!」
「人の屋敷に上がり込んで、このナイスな髪型のモヒヒ・モーヒ・カーン様を雑魚呼ばわりするとは、いい度胸だな!」
「それだ、その髪型こそ、雑魚の証。この世にモヒカン刈りのボスなどいねぇ!」
「何だと! 俺の考えたこの髪型を、この髪型を世界中に広める野望を馬鹿にしたな!」
「いや、それは、モンゴルの騎馬民族ウィツバシュ族の六代目族長モヒ・カンが考えた髪型だ」
「まさか、俺より先に考え出していた奴がいるとは……貴様何者だ!」
「俺か? 俺は、五十鈴露良! 貴様の様な悪党は俺が始末してやる!」
――ぐうぅぅ……。
しまった、声を張り上げて腹まで鳴ってしまった……。
「ぎゃはっはっは! こいつは傑作だ、何を言い出すかと思えば、この食い詰めた貧乏人目がっ!」
「兄貴! こいつは俺達に片付けさせてくれ」
「おお、金モヒ、銀モヒ、任せたぞ。その貧乏人に腹いっぱい食わせてやれ」
モヒカンの両脇から巨漢の男が鉄の棒を持って現れる。
かなりでかいぞ……こいつは手強いか?
いや、俺は、世界を救うために来たのだ、こんな奴等ぐらい簡単に……。
――グハッ!
いてぇ、女神のくれた羽織は何の役に立ってるんだ?
まったくわからねぇ……このままでは、簡単に片づけられてしまう……。
「ぎゃっはっはっは、さっきまでの威勢はどうした! 貴様を始末すれば、この髪型の秘密も守れる。まさに一石二鳥! さぁ、止めを刺してしまえ!」
「おのれ……、調子に乗るなよ……、この鳥頭がっ!!」
「何だとっ!」
「ああ……喰らってやる……貴様の野望も、その鳥頭も……、全部喰らってやるはっ!!」
「この死にぞこない目! 金モヒ、とっとと止めを刺せ!」
「ぎゃー、俺の腕がっ!」
突然悲鳴を上げて倒れ込む巨漢の腕にぬらぬらした肉塊が噛みついている。
ゆらりと立ち上がった五十鈴の周り、何もない空間から、ドロリと零れ落ちた粘膜で包まれた内臓の様な蠢く肉塊は、目も鼻も無く、ただ、白い歯の並んだ口だけが大きく開いていた。
――餓鬼魂顕現!
天井、壁、床、いたる所から、染み出すように湧き出した肉塊が、モヒカン達に襲い掛かりその肉を噛み千切る。
「はっはっは、食らい尽くしてやるぞ! はっはっは……」
モヒカン達が逃げ惑う屋敷に、五十鈴の高笑いが木霊していた……。
「……まずい」
誰も居ない静かな瓦礫の山の中、五十鈴は一人天を仰いで立っていた。
「まずい……、まずいな。…………非常にまずい!!」
「…………村人も全部、食っちまった……どうすんだよ……これ」




