熊鍋を喰らう
「はっはっははー! 町の奴等は皆殺しだー!」
ユピノ教の本体、それは今までの様なフードを被った信者の集団などではなく、鎧兜で武装した精強な軍隊であった。
そして、その中心で指揮を執るのは熊のような大男ではなく……熊そのものだった。
「熊だ……熊がしゃべってやがる……」
「町の人間をすべて倒して、ここにクマトピアを作るクマー!」
「そんな事はさせんぞ、この熊野郎!」
「熊を馬鹿にするのは、何者クマー!」
「俺は五十鈴……貴様ら邪神の僕を倒す者だ! これ以上好き勝手はさせない」
「五十鈴なんて知らないクマ」
「何だと……、じゃあ、俺が出てきた意味はなかったのか……」
「クマトピア建設の夢を邪魔させないクマ。人間は熊のために働くといいクマ」
「熊にこき使われるなどまっぴらだ! その野望ここで止めてみせる!」
「これだけの人数相手に、たった一人で何が出来るクマ、やってしまうクマー!」
「くまくま、うるせえー!」
五十鈴に向かって一斉に武器を構えた兵士の一人が、投げつけられた石にうめき声を上げた。
「五十鈴さん、わたしも戦います!」
「すづ、どうしてここに来た」
「すづはいつも一緒です!」
「私も戦うよ。この町は私たちの町だからね」
「リエナまで、逃げろと言ったのに……」
「そうじゃ、ここはわしらの町じゃからな」
「娘っ子をほっといて、わしらだけ逃げられるものか」
建物の影から手に武器を取った町の人々が次々に姿を現す。
「みんなも戦うってさ……五十鈴さん」
「馬鹿野郎どもめ……全員まとめて、守ってやるぜ!」
町の人々は互いに守り合い戦ったが、熊の軍隊の攻撃は、すさまじく町を瓦礫の山に変えた、……が。
「このくまを倒しても、貴様らは、いずれ…………クマー!!」
熊の断末魔が響いた時、長い戦いは幕を下ろした。
「ありがとう五十鈴さん、おぬしのおかげじゃ……」
「しかし、これでは町が……」
「なに、町はまた作ればいい、家はまた建てればいい、奴らに屈しなかったわしらならば、出来ぬ事など無いさ……」
「そうか……」
「五十鈴さーん、ご飯の用意が出来ましたよー!」
町のみんなに炊き出しの用意をしていたすづが大声で呼んでいた。
「何はともあれ、飯を食わんとな」
「そうだな……。おっ、これは豚汁か? うまいな」
「いえ、それは熊汁です!」
「熊? 熊肉って……、あれの肉か!」
「まだまだ、沢山あるので、おかわりをするのです」
こうして町を襲った邪教の軍隊は、皆の胃袋の中に納まった。
撃ちこまれた砲弾は、建物を破壊し町を瓦礫の山と変え、大きな怪我を負った者も少なくはなかったが、人々は懸命に町を再建し始めていた。
だが、彼らを残し一人町の外へと向かう五十鈴の姿があった。
「五十鈴さん、行く気なのかい?」
背後から呼び止めたのはリエナだった。
「ああ、これ以上、こんな悲劇を繰り返さないように、一刻も早く邪神を倒して、世界を救わねばならない」
「それを一人で背負い込もうって言うのかい?」
「これからは、苛酷な旅になるからな……すづを頼む」
「待つのです! すづも一緒に行くのです」
「ダメだ、すづ。リエナとここで暮らせ」
「それは出来ないのです。なぜなら……リエナさんも一緒に行くのです」
「いや、行かないだろう?」
「私も兄さんを探しに行かないといけないし、店も壊れちゃったしね」
「あの墨で納得してなかったのか……しかし、一緒に行っては危険だし……」
「ほー何かい、あんたは、女二人で旅しろとでも言うのかい?」
「いや、そういう訳では……」
「しゅっぱつなのです!」
「すづ、まだ、話が……」
「旅の間に店の再建費用も稼いでもらわないとね」




