荷物を喰らう
「五十鈴さーん」
邪教の屋敷を壊滅させて、町に戻った五十鈴達をリエナが手を振って出迎えていた。
「リエナ、邪教の館は壊滅させたぞ」
「兄さんは! ニコル兄さんはどこ!」
「くっ、苦しい……」
五十鈴は首を絞められ、頭を激しく振られながら、館に行った目的を思い出していた。
そうだった……旅に出てしまった兄を探しに行ったのだった……。
「色々と大変だったんだ、でかい筆を振り回す奴とかいて……」
「なによ! そんなのはどうでもいいのよ、兄さんはどこにいるの!」
「お兄さんなら、すづが確保しております!」
「本当!? 兄さんは無事なの?」
「よくやった、すづ、いつの間に見つけてたのだ……?」
すづが胸を張って差し出したのは、真黒な墨の詰まった、鍋であった。
「まさか……、これが、兄さんなの……?」
「いや、それは違うだろう……」
「ニコル兄さんー!」
鍋を抱えて泣き叫ぶリエナにそっと寄り添ったすづは、見る者の心を和ます柔らかな微笑みを湛えていた。
「大丈夫、お兄さんもこれからは、私たちの胸の内で一緒に生きて行けるのです……すぐに、準備しましょう……」
「すづちゃん……」
二人は手を取り合い、見つめ合う瞳から流れる涙を暖かな思い出に変えて行った。
「……こいつ、食う気だ。墨を兄だと言いながら、それを食う気だ……」
だが、リエナのためにも今はそれでいい……。
そう考えた五十鈴は、静かに彼女たちを見守っていたが、店に飛び込んできた男の叫びに、静寂は破られた。
「大変だ! ユピノ教の軍隊が町に攻め込んで来るぞ!」
「何だと! 奴らめ性懲りもなく、返り討ちにしてやる」
「何を言っているんだ、相手は何万もの軍隊だぞ、一人でどうにかできるもんじゃねぇ、あんたらも早く逃げるんだ」
「そんなにいるのか……、すづ、荷物を纏めろ!」
「はい、すぐ用意します」
「ダメよ、この店を捨てては行けないわ。ここは、私と兄さんの思い出の詰まった、やっと、手に入れた居場所なのよ」
「そんな事を言っても、死んでしまってはどうにもならないだろう!」
「……でも……」
「準備は万全です!」
「すづ! 食べ物は荷物になるから置いて行くんだ」
「わかりました! ……モグモグ」
「今、食えばいいってもんじゃない!」
しかし、一刻の猶予もなかった。
町の中で砲弾の炸裂音と、人々の悲鳴が上がっていた。
「行くぞ!」
五十鈴は、すづとリエナを担いで崩れる建物の間を駆け抜けて行く。
これ程無差別の攻撃を仕掛けるとは、このままでは町が……。
このままでは、皆逃げる事も出来ずに……。
立ち止まった五十鈴は、リエナを降ろし、彼女の腕にすづを押し込んだ。
「ここからは、二人で逃げてくれ……」
「五十鈴さん、どこへ行こうというの……?」
「奴等の狙いは、屋敷を壊滅させた俺だ。俺が出て行けば……すづを頼む!」
飛び交う砲弾に向かって五十鈴は走り出していた。




