6話『いつだって大好きだよ』
ファンヒーターのコンセントを差す。
魔力が供給され、表示がついた。
(魔力は最初の一週間分はサービスって言ってたし、無くなる前に補充しないとなぁ)
ぽちっと電源スイッチを押すと、ファンヒーター特有の燃焼と送風を開始した音がした。
熱が足元に伝わる。
「こったつ~こったつ~、さっむいっな、こったつ~」
浮かんだリズムのまま適当な歌を歌いながら、炬燵へ入った。
「ああ~」
お猫様たちは既に炬燵のなかだ。
(ニャンコたちが溶けるのも分かるなぁ)
炬燵の気持ちよさに、人間も溶けそうだ。
座卓に右頬をぺったりと付ける。
広くなった部屋で、大福丸たちもごろごろしていた。
(うん、やっぱり広くしてよかった)
ふと閉いていた目を開けた大福丸と目が合った。
微かに首を傾げた大福丸が起き上がって傍に来る。
「広くなっていいな。過ごしやすい」
「そうでしょ?」
「炬燵から離れられるから暑くないものね~」
「おうふ、二人には暑かったか……」
「少しな」
(こんだけ毛が厚けりゃそうかぁ)
秋田犬と狼の相の子みたいな姿になっている二人は、秋田犬のころよりシュッとしているが毛の厚みは増している。
がっしりとしていた筋肉がさらに引き締まり、体自体はかなり細くなっているらしい。
(ムキムキが細マッチョになったみたいな感じかな)
ここより更に北にある一年中雪と氷に閉ざされた山で暮らし、氷属性魔法に高い適性を持つ皇狼は、寒さへの耐性が非常に強い。
逆に言うと、暑さにはちょっと弱い。
(北にある国に送られてよかった)
この国の冬はとんでもない積雪量を誇るが、夏はそこまで気温が高くない国なのである。
◇
炬燵がだいぶ温まり、ウトウトしていた美穂は、喉が乾いて目が覚めた。
(炬燵から出たくない……)
でも、水は欲しい。
炬燵に肩まですっぽりと入って、美穂は悩んだ。
「行くか……」
20分くらいぐだぐだしてから、美穂はノロノロと炬燵を出て、台所に水を取りに行く。
「うぅ〜さっむぅ……」
(なんで寝る前に水を持ってかなかったの……)
魔の炬燵に入っていたから、廊下はとても寒い。
コップと、大きな水筒を持って茶の間に戻る。
そーっと扉を開けると、でっかいもふもふが縁側の窓の前で寝ていた。
いつもクルンッと丸まっているしっぽは、完全に脱力して床に伸びている。
安心しきった姿に口元がゆるゆると緩んだ。
いそいそと炬燵の中に戻った美穂は、ふと思い出す。
「ちょっとだけ、確認しておこうかな」
広げた両手の上に魔本を呼び出した。
神とのやり取りの中で、あれこれと細かく注文した結果……魔本は随分と多機能なものになっている。
チラッと、げっそりとした神の顔を思い出した。
(……今度会ったら、もうちょっと優しくしよう)
うん、そうしよう。
「所持品一覧表示」
美穂がそう呟くと、閉じられていた魔本がひとりでに開く。
ページがパラパラと捲られ……やがて、ぴたりと止まった。
そこに浮かび上がった文字を見て、美穂はほっと息を吐く。
「うん。ちゃんとあるね」
そこには、祖父母が亡くなった後、美穂が少しずつ貯めてきた貯蓄と同じ額が記されていた。
異世界へ来る際、生活に困らないようにと頼んでいたものの一つだ。
神はけちらず、きちんと用意してくれたらしい。
美穂はよしよしと頷く。
「ステータス表示、美穂」
続いてそう呟くと、再びページが捲られる。
新たな文字が本に浮かび上がった。
──────────
【小川 美穂】 女 二十一歳 健康
【レベル】1
【体力】23
【魔力】25000000
【スキル】調理 / 栽培 / 調合調薬 / 編み物 / 鑑定
【魔法適正】赤 / 青 / 緑 / 茶 / 黄 / 白 / 黒 / 銀
【異能】魔本
【称号】最高神の使徒
──────────
「……」
(これ、何桁?)
「一、十、百……」
目がパシパシとしてくる「0」をひとつずつ指で指しながら数えていく。
(百万、千万……)
「……ニセン、ゴヒャクマン……」
美穂は唖然とした。
(聞いてはいたけど……)
一般的な人間はもちろん、最も魔力が多い種族の平均魔力量でさえ、遠く及ばない魔力を持つ使徒。
どうせ魔力を減らせないのなら、貰えるものは貰っとこう精神で増やしてもらったから余計に多い。
話を聞くだけではわからなかった規格外さ。
その実感が、ようやく湧いた気がした。
大福丸たちのステータスもちらっと見ると……
「あ、うん」
(……流石は皇狼と紅大山猫ってところかな?)
色々と規格外だった。たぶん総合的には、魔力だけの美穂より凄い。
(一応、家の中も見ておこうかな……)
いかんせん色々とフォローの足りない神様だ。
ほんの少し不安が過る。
(おっちょこちょいをするタイプじゃないとは思うけど)
むしろ、あの神は言われた仕事は完璧にこなすタイプだろう。色々と配慮が足りないだけで。
LDKを除けば6つある部屋を順に回っていく。
祖父母の寝室だった部屋、亡くなった父母の寝室になる予定だった部屋、美穂と大福丸たちの寝室。
そして今、茶の間にした元客室が二つ。
最後に仏壇の置いてある日当たりのいい部屋だ。
仏壇の前で手を合わせる。
「中は本当に同じだね……ただいま」
元暮らしていた家と同じ間取りで、内装や家具の配置も同じ。
茶の間の棚に置いてあった家族の写真や、両親と祖父母の形見の指輪の配置も同じだ。
『家にあるものは、全てそのまま持っていきたいです』
そう願ったのは、祖父母が残してくれた思い出の詰まった家を、今度は美穂が「いつか子供に残したい」と思ったから。
ここにあるのは、魔力がなければ動かない家庭設備や道具以外、全て本物。
元の世界に残してきた物の方が、神の複製したものだ。
「子供の前にまず相手を見つけなきゃだけど……」
色々秘密があるけど信頼できる人、見つかるかなぁと思いながら、写真をひとつ手に取った。
両親が生きていた頃に撮った家族写真。そこに写る美穂は、まだ赤子だった。
ふと美穂は祖母の言葉が蘇る。
『美穂ちゃんは可愛くてしっかり者だから、きっと素敵な旦那様が見つかるわ。』
何の会話がきっかけだったかは覚えてない。
しかし、「生半可な男に可愛い孫娘はやらんっ」といった祖父に祖母が言った言葉だ。
「──うん。そうだね」
美穂は笑う。
「私の秘密ごと受け入れてくれる優しい人を見つけるわ」
だから、どうか見守っていて。
そう願い、写真をそっと撫でた。
◇
炬燵に入ってぬくぬくしながら、うとうとして数時間。
しとしとと静かに降っていた雪が、止んでいた。
(外、見てこようかな……)
「ねぇ、これから外歩いてくるけど、みんなはどうする?」
大福丸たちにそう聞きながら、立ち上がってグググッと体を伸ばす。
「一緒に行こう」
「私も行くわ」
「に~」
「にゃ~ん」
「ほいほい、りょーかい」
大福丸とおはぎは付いてくるようだが、炬燵の中で丸くなるお猫様たちは、このまま炬燵の中でぬくぬくするらしい。
では行こうと、蘭と椿に留守番を頼み、美穂は冬用のコートを取り出す。
もこもこの姿になって外へと出ると、何やらドタドタという大きな音が聞こえてきた。
何だ?と、その音の方向を見た美穂は……
「え"……」
──顔を引き攣らせた。
その音の発生源は、きな吉。ドックランの奥から、凄まじい勢いで駆けてくる。
「え、ちょ………」
(その勢いのまま突っ込んでこないでよ?!)
きな吉にとっては日本に居たころと同じ感覚なのかもしれない。
しかし、秋田犬の頃ならいざ知らず。
「き、きな吉!待った!待った!」
(無理だから!無理だから!無理だからー!私吹っ飛ぶから!)
心の中で悲鳴をあげる美穂の前に……大福丸が立ちふさがった。
そこに、案の定というべきか。
きな吉は一切の減速をせず、大福丸に──突っ込んだ。
どんっ!!と凄まじい音が響き、大きな振動となって伝わってくる。
周囲の木々から鳥が飛び去った。
(うっわぁ……)
「………きな吉」
唖然としていると、目の前から地を這うような恐ろしく低い声が聞こえてきた。
「へ………?」
「バカ息子よ……お前は美穂に怪我をさせるつもりか………?」
ゴゴゴゴゴゴゴ!という効果音が付きそうな怒りに染まった声のあと……怒涛の勢いで、大福丸のお説教が始まった。
ぽかんとしていると、後ろからちょんちょんと突かれ、美穂は振り向く。
おはぎが、美穂の背中に鼻先を触れさせていた。
「家の周りを見るんでしょ?野郎たちは放置して行きましょう?」
「え……でも」
「体の大きさも力の強さも違うんだから、今のうちに覚えとかないとほんとに美穂に怪我をさせかねないわ」
おはぎは、人の姿だったら「困った子ね」と言って、頬に手を当てているような雰囲気だ。
「あなた、お願いね」
「任せろ」
低い声で返事をした大福丸の前で、きな吉が耳をぺたんと伏せる。
「わ、わふ……」
きゅーん……と助けを求めるように、きな吉が美穂を見た。
(ごめん……きな吉)
美穂も命が惜しい。
低い淡々とした声で始まった大福丸の説教と、きな吉のキュンキュンと鳴く声を聞きながら、美穂は畑へと向かった。
それから大福丸のお説教が終わり、二人が合流したのは……
──十数分後のことである。
シルバーウィークなので、期間中は投稿しようかと思います。
シルバーウィークが終わったら、予定通りの投稿サイクルに戻ります。




