5話『ギャップ萌えぇ!』
雪を落とし、「寒い寒い」と言いながら茶の間に入る。
美穂はすぐにファンヒーターのスイッチを入れ、そのまま炬燵へと潜り込んだ。
部屋はまだ寒いが、ファンヒーターの前から炬燵へと繋がるホースから、温かな空気が足元へと流れ込んでくる。
少しずつ冷え切った体がほぐれていくのを感じた。
そのとき。
──ふわっ
炬燵の中で、ふわふわとした被毛が足に触れた。
「もう~、ま~たそんなところに居たら蹴っ飛ばしちゃうぞ~」
きっと寒い地域の猫飼いあるあるだろう。
炬燵の中へと入った猫たちは、何故か人の足元で夏のようにぐで~っと伸びる。
そして、うっかり彼らを蹴飛ばし、微睡みを邪魔した人間の足を噛むのである。
人間の言葉を理解しているはずのお猫様たちは、返事すらしない。
既に炬燵の中で丸くなり始めているらしい。
きっと炬燵がしっかり温まりぬくぬくになるころには、夏場の日向にいる猫のように溶けていることだろう。
「あ~二人ともあったかい~」
ぽすん、と美穂は大福丸のお腹に倒れこむ。
炬燵の中はまだ温まり切っていない。
しかし、傍に寄り添ってくれている大福丸とおはぎの体は、とても暖かかった。
顔を埋めてわしわしと撫でまくり、ぐりぐりと顔を押し付ける。
ぱたり、ぱたり。
二人の尻尾が、畳の上に敷かれた絨毯を楽しそうに叩く。
美穂はむぎゅむぎゅと大福丸に懐いていたが、しばらくして炬燵の中も温まり、部屋の空気もすっかり暖かくなってきた。
大福丸の腹から顔をあげた美穂は、目の前の光景を見て少し考えた。
「……大ちゃんとおはぎからしたら、この部屋って狭いよね?」
「ん?うん、そうだな」
「そうね~、横にはなれるけど寝返りは打ちにくいかも」
巨大化した二人はでかい。とにかくでかい。
大福丸より一回り小柄なおはぎでさえ、地面から頭まで200cmは余裕で超えている。
(250くらいはあるかな……)
畳部屋だから横になれているだけで、めちゃくちゃぎゅうぎゅうだ。
ここにきな吉まで来たら、茶の間はワンコのおしくらまんじゅうだ。
美穂は決めた。
「よし、お引越ししよう」
「お引越し?」
おはぎが首を傾げる。
ぴんっと立つ、やや前に傾いた秋田犬らしい肉厚の耳が、美穂の方を向いた。
(やっば、めちゃくちゃかわいい)
「うん、どうせ私たちだけだし、客室二つを繋げてそっちを茶の間にしちゃおう」
「俺たちはここでも構わないが……」
「私が嫌なの」
異世界に来たのだ。
なら、家の決められた間取りというのを、好きなように取っ払ったっていいだろう。
「蘭~椿~お引越しするよ~。出てきてー」
「んな~」
「んにゃっ」
一応声は返ってきたが、生返事だ。
美穂の声に「聞いてるよ~」と反応しただけだ。
「もう、炬燵しまっちゃうからね!」
そう言いながら、美穂は右手に魔本を出現させる。
「格納!」
ぱらぱらと、ページがひとりでに捲られ始める。
止まると、開いたページが薄っすらと光り……次の瞬間。
目の前にあった炬燵が、布団ごと消えた。
──炬燵一式
見下ろしたページに、そんな文字が追記された。
「ん~便利っ、頼んでおいてよかった」
望み通りの仕様になっていたことに満足した美穂は、次々と必要なものを格納していく。
魔力で動く魔道具になっていたファンヒーター、テレビ、テレビ台、炬燵ホース、畳の上に敷いていた絨毯。
八畳はあった茶の間から、瞬く間にものが消えていく。
「……ここって、これだけ広かったんだね?」
「んにゃ~」
──もう、いきなり何するのー
「なう~」
──寒い
割と気が強い椿が美穂に抗議を入れ、のんびり屋の蘭が大福丸のお腹でくるんと丸くなる。
「お引越しするって言ったじゃん。客室の方に炬燵置くから、そっちであったまってよ」
というわけで客室へレッツゴー。
「んにゃっ?!」
大福丸が立ち上がったことで、蘭が畳の上に落ちた。
玄関を挟んで、茶の間の反対側にある開き戸を開くと、そこは縁側だ。
左側には窓があり、客室の二部屋は右側にある。
「じゃあ、襖を全部とっぱらっちゃおう」
「手伝おう」
「手伝うわね~」
「お願いね~」
客室と縁側を仕切る襖、二つの客室を仕切る襖。
それぞれ取っ払っていく。
大福丸とおはぎはもふもふの手で器用に外していく。
お猫様たちは部屋の隅っこに重ねてあった座布団の上で、くっついて丸まっている。
最後に置かれていた座卓を二つ魔本に仕舞った。
「こうしてみると解放感凄いね」
十畳の部屋が一つ、十二畳の部屋が一つ。
全部で二十二畳だ。
縁側を含めると二十五畳は超える。
「んー、レイアウトはどうしよ」
何も考えてなかった。
「みんなはどうした方がいいとかある?」
「炬燵は入口側に置いたら?入ってきてすぐ温まれるでしょ?」
「奥の部屋側は広く取っておけば、全員好きに過ごせるだろう」
「じゃあ、そうしようかな。ちょうどコンセントもあるし」
「にー」
「んんにゃっ」
──お任せでー
──早く炬燵付けてー
「はいはい」
ワンコ組とニャンコ組のこの返事の差。
(自由だなぁ)
さすがにお猫様。
早くとせっつかれたので、さっそく取り掛かる。
「取出し、絨毯」
もっふもふの毛が長めの絨毯が、ぱっと畳の上に現れた。
ちょっと位置を調節してから、ぱっ、ぱっ、ぱっと残りの家具も設置していく。
「楽、やばいめちゃ楽なんだけど……っ!」
模様替えと言えば、普通は重労働。
なのに魔本に仕舞って、移動して、取り出しての三工程で終わってしまった。
「楽しそうね~」
「楽しい!」
「美穂が楽しいなら俺たちもうれしい」
「だ、大ちゃん……っ!」
美穂はジーンと来てしまった。
お座りしている大福丸にヒシッと抱き着き、毛の厚い首元に頬を擦り付ける。
ぱたぱたと揺れる丸まった尻尾が目に入った。
声は超イケボ。声のトーンもクールな大福丸。
しかし、尻尾はふりふり。
(か、かわ……っギャップ萌ぇぇ!)
美穂、大福丸の新たな魅力に気づいちゃいました。




