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目の前の男が言うには、私は使徒になるらしい  作者: 湯ノ宮 春
第一章『本の迷宮喫茶』

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3話『みんな、だーいすき』

本日3話の投稿となります。

 世界屈指の大国『アルヴェリア王国』

 

 その大神殿に、その日。

 

 ──ひとつの神託が降りた。

 

『──新たな使徒を遣わす』

 

『使徒の願いは、穏やかな平穏と、市井での静かな暮らし』

 

『使徒を探すこと、罷りならぬ』

 

『決して、使徒の平穏を脅かすことなかれ』

 

 神託を受けた神官長は、ヴェールの下でゆっくりと瞼を上げた。

 

「──神託が下りました。女王陛下へ謁見を申し出ます」

 

 その日、アルヴェリア王国女王と神殿の共同声明に、世界が驚愕した。

 

 未だかつて聞いたことのない使徒の望み。

 

 それを粛々と受け入れた神殿と大国の王家。

 

 使徒と共に生き続ける世界の住人たちもまた、静かに受け入れた。

 

 ──それが、使徒の願いであるのなら、と。

 

 

 ◇

 

 

「ここは、お店側かな」

 

 美穂は建物を見渡す。

 

 そこはきっと、犬猫好きなら一度は思い浮かべるお店。

 

 美穂にとって、やりたいことなんて今までの生活と変わらない。

 

 畑を耕し、自給自足して、隙間時間に読書をして、保存食を作って、編み物をするような、のんびりした暮らしだ。

 

 このお店は、ないよりあった方がいいかな?と思って頼んだものだ。

 

 せっかく無償で用意してくれるのだから「貰えるもんは貰っとこう」と、貧乏性を発揮して建物だけ用意してもらった。

 

 実際にお店をするのかも、どんなお店にするかも決まっていない。

 

 しかし、もふもふした被毛が魅力の家族は自由に出入りさせるつもりで、それなりに大きい建物。

 

 柔らかいオレンジ色の明かりや、少し暗めの落ち着いた色の板が打ち付けられた壁、柔らかい飴色のフローリング。

 

 太陽の光がたっぷりと差し込む大きな窓。

 

 何より目を引くのは、高い天井に複雑に交差するように設置されている猫たち専用の道──キャットウォークだ。

 

 この店でひと際大きな窓は出窓になっていて、猫たちのくつろげる場所にもなっていた。

 

 左手を見ると、手首までを覆う手袋を着けていた。

 

 手首の内側にある鍵の模様は、触ると滑らかで一見ただの模様に見える。

 

 しかし、神に頼んで用意してもらった手袋だ。当然、ただの模様ではない。

 

「──解錠」

 

 発動キーを口にすると、手袋の前に銀色の鍵が現れた。

 

 それは、模様でしかなかったはずの鍵穴にひとりでに差し込まれ、カチリという音とともに半回転すると、光となって消えて行った。

 

 この手袋は一度身に付けると発動キーを口にしない限り外れない手袋だ。

 

 何故そんなものを頼んだかといえば……

 

「これは確かに目立つ」

 

 ──手袋を外した左手の手の甲にある銀色の刻印が答えだ。

 

 「使徒であることを隠し、ひっそりと畑を耕しながらのんびり生きる、」と言った美穂に対し……

 

『それは良いが、刻印の位置はランダムだ。それなりに目立つものだから、場所によっては隠さないとバレるぞ』

 

 と、呑気に言った神を絞りに絞って、「使徒には証となる魔力刻印が刻まれる」ということを聞き出した。

 

 神話文字と呼ばれる細かい文字の群れが、美しい模様のように刻まれている。

 

 魔力刻印にこの神話文字を使用することが許されているのは使徒だけ。

 

 使徒以外が神話文字を体に刻印すれば、神罰が下される。

 

 刻印があって無事、ということは、問答無用で使徒認定待ったナシである。

 

 刻印が現れる場所は指定しなければランダムだが、指定はできるというので、美穂は左手を指定した。

 

 服で隠れる場所というだけでは不安だったからだ。

 

 その上で用意してもらったのがこの手袋だ。

 

 うっかり人前で外したり、他人に勝手に外されないように、かつ透視系の魔法や能力も無効化し、防水性があり、手が蒸れたりしないように常に清潔な状態を保ち、魔力を流すと汚れを浄化する能力がある。

 

 無駄に高性能というなかれ。

 

 美穂の平穏な生活のためには必要不可欠な必需品である。

 

 外した手袋を再度着けると、発動キーを口にするまでもなく現れた鍵が、すぐに施錠して消えて行った。

 

 すりっと何かが美穂の体に擦り寄った。

 

「皆……私の……お、おおお? ず、随分と大きくなったね」

 

 美穂の大切な家族。

 

 彼らは美穂と同じ時を生きることができるように、動物の犬と猫から、種族が聖獣と幻獣へと変わった。

 

 それに伴い、知能も非常に高くなっている。

 

 祖父の元狩猟犬だった秋田犬の家族。

 

 父親の大福丸、母親のおはぎ、息子のきな吉。

 

 それぞれ被毛の色から付けられた名前だ。

 

 彼らは神獣フェンリルの子孫、皇狼(おうろう)という聖獣となった。

 

 ──天空の覇者"神龍"

 

 ──炎の化身"鳳凰"

 

 そう呼ばれる彼らと並び、三大聖獣と呼ばれ、この世界の弱肉強食の頂点の一角に立つ存在。

 

 ──地上の王者"皇狼"

 

 とても賢い彼らは、長く生きれば人の言葉を操ることもできる、高い知能を持つ。

 

 秋田犬だった頃より、少しだけフォルムがシュッとした大福丸たちは、被毛の色が違う変異種ということになっている。

 

 元捨て猫の黒猫兄妹、兄の蘭と妹の椿は、紅大山猫(クリムゾンリンクス)の変異種だ。

 

 名前の通り、通常は落ち着いた紅色の被毛を持つ大きな山猫の姿をしている。

 

 暗闇や見通しのきかない森の中で遭遇し、獲物として狙われたら、まず生き残れないと恐れられている幻獣らしい。

 

 姿かたち自体に大きな変化はない。

 

 しかし……

 

(でっかい……もっふもふ)

 

 超大型犬を通り越した愛犬たちは、伏せの状態なのに床に座る美穂より頭の位置が高い。

 

 中型の猫だったはずの愛猫たちは、大型猫並みのサイズだ。

 

(なんだっけ……ノルウェージャン……えっと、フォレストキャット……だっけ?)

 

 世界一でかい猫が、確かそんな名前だった気がする。たぶん、それくらいある。

 

 彼らは種族が変わり、成体の年齢も変化した。

 

 10歳だったきな吉と、7歳だった黒猫兄妹は、体は大きくなったのに、幼体の子狼と子猫だ。

 

 つまり、これからまだ大きくなる。

 

 しかし、成体にしろ、幼体にしろ、大きくなった分だけ埋もれがいのある素晴らしいもふもふっぷりだ。

 

「皆、私の独断でごめんね」

 

 神がそれぞれ簡単に説明してくれているはずの彼らに謝ると、ぴったりと美穂に寄り添う彼らは鳴き声を上げる。

 

「気にしないで」とか「置いてかないでくれてありがとう」、「一緒に入れて嬉しい」と言っているのが分かる。

 

 犬飼い、猫飼いなら誰もが一度は夢見る「彼らが思っていることを知りたい」という要望故だ。

 

「これからもよろしくね」

「こちらこそ」

「よろしくね、美穂」

「うん………ん?」

 

「あれ……?」と、美穂は笑顔のまま首を傾げた。

 

 今何か鳴き声以外が聞こえた気がした。

 

「わ、ちょっ、まっ」

 

 きな吉が「わんわん」と鳴いてべろんべろんと美穂の顔を舐める。 

 

 ひたすら「大好きーー!!」という感情が、これでもかというほど伝わってくる。

 

 子狼のきな吉は親の二人よりは小さいと言え、超大型犬を越えたびっくりサイズだ。

 

 そのままのしかかられ、美穂は床に引き倒された。

 

 しかし、そんな大好き大好きと言われたら、怒る気になんてなれない。

 

 頭が良くなっても彼の本質は変わらないのが嬉しくて、もみくちゃにされるがまま、逆に彼のもふもふの被毛を堪能した。

 

 呆れたような黒猫兄妹の「やれやれ」という気配が伝わってきた気がしたが、きっと気のせいだ。

 

 せっかく目の前にふかふかの被毛があるのに、堪能しないというのは犬好きの名折れというものだ。

 

「息子よ、嬉しいのは分かるが美穂がべとべとになるぞ」

 

 思わず、うっとりと、聞き惚れてしまいそうな男の美声と共に、きな吉がべりっと引き離される。

 

 きゃんきゃんきゃんっ!と鳴き、「離せー!!」というきな吉の声を聴きながら、美穂は体を起こし……思った。

 

(やっぱり気のせいじゃなかった……)

 

「………今、誰かしゃべらなかった?」

「ん?話したぞ」

 

 ぺいっと、きな吉を放り投げた大福丸の口の動きに合わせ、男の声が美穂の耳に届いた。

 

「しゃ……」

「しゃ?」

 

 目を見開いて美穂は、首を傾げた大福丸の口元を凝視した。

 

「しゃべってる?! だ、だだだだ大ちゃんがしゃべってるーーーっっ?!!!」

「それほど驚くか?皇狼が人の言葉を話せるのは知っているだろ?」

 

 それはもちろん知っているけども。

 

 それでも、ついさっきまで人の言葉を話さなかった大福丸がしゃべるのは、中々に衝撃だった。

 

「子供たちはまだ話せないみたいだけど、私たちは人の言葉を話せるわよ?」

「まじか………」

 

 美穂がびっくりしていると、くっくっくっと低い声で大福丸が笑う。

 

 低い重低音で、腹の奥底まで響くような笑い声だ。

 

「そんなに驚いたか?」

 

 楽しそうに笑う大福丸の、穏やかで優しい褐色の目は祖父を思い出させた。

 

(あ……)

 

 その途端。

 

 すとん、と彼らがしゃべる事実が、違和感なく胸に落ちた。

  

「大ちゃんもおはぎも美声だね。」

 

 人の言葉を話す大福丸の声は、低くどこか甘くて、おはぎの声は透き通って落ち着いている。

 

「そう?ありがとう」

 

(どうして)

 

 美穂は、二人の優しい目を見ていると祖父母を思い出すのだろう。 

 

「……どうした?」

 

 ぺろんと大福丸に顔を舐められて、自分が泣いていたことに気が付く。

 

「どこか怪我でもしたのか?」

 

 心配そうに顔を覗き込む二人の後ろで、きな吉がペタンと耳を伏せ、おろおろとした表情でうろうろとしている。 

 

『どうしようどうしよう。僕のせい?ごめんね、ごめんね。』

 

 キュンキュン鳴きながら不安そうなきな吉が可哀想で、美穂は大福丸とおはぎの間から手を伸ばした。

 

「大丈夫よ」

 

 遠慮がちに濡れた鼻が指先に触れ、そっとマズルを撫でる。

 

 キューン

 

 ほんと?ほんと?

  

「何もないんだな?」 

「うん、ほんとう。大丈夫よ」

 

 へらっ、と笑って、ずっと大きくなった大福丸とおはぎの首に抱き着く。

 

「………みんな、だーいすき」

 

 少し震えた小さな声。

 

 きっと彼らが人だったら聞こえていなかったかもしれない。

 

 でも、ぴこぴこと可愛らしく動く彼らの耳には、しっかりと届いた。

 

「俺も大好きだよ」

「私も美穂がだ~い好き」

 

 僕も、私もと、向けた以上の言葉と愛情が返ってくる。

 

 胸に温かな幸せが広がって、美穂は心からの笑みを浮かべた。

 

明日より、土曜日、日曜日、月曜日、金曜日の夜20:30から投稿を行います。


面白かったな、続きが気になるな、と思ってくださった方は評価やブックマークなどしてくださると嬉しいです。


また、最後に宣伝をさせてください。


本日、別作品の第一章が完結しました。


『最愛の妻と創る癒やしの迷宮~一度失った君とこの世界で過ごす永遠の時~』


夫婦愛をテーマとした作品です。

全33話となります。


こちらもぜひ、覗いてみてください。


今後ともよろしくお願いいたします!

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【第一章完結済み作品】
最愛の妻と創る癒しの迷宮〜一度失った君とこの世界で過ごす永遠の時
一度は死に別れた妻と、もう一度生きる奇跡を得た夫。
今度こそ離れないと誓う。
永遠に続く、二人で過ごす夫婦の第二の人生。
(異世界転生・恋愛・夫婦愛・ほのぼのシリアス )

目の前の男が言うには、私は使徒になるらしい
強大な力を持つ使徒になっても、優美が望むのは、もふもふな家族たちと過ごす穏やかな毎日。
(異世界転移系ファンタジー・もふもふ・ほのぼの全27話)


【連載中作品】
聖騎士皇子は今日も、婚約者を甘やかす〜断罪イベント?いえいえ、ただの溺愛イベントです〜
「ルナ、口を開けて?」
始まった断罪をよそに、繰り広げられるあーん。
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