2話『全てきちんと説明しないのが悪い』
本日2話目となります。
一先ず元の世界での一番の憂いもなくなった。
(何が必要かな)
そう考えて、美穂は情報不足に気が付いた。
「色々要望を出す前に、向かう先の世界のことを知りたいです」
「相分かった。ではまずそちらの説明から行うとしよう」
(……この感じだと、これまで使徒として送り込んだ人たちには説明しなかったんだろうなぁ)
事前説明もなしに喜び勇んで受け入れた彼らも彼らだが、この神もまた使徒への配慮があるとは言い難い。
(ああでも、神様は身勝手だって言うし……)
配慮だのなんだのと勝手に期待しているのは人間で、聞けば答えてくれる分そこまで身勝手でもないかもしれない。
(価値観も違う存在に人の価値観を押し付ける人間の方が身勝手なのかな)
「まず私の管理する世界と、君がいた世界の一番大きな違いは魔力というエネルギーが満ちていることだろう」
そんなことをつらつらと考えながら、美穂は神の説明に耳を傾けた。
◇
(文明レベルは、地球とあんまり変わらない感じかな)
一通り説明を聞き、美穂はそう思った。
魔法があるから技術が発展していない、ということもないようだ。
(物価もあまり変わんないみたいだし)
「そもそも使徒って、そちらの世界ではどう扱われてるんですか?」
「使徒というのは、先ほども言った通り世界を安定させる存在だ」
やるべき義務もないし使命もない。
「ふむ、そうだな。あえて言うのなら、心穏やかに過ごしてもらえば加護が安定する。加護の恩恵の強さは使徒の精神状態に左右される故な」
しかし、それはあくまでも神の視点。それが異世界の住人となると、少し事情が変わる。
神が与える加護の主な効果は、魔力の浄化だが、その副次効果として、使徒が暮らす周囲一帯の天候は安定し、豊穣が約束されるのだ。
土地が肥沃となり、作物は害虫や病気がなくなり、収穫量が増える。
森や山の恵みは豊かになり、それを食べる獣がよく肥え、大きく育つ。
その豊穣は海にまで作用するというのだ。
しかも、使徒は例外なく異世界の住人たちとは比べものにならない魔力を持ち、彼らでは発動できない大魔法を使うことができた。
広域殲滅、広域防御結界、瀕死重症者の蘇生、長距離転移、天候操作。
自国の使徒が様々な大魔法の一つでも使えるだけで、防衛はもちろん、世界における国の影響力にも大きく影響を与える。
使徒がいる。
それはつまり、国が安定するということだ。国が安定すれば、国力の強化も容易となる。
使徒は、国にとって喉から手が出るほど欲しい存在だった。
「うっわ……面倒くさっ」
美穂はぼそりと呟いた。
喉から手が出るほどに欲しいということは、誘拐の危険もあるということではなかろうか。
「実際に狙われたとして、攫われることはありえぬ。使徒の重要性を理解している国が厳重に守る故な」
保護される前に他国に攫われることもないという。
流石に神も、何も知らない使徒をそのまま放り出したら野垂れ死ぬ、というのは分かっているため、使徒を送る国の神殿に、使徒を送ると神託を下し、国に保護させているのだ。
だから、使徒は転移後すぐに保護され、国賓として丁重にもてなされる。
「でもそれって、神殿の上層部が欲深い人とかだと、隠蔽されて閉じ込められたりはしないんですか?」
「不正や私腹を肥やす神官には容赦なく神罰を下している故、そういった類の神官はおらん。仮に隠したとしても、加護の恩恵はすぐに表れるのだ。国もすぐに分かる」
使徒を通してではあるが、神の存在が非常に近いこの世界では、同時に神の怒りを買う恐ろしさも知られている。
目の前の男は、他の世界から使徒を、その使徒の寿命まで借りているのだ。
管轄外の魂に興味はなくとも「自分の管理する世界の魂は大切」という神も多く、この神も慎重だった。
下手なことをやらかすと、神同士で争いとなることも珍しくない。
「そもそもそういう人間がいるところに君たちを送ることはない故、安心するといい。君たちを大切にしてくれるところに送るとも」
逆に言うと、だからこそ使徒が送られる国というのも特定の国ばかりとなり、使徒が与える豊穣のお陰で大きくなった大国がほとんどだった。
「仮に攫われて理不尽な目にあっても、そういった国は例外なく魔力を暴走させた使徒の魔力で吹き飛び滅んでいる。使徒自身や使徒の意思を蔑ろにすることの恐ろしさは、赤子以外全員が知っていることだ」
「……」
……なんて?
今とんでもないことを聞いた気がする。
「えっと……魔力の暴走で国が吹っ飛ぶんですか?」
「普通の人間ではありえないが、使徒は加護の副次的な作用で膨大な魔力を身に宿す。それが負の感情が爆発して魔力が暴走すれば、大国でさえも容易に吹き飛ぶ」
「……」
美穂は頭を抱えた。
とりあえず、色々と聞いた方が良いのはよく分かった。
──後出し後出しで爆弾発言をする神を質問攻めにした結果。
まず、魔力は増やすことができても、減らすことはできないことが分かった。
はっきり、諦めろ、と言われてしまった。
暴走が怖いのなら、魔力をしっかり制御できるように訓練する必要がある。
元々、魔力は増えれば増えるだけ制御が難しく、暴走しやすくなる性質がある。
精神状態が不安定であればなおさらだ。
「日常的に魔法を使っていれば半年程度でそうそう暴走しない程度の制御技術は身につくだろう」
「……」
あまりにも呑気だ。
「最初から魔法が使えて最初から制御できる状態にできないんですか?」
「ん?できるぞ」
「……」
(やっぱり聞いてよかった)
美穂は小さくため息をついた。
それから色々と話を聞き、美穂が出したい要望もある程度まとまったところで、いくつか要望を出した。
──その結果。
「わ、分かった。ちょっと待て、流石にお前の望みは細かすぎる。お前の望みは大抵叶えられる異能にしておく故、欲しければ後から自分で用意してくれ」
「………異能?」
神はちょっとげっそりしてギブアップを宣言。
しかし、また知らない言葉が出てきた。
まだ聞いていないことがあったのか、と美穂は目を細めた。
目の前の神の顔が引き攣ったが、問答無用。
──全てきちんと説明しないのが悪い。
「きりきり吐けい!」と美穂は容赦なく話させる。
神がポロッと口走った「異能」というのは、魔法とはまた別の力だ。
魔力があれば誰でも使える魔法とは異なり、所有者はおよそ数千人に1人。
有名どころだと水を出したり、炎を出したり、魔法のような効果がある異能や、筋力を強化する怪力、速度を強化する加速などがある。
多種多様な異能があって、世界で1人だけの所有者ということも珍しくなかった。
「つまり、その異能を私の望むとおりのものにしてくれるということですか?」
「うむ、そうなる。君の望みを全て詰め込むとなると、かなり強力な異能となるが、人目のあるところで使わなければいい。表向きは自動で発動する防御能力と言っておけば、周囲もそう認識してくれるだろう」
「それって具体的にどういうふうに発動するとか要望出してもいいんですか?」
「え……あ、ああ、うむ、か、構わぬが……」
「え?マジで?」と言わんばかりに一瞬だけ固まった神。
しかし、口元を引き攣らせ、目を泳がせながらも……頷いた。
何やら顔が若干青ざめている気がするが、きっと気のせいだろう。
美穂はにっこりと笑って、細々と己の能力をカスタマイズし始めた。
「あ~、他には何かあるか?」
「う~ん、後から思いついたらそのお願い聞いてくれたりしませんか?」
「わ、分かった。異能に私と連絡が取れる機能を付けておく………あまり頻繁には連絡しないでくれ」
最後にそうぼそっ、と付けられ美穂は苦笑いを返した。
ちょっとやりすぎたようだ。しかし、後悔はしていない。
今までの生活基盤を全て取り上げられ、常識が通じず、知人もいない世界に放り込まれるのだ。
なら、生活していくためには、このくらいは要求して当然だと思う。
「最後のは念のための保険ですから。早々連絡することはないと思いますよ」
ただちょっとげっそりしているのが可哀そうなのでそうフォローしておいた。
「う、うむ。期待しておこう」
本当か?と疑うような眼差しには、にっこり笑顔でシャットアウト。
「あ、あとはないか? ないよな? もういいよな?」
良いと言ってくれ、と言いたげな神に美穂は頷く。
「はい、大丈夫です」
「うむ分かった。ではこれから君を異世界へと送ろう」
心底ほっとした様子の神は、「美穂の気が変わらないうちに」とでもいうように、早口でそう言う。
ふわっ、と美穂の足元が光った。
「君は他の使徒たちと違い、国や神殿といった庇護する存在がいない。最初はああ言ったが、困ったことがあれば遠慮なく連絡してくれ。そしてどうか願わくば………」
──君がこれから向かう世界を好きになってくれると嬉しい。
その言葉を最後に光が強くなり、気が付けば──美穂は建物の中にいた。
3話は午後8:30の更新となります。
いよいよ、もふもふな家族との再会です。




