16話『私が今のところ一番の新入りなんですよね?』
今日分の野菜を収穫して魔法で土の汚れを落とす。
それから、大福丸たちと家に戻った。
台所に入った美穂は………
「やあ、異世界生活は順調みたいだね」
ダイニングテーブルに座る見知らぬ男の姿に固まった。
美穂たちの家がある森は、美穂の結界のみならず、大福丸とおはぎも結界を張っている。
だから、美穂か大福丸たちが許さない限り、侵入できない。
(えっ?嘘?!)
慌てて結界を確認するも、何の異常もなく張られ続けていた。
敷地の中をパトロールしている森林桃色大蜜蜂も、全く騒いでいない。
引きこもりになっている美穂と違い、大福丸たちは外部との交流を持っているらしいが、全部人外。
現地人とは交流が無かったはずだ。
人の姿をした目の前の男を、大福丸たちが招いた可能性は低かった。
(あ、もしかして人化してる……?)
「最高神か、何か用か」
「へ……?」
この男の正体は、大福丸により判明した。
「最高、神……?」
それってなんだっけ?と美穂は首を傾げ、理解が追いつくと目を剥いた。
(それって私たちをここに連れてきた元凶じゃーん?!)
「うむ、元凶だ」
相変わらず人の心を読む女心を知らない神だ。
こちらに来る前の姿とは別の姿だが、浮世離れした雰囲気も変わらない。
(自分で元凶とか言っちゃうんだ……)
「……異能で連絡もしてませんが、今日はどうされたんですか?」
「うん?ああ……今回は言わば定期的な様子見、と言ったところだ」
元々、送り出した使徒の元へと定期的に様子見に行っている、と神は続けた。
「送り出して1年程度で見に来るというのは滅多にないがな」
それでも美穂の様子を見に来たのは、誰の庇護下にも入っていない美穂を気にかけてのことだった。
「何をしていても良いと言ったのは私だが……」
神は表情に呆れを滲ませる。
「まさか一年も引きこもっているとは思わなかったぞ」
(そう言われても……)
「引きこもるのはむしろ必然だと思いますけど」
美穂はとってきた野菜や卵を台所に置く。
その隣に大福丸がお肉を置いた。
招いてはいないけど、一応はお客さんだからとお茶を出す。
「のんびりしたスローライフが夢だった人間が、自給自足できて、働かなくていい環境を与えられたんですよ?あ、話しながら料理して良いですか?」
「気にしなくていい」
無事に許可を取り、まな板と包丁を取り出す。
大福丸たちが人の姿から本来の姿へと戻った。
「ここには癒しのもふもふも居ますし」
のんびりと手芸をする時間や、好きなだけ読みたい本を読む時間もある。
「自給自足で大抵のものは用意できます。なければないで異能を使えば済みますし」
電気光熱費は自分の魔力で代用できるから、お金も必要ない。
元々異世界にはいやいや来たし、異世界人にも特に興味が無かった。
引きこもる美穂の元に訪れ、連れ出そうとする親戚もいない。
農家をして日本で暮らしていた以上にしたいことだけをして、穏やかにスローライフを満喫できるこれ以上ない環境だ。
「いや……うむ、君が穏やかに過ごしてくれている以上、私としては言う事は無い。……若い娘としてはそれでいいのか、と思わないでもないが」
美穂はすっと視線を逸らした。
まだ21………いや、22歳なのに、世捨て人のような御隠居生活をしている自覚はある。
でも将来はともかく、今は別に結婚に興味はないし、出会いも求めてないのだ。
人間らしい文化的な生活もできて、不満だってない。
「せっかく店も用意したのに悲しいぞ」
確かに、貰えるものはもらっておこう精神で要望していた店は、ものの見事に放置されているが。
初日に店を見て回って以降、入ってすらいないから、塵がだいぶ積もっているかもしれない。
(確かに……ちょっと勿体ないかも)
あれだけ大きくて立派なお店を貰ったのに使わないなんて……と、今更ながら貧乏性の勿体ない精神が顔を出す。
「う~ん、ちょうど一年経って落ち着きましたしそろそろお店開こうかと思います」
そう考えると、このタイミングで神が訪れたのは良いきっかけとなった。
多分彼が来なかったらいつまでも引きこもり続けていただろう。
神と雑談しながら朝食を食べ、お茶請けにと先日作ったクッキーを出す。
神にも薦めると、うまいなと言いながらパクパク食べていた。
「魔法も随分とたくさん覚えたようだな」
「そうだね。生活に必要な物は大体覚えたかな」
丁寧な言葉にしなくていいと言われて、美穂は砕けた言葉で答えた。
魔法は本当に便利だ。
お陰で掃除も一瞬で終わるし、食後の食器や調理器具も、水や洗剤を使わず綺麗になる。
あちらでは重労働だった力仕事も魔法を使えば簡単だし、異世界に来て魔法を覚えたことで家事も農作業も格段に楽になった。
もしかしたら、魔法に頼りすぎて筋力や体力は落ちたかもしれない。
「レベルも類を見ないほどの速さで上がっているようだな。たった一年でそこまで上がっているのは初めて見たぞ」
そう言われてすっかり忘れていたステータスの存在を思い出す。
「忘れていたのか………」
「いやだって、普通に生活する分には頻繁に見る必要はないし」
ラノベ好き、ゲーム好きならもしかしたらレベルの上昇が気になるかもしれないが、美穂は興味無い。
スローライフのため、生活に必要な魔法が使えればいいのだ。
(まあ一年経ったし、見ておこうかな)
クッキーをポリポリとしながら、魔本を出し、ステータスを表示させた。
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【小川 美穂】 女 22歳 健康
【レベル】73
【体力】30
【魔力】50000000
【スキル】調理 / 栽培 / 調合調薬 / 編み物 / 鑑定 / 錬金 / 魔道具作成
【魔法色】赤 / 青 / 緑 / 茶 / 黄 / 白 / 黒 / 銀
【異能】魔本
【称号】最高神の使徒 / 精霊たちのお友達 / 森林桃色大蜜蜂女王のお気に入り
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ぺらぺらと1ページの片面に一人分ずつステータスが浮かんでいる。
魔力はなんと倍。逆に体力は倍どころか1.5倍にすらなっていない。
新たに増えた錬金スキルと魔道具作成スキルは、日本にいた時と同じように道具を自分で直したり、自分で作ったりしたから得たスキルだろう。
称号に関しては……
(うん……見たまんまだね)
森林桃色大蜂蜜蜂女王の『お気に入り』というところが実に正直だ。
魔本を捲ってもふもふ軍団のステータスも眺める。
全員例外なくレベルが上がっていた。
むしろ一番レベルが低いのが美穂だ。
「一年でだいぶ上がったね」
「今のところ使徒で一番レベルが高いのは君だ」
「ん? 私が今のところ一番の新入りなんだよね?」
使徒同士のレベル差がそのまま国同士の格差にならないように各国に使徒が送られるタイミングはそこまで変わらない。
だが、そこまで変わらないというのはあくまでも神の基準だ。
異能で手に入れたこの国の新聞や情報誌なんかを見る限り、一番早い人だともう10年以上前にこの世界に来ているようだ。
一番の新入りである美穂のレベルが一番上となっているのは何故だろうか。
「普通は戦闘もせずそこまで上がるのは珍しいんだが………」
神が、ちらっと首を傾げる美穂を見て、今度は家を見渡した。
「24時間、毎日それだけ高位の魔法を常時発動していれば、それくらいは上がるか」
美穂は敷地とその周辺を覆う数種類の結界以外にも、家や敷地内に色々な魔法をかけている。
そしてそれは常に発動状態にしていた。
最初に覚えた敷地を覆う侵入防止結界なんかは1年近く張りっぱなしということになる。
ステータスのレベルというのは、自分の魔力とは別の魔素を取り込むことで上昇する。
当然ながら取り込むことのできる魔素の量は個人差があり、その差はレベルの上昇速度に影響した。
しかもそのレベル上昇の方法は一つではない。大まかに三通りに分かれる。
一つは魔法を使う方法。
この世界の魔法は、魔法を使う際に自身の魔力だけではなく、周囲の魔素を取り込み発動する仕組みだ。
魔法を発動させる際に取り込んだ魔素の一部が肉体強化させるため、魔法が使える人間は比較的レベルが上がりやすい。
ただし、身体能力よりも魔力の伸びの方が大きいという傾向があった。
二つ目が鍛錬をする方法。
この世界の生命は体が疲れると、疲労した体を回復させるために、周囲の魔素を取り込もうとする。
この仕組みを利用し、鍛錬を行って肉体強化をするやり方だ。
ただ、魔法を使うことに比べると取り込める魔素は遥かに少なく、上昇速度は非常に遅い。
そのうえ、体力やステータスに表示されない身体能力の伸びは良いが、魔力はほとんど伸びない。
三つ目は魔物討伐をする方法。
魔物を討伐した際に討伐した魔物の持つ魔素を取り込み、その魔素が肉体を強化するのだ。
魔法を使った際と変わらない魔素を取り込むことができ、レベルの上昇速度は非常に速い。
ただ、魔法を使って倒せば魔力が伸びやすく、魔法を使わなければ、身体能力が強化される。
美穂は完全に、魔法の発動による魔素の取込のみでレベルが上がった一つ目のパターンだった。
ちなみに大福丸たちは一つ目と三つ目だ。
実は森の中にそれなりにでっかいダンジョンがある。
以前大福丸が言っていた『面白いもの』だった。
その中で暴れまわった結果、敷地に張っている結界他、常に発動している魔法と相まって凄まじい勢いでレベルが上がったようだ。
ちなみに美穂はダンジョンに入ったことすらない。
「本来は魔法の基礎を学んだ上で魔力の制御訓練も必要だが、君はその必要が無かった。簡単な魔法から使えるようになって、徐々に難しい魔法を使えるようにしていくのが普通だが、最初から難しい魔法を難なく使えたというのも理由だろう」
言うなれば、一つのレベルを揚げるのに経験値が十必要なところを、経験値が一しか入らない初級の魔法ではなく、十とか百とか入るような魔法を最初から使い続けていたからだ。
「他の使徒には最初からある程度制御できる状態を望んだ人はいなかったの?」
「いなかったな」
その理由は、そもそも思い至らなかったり、自分でできるようになるとやる気を見せていたり、様々だ。
基本面倒くさがり屋な美穂からしたら、なんでそれを望まないのかが理解できない。
「ひとまず元気そうでなによりだ。ついでに聞いておこう。何か困りごとは無いか?」
「ううん。特にはないかな。お気遣い頂いてありがとう」
家から出ていないから困り事に遭遇したことが無い、というのもあるが。




