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「お兄様!ひどいですわ、叩くなんて」
「黙れ、ケイトを散々利用しておいて、ふざけるなよ」
どうしてここにジェームスも来ているのだろう?
ケイトの疑問は両親も同じだったようで、父親が兄に質問している。
「ルイス、どういうことだ?公爵令息様と一緒に来たのか?どうして??」
「あなた、まずは挨拶をしてくださいませ」
母親がそういうと父親もはっとしたようで、控えていた執事に応接間を用意するように言いつけた。
混乱する両親とケイト、叩かれてぶすくれているメラニーとルイスとジェームスがそれぞれ椅子に腰をおろし、お茶が用意された。
「とんだところをお見せして申し訳ない」
父親がそう言って謝罪をした。
「いや、先ぶれもなしにいきなりやってきてしまった私の方こそ家の中まで入り込んで申し訳なかった」
「それについては俺が勝手に連れてきたから、ジェームスは悪くないよ」
「ところでルイスはどうして公爵令息様を連れてきたんだ?」
「私から頼みました」
「公爵令息様が?でも今日は公爵伺う予定でしたのでは?」
「ええ、ですが、メラニー嬢は今日この婚約に不満があるとわざわざ取り巻き君たちと告げに来てくださいましたからね。
早速ですが、この婚約を解消してもいいかと思って直接こちらに伺ったのです」
「し、しかし、公爵様や公爵夫人は?」
「すでに両親には婚約解消の方向で話がついています」
それを聞いたメラニーががたっとたちあがり、
「いやよいや!婚約解消なんてしないわ!
ジェームス様ひどいですぅ、私もっと婚約者らしいお付き合いをしたかっただけなんですぅ」
そう言って両手を胸の前にあて、うるんだ目でジェームスを見つめた。
その姿をジェームスは何も感じないような無機質な目で見ていた。
「メラニー、君のいう婚約者らしいお付き合いとは、取り巻き君たちみたいに君に高い宝石や有名店のドレスを贈ることなのだろう?
私はそんな付き合い方はごめんだね」
「そんな・・・」
「メラニーもうよせよ、ジェームズはお前の演説を聞いていたんだよ。
今更猫を被ったって滑稽なだけだ」
ルイスがからかうように言うと、メラニーはさっと顔を赤くして席に戻った。
「メラニー、私は父が選んだ婚約だとしてもきちんと君と向き合う努力はしたよ?
我が家も君を迎えるために君の好きな物を準備していただろう。
だけど君は公爵邸に来ても勉強もしない、母とのお茶も嫌がる始末だ。
そのうえ、学園を休んでまで公爵邸に来るのを嫌がったんだよな。
流石に数人の令息を引き連れて文句をつけるだなんて、もう無理だよ」
ジェームスの言葉にメラニーは下を向いてスカートをぎゅっと握り締めている。
ジェームスはケイトの両親に向き直ると、
「そういうわけで、この度の婚約は解消という事でお願いします。
後日正式な書類を取り交わしたいのですが?」
「ああ、はい、我が娘が大変ご迷惑をおかけしました。
明日にでも予定の確認を公爵家に確認いたします」
父はそうやって頭を下げた。
そのまま両親は「ルイス、ケイト、後は頼む」そう言ってメラニーを連れて退出していった。
メラニーは
「公爵夫人になれないなんていやよ~」
と言いながら引きずられるように出て行かされた。
「すまなかったな」
ジェームスはそう言ってケイトにあやまってきた。
「いえ、私は謝ってもらう事は何も」
「ケイト、こいつはね、親が薦めるからってよく知らない女性と婚約したことを反省してるのさ。
それに、メラニーの事を知ろうとお前を追いかけまわしてたそうじゃないか。
そのお詫びだよ、な、ジェームズ?」
「ああ、ルイスの言うとおりだ」
「そんな、あれは追いかけまわされたというよりも私が逃げ去ったというか・・・」
「ククク、そうだな、驚くほどの逃げ足だったな」
ジェームスは思い出したのか笑いをこらえている。
「こいつは俺と同じくらい鍛錬をしようとするくらいだからな。
追いかけるのも大変だったろう?」
「やめてください!お兄様!!
令嬢として恥ずかしいじゃないですか!!」
ケイトは真っ赤になってルイスを止めた。
そんなケイトをルイスもジェームスも笑ってみていた。
その後、ジェームスから聞いた話では、メラニーが学園に復帰後も公爵邸に来ない事を公爵夫人が問題視し、公爵に詰め寄ったらしい。
そもそも見目がよいからと言って勝手に婚約の打診をした事も夫人は納得していなかったらしい。
「貴方の好みの令嬢だからって息子の婚約者を勝手に決めるだなんて!
わたくしはあのような失礼な子がジェームスの嫁になるだなんて許せませんわ」
とのことだ。
「私も公爵家に謝らないといけないことが・・・」
「お前がメラニーに仮病で入院するように知恵をつけた事か?」
ルイスにズバリと指摘され、ケイトは(やはりばれていたのか・・・)と思った。
「なんでそんな事をしたんだ?」
「その、メラニーが公爵家でハンター公爵令息様に殴られたって・・・。
それに暴言もはかれたって泣くので、可哀そうになってしまって・・・」
「ケイト嬢、君は俺がそんな卑怯な男だと思ってたんだ」
「はい・・・」
「ちょっとショックだな」
ジェームスがしょぼんとしたのを見て、焦ったケイトは
「でも、何度か追いかけっこした時や、頭打った時助けてくれたこととか、喫茶店でのおしゃべりとかでそんなに悪い奴じゃないんじゃないかと思って・・ってあぁ」
思いっきり本音をぶちまけてしまった。
ジェームスは思いっきり笑った。
ルイスはといえば、やれやれといった表情で笑っていた。
しばらく三人で学園の話などをして、ジェームスは帰って行った。
帰るジェームスを見送りながら、ケイトは疑問に思っていた事を聞いてみた。
「お兄様はいつから公爵令息様と仲良しなんですか?」
「メラニーが婚約した頃かな?
君の妹はどうなってるんだ?って聞きに来たんだよ。
メラニーの事なら外面はいいが腹黒だぞって言ったら驚かれてな、それから話すようになってな」
「外面がいい腹黒で仲良しに?なれるもんですか?」
「まあ、上の妹の足速すぎだろって言われた頃からもっと仲良くなった」
「ひぃ~~~」
ケイトは恥ずかしさのあまり頭を抱えてしまったのだった。




