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木の上の二人はそうやってしばらく他愛もない話をしていた。
「ケイト嬢、メラニーは公爵邸に来ても本当に何もしなかったんだ」
「ん、と?それはどういう?」
「公爵家に嫁ぐためには高位貴族のマナーや教養を学んでもらわないといけないだろう?
教師もしっかり用意していたんだがな、メラニーはそれを意地悪だといったんだ」
「えーと、すごく意地悪な眉間に皴があって鞭を持った嫌味なばばぁ的な?」
「ばばぁって、ぷぷ、お前の意地悪の基準がわからんな」
そう言ってジェームスは笑った。
「普通の家庭教師だよ、高位貴族専門の。
高名な方で、王子妃教育も手掛けた事のある方だよ」
「もしやロッテンマイヤー先生ですか?」
「お、さすが、よく知ってるな」
「そりゃ有名過ぎて誰でも知ってますって」
何と公爵家が用意した教師は、令嬢であれば一度は教えてもらいたいというほどの超有名な教師だ。
「ま、まさかうちの妹は・・・」
「そう、彼女の指導を意地悪だと言って泣きついてきた」
(ひょえ~~~まさかそんな事を言いだすだなんて~~~~。
ロッテンマイヤー先生に教えてもらった令嬢だなんて持参金持ってくるより貴重と言われてるのに~~)
「『ジェームスさまぁ、あのおばさん怖いです。
私の事を怒ってばっかりで意地悪するんですぅ』だって。
驚いて一緒に居た侍女に確認したんだが、メラニーは初めから全く勉強する気がなかったような態度をとっていたそうだ。
それを注意されたのが意地悪だと言ってたみたいだね」
「でも」
「先生も『随分と甘やかされてきたようですわね、しっかりと鍛えなおさねば』と張り切ってくれていたのだが、祖父母の見舞いに行ってしまったり、学園に復帰しても公爵邸に寄り付かなくなったりしてしまっただろう?」
「なんつーもったいない事を!」
ケイトは思わず本音をもらしてしまった。
メラニーがやらないなら自分が受けてみたかった・・・、ケイトは心からそう思った。
「俺の母もな、あまりにやる気のないメラニーを心配して勉強の前にお茶に誘ったんだが、
ぶすっとした表情で全然話をしなかったらしい。
挙句の果てには『私はジェームス様のお嫁になるのであって公爵夫人の娘になるのではありません。
私に媚を売ってきても老後の面倒は見ませんから』って言いきったそうだよ。
流石に母も驚いてしまってね、『そんなに嫌ならわたくしとお茶をしなくてよろしいわ』なんて言ってしまったとか。
母も大人げないよな」
「いやいやいやいや、大人げあるとかないとかそんな話じゃないぞ!!
不敬、めっちゃ不敬!
メラニーあんた何してくれてんだ!
公爵家に嫁ぐんだぞ?わかってんのか??うちなんてプチっとつぶされちゃうじゃん!
あ~~~~」
ジェームスは大笑いしながらケイトの肩をぽんぽんたたいて、
「落ち着け、全部声に出てる」
そう言って笑い続けていた。
笑いすぎて涙が出てきたのか、目尻を軽くふいたジェームスは、すっと真剣な顔にもどり、
「ウィンスレ家には申し訳ないが、メラニーの態度は公爵家に嫁ぎたいとは思えないんだ。
まして今日のように他家の令息たちを侍らせて文句をつけるのなら婚約を継続していくことはできない」
「そうですね」
「今日、ウィンスレ家との話し合いがうまく進めばいいんだがな」
ケイトがジェームスを見ると、ジェームスはケイトをじっと見ていた。
「なんです?」
(あれ?なんかついてるかな?)
「いや、木の上でこんな話をしてるな、と思って」
「ああ、そういや木の上ですな」
「お前が先に登っていたんだろうが」
「いや~、まさか公爵令息が登ってくるとは思ってませんでしたよ」
「木に登る伯爵令嬢、誰も信じないだろうな」
二人はそう言って笑いあった。
その後、ゆっくりと木から降り、二人はそれぞれの家に帰ることにした。
「じゃあ」
そう言ってジェームスは先に歩き去った。
残されたケイトも馬車にむかいながら考えていた。
(ハンター様の話は本当っぽかったな・・・。
という事はメラニーの話はどうなってるの?
メラニーは婚約解消したくないみたいな態度だったし・・・。
でも、暴力や暴言が怖くて婚約を解消したがってなかった?
なんかもうメラニーの事がわからないよ)
「あ~なんかもやもやする、まだ木の上に居ればよかったかも~」
そう言いながらケイトは馬車で家へと帰宅した。




