第七十八話 闘志を燃やせ!
「おるぁああっ!!」
ココロが唸りながら、ベヒモスの土手っ腹に右フックを食らわし、横倒しさせた。
「フッ!!」
ユメカが口から血の弾を放ち、ヘルハウンドの群れを地へ縫い付けた。
「……………ハァ」
黒煙の中から這い寄る影に、ユウキがうざったそうに嘆息を漏らす。
ぞろぞろと魔獣を引き連れたベヒモスが、グォオ、と腹の底から声を鳴らして嗤っていた。
ユウキは袖を捲り、二の腕にがぶりつく。
血飛沫が三日月に変形して、一瞬で巨大化し、風を掻っ切って飛んだ。瞬きする間もなく、獣の首を落とす。疾走感溢れる目に見えない凶器は、踊っても、踊っても、嬲り殺すたびに、敵は湧き出た。死体と化した瞬間、ベヒモスの餌食となった。
ゴゴゴ! と重々しく轟いて、唾液に濡れた口から瘴気玉が浮かぶ。
「させるかぁっ!」
隙を与えないほど俊敏に、ココロがベヒモスにボディーブローをかました。
草原のような巨体が後ろから倒れる。
「…………俺はアルゴスを始末してこいつらを分裂させる。ココロ、ユメカ、ここを頼んでも大丈夫?」
「当ったり前でしょ。妹舐めんなっての」
「ユメもまだまだ頑張れるよ〜!」
「アイちゃん、絶対にお姉ちゃんたちから離れちゃダメだよ!」
「お、おう」
ユウキが地を蹴って、木に飛び移った。
雑木林の奥から顔を出す、ヒプノミラーを駆使する巨獣。
「なっ………」
指に牙を立てようと、口を開いた瞬間、目を瞠った。
何度も瞬きを繰り返す。
その、首のない天辺に、玉座のように威風堂堂と腰をかける、あの少女がいたのだ。
「どうした!?」
血相を変えて飛び降りてきたユウキに、アイスケはギョッとした。
「アルゴスの…………天辺に………あの子がいる」
はっ、と息を呑む音が揃った。
凛は震える拳を握る。
ぎり、とアイスケは歯を軋ませた。
一体、どれだけの不幸を重ねれば、この夜は明けるのだろうか。
アルゴスを倒さない限り、この酷悪なコンビネーションを破れない。ヤツの眼力に勝てるのは、この中ではおそらくユウキのみ。だが、黒血をかざした先にあの子がいたとしたら────それは、流れ弾を食らわすことにもなりかねない。
あのシャドウも、こちらの庇護欲を利用して挑んでいるのだろう。
ひまりだけでなく、無差別に他者の心の影までつけこむ気なのか。
彼女が言った、永遠の楽園を一人謳歌しながら。
「………………」
もう、許せない。
「俺が行く」
アイスケの紅い瞳が、血染めしたように濃くなる。
「アイちゃん………! ダメだよ!! 危険すぎる!!」
「そうよ! アンタが行ってもそれこそ死に急ぐだけ!!」
「アイスケはお姉ちゃんたちと一緒にいるのっ!」
「お前は魔法もろくに扱えない! 犬死にしたいのか!?」
狼狽する四人に対して、アイスケは冷静がすぎるほど真顔だった。
「言ったろ? 方法が分かったって。あの子を止めるには、俺が行くしかねーんだ」
何か言いたげに口を開く四人に背を向け、尾を張った。
「大丈夫。死なねえよ」
振り向かずとも、不思議と顔は笑っていた。
闘志を燃やす火が、もうこの胸の中だけじゃ収まらない。
お姫様ポジションも、せめて今は卒業だ。
「俺は未来のスターだ!! この目で最っ高の景色見るまでは、ぜってー死ねるかよ!!」
親指を噛んで、世界一弱い黒血を、世界一自慢の尻尾になぞった。
「こんな悪夢は全部終わらせる。朝が来る時には、みんなで笑って帰るんだ。だから…………俺がただいまって言うまで、絶対に!! 待っててくれよなぁっ!!」
一ミリも振り返らずに、アイスケは尾を強く弾いて飛び跳ねた。
名を呼ぶ声にも、振り向かない。
顔を見たら、きっと縋りたくなっちゃうから。
(今はっ! 前だけ見ろっ!)
この果てしない闇を、突き抜ける!




