第六十八話 ドロドロ一家の血が騒ぐ
「なっ………」
風が止んだところで、凛は目を瞠る。
土手の上から囲んでいるのは、赤黒い目をギラつかせた黒い犬の群れ。
真っ赤な舌からヨダレが絡みつくほど、血肉に飢えたケダモノ。
「千里眼を持たずに………どうやって透視した!?」
「透視じゃありませんよ。フォルネウス、と言えばお分かりでしょうか?」
「確か………魔界のヨルムガンドの森に住む、魔獣使いの一族…………ハッ!」
「ええ」
ベリーは凛々しげな双子に目をやる。
「第二王妃はフォルネウス一族の元当主。フウガとコウガにも、その血が引き継がれています。生まれながら、魔獣の気配や声を理解できるんですよ」
風と共にやってきて、嵐のように吠えたけるヘルハウンドの群れ。
「あー何か腹減っててイライラしてるみてえだ」
「そんでー、一番チビのそいつが柔らかくてうまそうだなーって言ってる! よかったなぁアイスケ!」
「よくねーよ!! そんな肉食獣からモテても恐怖しかねーよ!!」
と、言っているそばから、ヘルハウンドの鋭い視線はアイスケに全集中し、津波の如く勢いで土手の上からなだれ込んでくる。
「ぎゃあああああああああっ!!」
(お、お、落ち着けっ! これを一番手っ取り早く片付けるには………!)
「みっ、ミント兄ちゃん!! 任せた!!」
「はいはい」
ミントが気怠そうに返事をすると、眠たい目を全開に開き、その無色透明の瞳の中心から雪の結晶が浮かび上がった。どんっ、と足を踏み鳴らして、アイスケの前に立ちはだかり、大群の視線を奪い取る。
刹那、暗青色の氷が張り付いた。
横へと、斜めへと、ミントが瞬きせずに目線を動かすごとに、氷の花が大きく咲いて、敵を凍てつかせ瑠璃の大地を覆っていく。土手の坂に、黒い氷が連なるクリスタルのように烈烈しく咲き乱れる。
一周回ったところで、正確には、目線だけ、指一本動かさずに、ミントはヘルハウンドをカタチあるまま全滅させた。
「……………これは」
凛は氷の花畑を見渡したあとに、射抜くようにミントの瞳の結晶を見た。
「……………フリーズアイ……………四代目王妃の持つ魔眼か」
「うん。俺おばあちゃん似らしくて。バニちゃんは母方のおばあちゃん似だよね」
「ああ。俺ら年長組は隔世遺伝四兄弟って呼ばれてんな」
「兄貴たちはじーちゃんばーちゃん似かァ!!」
「あ、じーちゃんばーちゃんって言っても双子とは生まれた腹が違うからな」
「ユメたちも違うじゃ〜ん!」
「え、でもあのじーちゃんはみんな同じでしょ?」
「どのじーちゃんだよ」
「誰のじーちゃん?」
「こんがらがってきた」
「え? 魔王って三股? 四股?」
「もう黙れドロドロ一家ッ!! 私まで訳分からんくなってきた!!」
「三股だよね!? 三股だと信じたい!!」
「どうでもいいわ!!」
「安心しなさいアイスケ。三股も四股も大して変わりませんよ」
「変わるわ!! 大いに変わるわ!! ディアボロスの場合歴史の教科書に書き換えられるわ!! ってどうでもいいーっ!! 時間の無駄だッ!! とっとと行くぞ!!」
「凛さんツッコみうまい! 俺らと相性バッチリじゃん!」
「うるさああああいっ!!」
スザァッ!! と凄まじい金属音のあとに、一本の喬木が崩れ落ちた。




