第六十六話 末っ子最強
轟! と雑木の梢を吹く風が鳴る。
突き進めば魔界へ繋ぐゲートともなる神樹のそびえる森は、その幹と同じく瑠璃色に染まっている──はずだった。
木も、葉も、草も、苔も、青い。瑠璃の青さというよりは、霧がかかったように朧げで青白い。
青瘴気は、入り口の茂みから奥へと覆い尽くしていた。
「貴様ら、浄化に耐える覚悟はできてるか?」
「「「「「「「「「「無理」」」」」」」」」」
茂みに向かって手をかざした凛に、十人の悪魔が声を揃えて制圧した。
「我慢しろ!! それでも魔王の子か!?」
「魔王の子だから無理って言ってるんですよ!! 森全体に打ち放つ規模の月詠なんて至近距離で食らったら、悪魔の魔力一瞬で底尽きますよ!?」
「だがこのままでは入れないだろう!! 普通の瘴気と違うんだぞ!?」
「そうは言ってもですねぇ…………」
茂みの前でいがみ合うベリーと凛、そして、青い霧に包まれた神樹を見上げて、アイスケはすぅっ、と息を吸い込んだ。
「ラララン ラララン ララランランランランランランラン」
高らかで力のある透き通った歌声が、森の奥まで響いた。
「ラララン ラララン ララランランランランランランラン」
木々がざわめく。葉が波濤のように揺れて、枯れ葉も巻き込んで踊り狂う。
「ラーラーラー ラララー」
土から草へ、根元から幹へ、葉から実へ、蒼白から瑠璃色へと染め変えられる。
「響け 永遠の 愛よ」
繊弱な震えを帯びたビブラートがなびいて、その見えない波に飲まれるように青瘴気が薄らいで消えていく。淀んだ森が、根から天辺へと澄み通り、息を吹き返した。
ふぅ、と小さな歌い手は肩の力を抜く。
顔を上げ、くすみ一つない森を前に、満足気に頷いた。
「よし、これでオッケー! いくぞっ!」
軽快に足を弾ませて茂みをくぐり抜けたアイスケに、周囲は度肝を抜かれたように目を瞠った。
末っ子最強、そう呆然と口を揃えて。




