第五十七話 待っていたのは
虚な表情で屋敷の門を出た時、アイスケを待ち構えていたのは、九人の、兄姉だった。
皆、険を帯びた表情をしている。
だが、絶望に打ちひしがれたアイスケにとって、これ以上の救世主はなかった。
吸い寄せられるように足が駆け出す。
「兄ちゃん!! 姉ちゃん!!」
「どうして黙っていなくなったんですかッ!!」
ベリーの怒声に、びくりと慄いた。
いつも母性溢れるオッドアイの眼差しが、鋭く光っている。
「賞金首狩りにでも誘拐されたんじゃないかって、ユウキから涙声で連絡がきて………どこを探しても見当たらないし………何度電話をかけても繋がらないし………みんながどれだけ血眼になって駆け回ったと思ってるんですかっ!!」
兄姉は皆、水を浴びたように汗だくだった。
「まさかと思って勇者の家に来て、あと少しでも遅れてたら強行突破するところでしたよ! 例え魔除けがあっても、ディアボロスの血はそれ如きに屈しませんからね」
衝撃の連続に、携帯の存在も忘れていた。
見上げると、空は黒味を帯びたオレンジ色の夕闇が広がっている。
「ご、ごめん…………でも、これは俺が受けた依頼なんだ!! 一刻を争う事態なんだよ!!」
「だからって連絡を寄越さないのは、リーダーとしてどうなの?」
「ココロ! だっ、だからごめんって! 今はそんなことよりっ!」
「そんなこと!? ユメたちがどれだけ心配したか分かってないの!?」
「う〜っ! とにかく聞いてくれよ!!」
「アイちゃん、話ならお家で聞くから、もう帰ろう。これ以上お兄ちゃんを不安にさせないで……」
「ひまりちゃんがシャドウと融合しちまったんだよッ!!」
抱きしめたユウキの腕を振り払って、アイスケは声を激した。
兄姉はぽかんとした顔で、押し黙る。
「ひまりちゃんは、一ヶ月以上も前にシャドウに取り憑かれてたんだ。世話係の凛さんでも手に負えないから、俺が頼まれた。俺の歌には、シャドウを引きずり出す力があるんだろ? でもあの子は聴いてくれない………聴こうとしないんだっ!」
彼女が返したのは、泣き出しそうな悲鳴だった。
あの闇に飲まれそうな小さな背中だった。
「なあラム兄ちゃん! 兄ちゃんは、シャドウについて研究してるんだろ!? 極秘の研究って、それなんだろ!? なあ、どうしたらいい!? どうやったらあの子を救える!?」
食いつくように叫び、縋る眼差しで白衣の兄を見上げた。
救ってみせるとあの震えた人に誓った。
だけど、もう一人で解決できる案件ではない。
今はもう、この天性の才能を持つ兄だけが──
「無理だね」
ぼそっ、と吐き捨てられた言葉は、信じられないほど、何色の感情もなかった。




