第五十一話 お星様みたいに
「なるほどなるほど………勉強になります! あぁ、聞いてるだけでも町に出かけ回りたくなりますぅ〜、はわぁ〜」
ひまりはほっぺたに両手を当ててうっとりしている。
きっとまたこの子は、世話係の隙を見て逃げ出す機会を狙い始めるだろう。
何だかいけないことを教えてしまったような、そんな罪悪感もあるが、この子の喜色満面の笑みを見ると、こっちも釣られて笑ってしまう。
「あっ! あのぅ………アイスケくん。もう一つ、聞いてもいいですか?」
「いくらでも聞いてよ」
ひまりはちょっぴり真顔になって、首を傾げる。
「アイスケくんは、お星様になりたいんですか?」
突拍子もないことを言われ、アイスケはミルクティーを噴いた。ゴホゴホと咳き込んでいると、大丈夫ですか? とハンカチを渡される。ふわふわの高級そうな素材で、口を拭くのももったいない。
「すみません………前の魔獣の事件があった時に、アイスケくんが言ってたものなので………」
「……………言ってたっけ?」
「はい。アイスケくんは、未来のスターだって」
「あー………」
確か、生死をかけた逃走劇に、ヤケになって吐いた台詞だ。
よくノリで言ってしまう口癖なのだが、いざ真顔で掘り下げられると何だか小っ恥ずかしい気持ちになる。
アイスケは頬をかいてはにかんだ。
「空に浮かんでるお星様じゃないよ。お星様みたいにキラキラした、俳優になりたいんだ」
「俳優さん!」
「正確に言うと、ミュージカル俳優」
わぁっ! とひまりが手を合わせて声を上げた。
「あのテレビや舞台で大活躍の、歌って踊ってお芝居をする人のことですよねっ! すごいっ! すごいすごいっ! アイスケくんはステージの上のお星様になるんですねっ!」
「いやいやいや! まだ夢の話だから。そりゃ気合いは入ってるけど…………俺、悪魔だし………」
あの呪いの言葉は、過ぎ去った過去じゃない。
悪魔の器でその偉大すぎる夢を持つということは、この先一生纏わりつく、過酷な試練だ。
思い返すだけでも、まだ背筋がぞくりとする。
きっと、悪魔にとってこの壁は、天まで突くほど果てしなく──
「なれますよ」
少女の言葉が、不意打ちで胸に突き刺さった。
「今日のアイスケくんの歌声は、とっても綺麗で透き通っていて、聴いていると胸が高鳴って、熱くなって………何だか懐かしい気持ちにもなりました。アイスケくんの踊りも、舞い上がる桜の花びらみたいに愛らしくて、美しかったです。アイスケくんの瞳は、眩しいくらい輝いていて、生きる強さを感じました」
ひまりは興奮した子供のように、頬を赤く染めて熱烈と語った。
「まるでお星様です。今日のアイスケくんは、私にとって一番のスターでした!」
淡い光が舞い降りたような、そんな優しい衝撃だった。
「悪魔なんて関係ありません。アイスケくんはアイスケくんです。あの時、魔獣に追い詰められた中で、恐れることなく私を抱えて空を飛んだように…………アイスケくんなら、飛べます。どんな高いところも、きっと飛んでいけます。勇者の娘が言うんですから、間違いありませんっ!」
えっへん、と腰に手を当てて胸を張るひまり。
彼女の言葉は、胸にストンと落ちてきて、彼女の眼差しは、今までにない光を感じた。
彼女こそが、まるで地上に降り落ちたお星様のように思えた。
そう思えるくらい、最強の励みになったんだ。
「……………ありがとう、ひまりちゃん」
「のーぷろぶれむ! です!」
二人は顔を見合わせて笑った。




