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第五十話 セレブなティータイムで庶民トーク

 オレンジ色の夕日が差し込むテラスに、小さな少女はガーデンソファに腰をかけ、地につかない足をぶらぶらさせていた。

 丸いテーブルには三段のケーキスタンドに、カラフルなマカロン、ハーブクッキー、いちごのタルトが可愛らしく並んでいる。

 淡いベージュ色に染まったミルクティーのティーカップが、二つ。

 ノックの音のあとに、ガラスドアが開くと、少女はぱぁっと目が輝いた。


 派手やかなティータイムに招待されたのは、世話係の凛と、彼女が連れてきた少年、アイスケだ。


「お待たせいたしました、ひまりお嬢様」


 凛が深くお辞儀をした。


 少女、ひまりの瞳はダイヤモンドのような輝きを放っている。


「凛さん! 凛さん! 本当にいいのですか!?  庶民代表のアイスケくんから、庶民の丸秘情報を教えていただけるなんて!!」


「はい。お嬢様のお望みとあらば、どんな貧相な庶民でもお連れいたしましょう」


「こんな華麗にディスられたの初めてだわ………」


 アイスケの小声のツッコみをよそに、ひまりは、はわぁ〜、と陶酔したような表情。


「あはは…………ひっ!」


 微笑するアイスケの背中に、大太刀の鞘が突いた。


「いいか。お嬢様に小汚いことは吹き込むなよ」


「小汚いって………」


 一体庶民をどれだけ卑下にしているんだ、と睨むアイスケの視線を無視して、凛は再びお辞儀する。


「それでは、ごゆっくりおくつろぎ下さいませ」


 失礼いたします、と言い残して、凛はテラスをあとにした。

 ガラス越しに視線が合うと、それをアイコンタクトと受け取り、アイスケは静かに頷く。


「どうしました?」


「あっ、いや! 何でもないよ」


 慌てて振り向くと、ひまりはきょとんと小首を傾げている。



 こんないたいけな瞳をした女の子が、悪霊に? と、アイスケは現実を疑いたくもなる。



 だが、初っ端から不信感を抱かれてはいけない。

 とにかく今は、少しでも距離を縮めるために、穏便に、自然体に、この子と話をしなくては。


「…………わっ! すごいね」


 足を踏み出すと、庭一面に咲き乱れるヒマワリの花畑に、目を奪われた。


「ひまりちゃんは、ヒマワリが大好きなんだね」


「はい! ママも大好きだったんです」


 ピク、とその言葉に思わず反応して、アイスケはひまりの顔を覗き込んだ。


 我が子を愛でる母のような、そんな温かな眼差しで花畑を見下ろしている。


「ひまりちゃん………その、ママって」


「さぁ! どうぞおかけになってください! ミルクティーも、お菓子も、おかわり自由ですよ!」


 歓迎の言葉に遮られてしまった。


 わざわざソファまで引いてくれたので、アイスケはお言葉に甘えて腰をかける。

 ふんわりと包み込むような柔らかなタッチに、高級インテリアショップで(買いもしないが)豪快に寝転がったキングサイズベッドの感触を思い出させた。


 勧められたマカロンを一つ取って、口に入れると、サクッとした歯触りに、口に広がるバラの香り、しっとりとした甘酸っぱいクリームの美味しさが脳天まで響いた。


 さらにずっしりと重いティーカップのミルクティーを一口飲むと、フローラルで蜜のように華やかな香りに、茶葉の渋みとミルクの甘さが上手く調和していて、力強いコクのあとの爽やかな後味に瞳がとろんととろける。


「なにこれ…………最高じゃん。別世界じゃん」


「私は、十円のうめえんだ棒の方が魅力的ですけどね」


「いやバカじゃん」


 うめえんだ棒やるから一日入れ替わってくれ、と猛烈に言いたい。

 それともう一つ、この人も悪魔もダメにするソファ、うめえんだ棒百本で買い取れるだろうか。


「アイスケくん! アイスケくん! さっそく聞いてもいいですか!?」


「うん、どうぞ」


 前のめりになって詰め寄ってきたひまりはまるで懐き始めた子犬のようで、後ろにパタパタと尻尾が揺れているように見えた。


「うめえんだ棒の、エビマヨ味にはエビが入ってないってホントですか!?」


「ホントだよ。アレはマヨで攻めてる味だから」


「じゃあ! バリバリくんのアイスの当たりは合言葉を言えば二本ももらえるってホントですか!?」


「ホントだよ。店員さんに向かって、バリバリイケてるちょー惚れちゃう。上目遣いで言うのがポイントね」


「じゃあじゃあ! あの人気のハンバーガー店、ハッピーバーガーでは、店員さんにスマイルをあげるとケチャップがついてくるってホントですか!?」


「ホントだよ。あとこっちの態度が悪いとシナシナのポテトがくるから。店員さんにも優しく、みんなハッピーがモットー」


「じゃあじゃあじゃあ! 庶民の方は電車の改札口を後ろの方に続いて屈んで通るというのは」


「それは犯罪!! ダメ! ゼッタイ!!」


 一体どこから仕入れた情報なのか、お嬢様からの質問攻めは方向性が読めないほど強烈だ。

 それでもアイスケは、興味津々なひまりの問いに、一つ一つ明確に答えてやった。

 まるで、親が小さい子供に世間の常識を教えてやるように。

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