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第四十六話 苦闘の末のティータイム?

「あ、間違えた」


 ユメカが呟いたあとに、ガゴン! と自販機の取り出し口から音が鳴った。


「アイスケ〜! 間違ってモツ鍋サイダー押しちゃったんだけど、これでいーい?」


「いいわけねーだろ!! 俺普通のサイダーって言ったじゃん!!」


 トラウマのペットボトルを持って走り寄ってきた姉に、アイスケは怒声で跳ね返した。


「間違えちゃったものは仕方ないでしょっ!」


 むう、とユメカはほっぺたを膨らまして若干逆ギレ。


「もうアイスケはいいよっ! はい、ココロちゃんのエビチリソース」


「ありがとっ」


「ユウキくんの坦々スープ」


「ありがとうユメカ」


「いやどうなってんのこの病院の自販機!? 病人が飲んだら卒倒すんだろ! もはや飲み物じゃねーっ!!」


 アイスケの渾身のツッコみも虚しく、ココロとユウキは何食わぬ顔で赤いペットボトルを口に含んでいる。何かドロドロしてるし。


「ちなみにユメカは何にしたんだよ?」


「牛タンホットミルクと、豚と鳥のレバーミックスジュースと迷ってたんだけど………」


「やっべ吐きそう」


「モツ鍋サイダーにした」


「牛タンとレバーはどこにいった!? 結局お前が辿り着くのはそこかっ!」


「あーっ! じゃあモツ鍋二本ともユメが飲めばいいんだ〜っ!」


「俺のサイダーは!?」


 アイスケの悲痛なツッコみも敵わず、ユメカはごくごくと油か炭酸か区別もつかない得体の知れぬ液体を美味しそうに飲んだ。


 ココロとユウキも、赤くドロドロした飲料水とも言えないものを喉に流し込むと、か〜っとオッサンみたいな声を上げる。「甘辛いわ〜」とか「痺れる辛さだよ〜」だの、明らかに飲み物の感想じゃないし。ユメカに関しては、「肉汁が染み渡る〜」だ。


 悲しいことに、四つ子ミラクルが三つ子ミラクルに分裂されつつある。


「まぁ、依頼も無事に終わったしいっか………」


 ふう、と安堵の吐息を漏らすアイスケ。


「?」


 何だか、三人の兄姉からジト目で睨む視線がものすごく刺さりまくる。


 へ? とアイスケは首を傾げた。


「そうね。あんな命懸けの依頼をアンタの歌で奇跡起こして解決しちゃって。梶山さん親子もシャドウの件は公にならずに、無事に帰れたみたいだし。ほーんと、絵に描いたようなハッピーエンドよね」


 不機嫌を露わにした声で、ココロは言う。



「でも家計が火の車とか言っておきながら、タダ働きはないんじゃないの?」



 ああ、それか、とアイスケは苦笑する。


 ファミリーズには、暗黙のルールがある。

 『友達』からの依頼は、無償で引き受ける、ということだ。

 なので、梶山さんが約束の五万円の入った封筒を取り出した時、アイスケは断固拒否した。

 依頼人の息子の純くんとは、電話番号まで交換し、胸を張って言える友達になった。

 だから、今日の事は仕事と捉えず、友達を助けたという日常の一端に過ぎない。


 アイスケは本気で望んだことなのたが、三人の兄姉はちょっぴり不満そうだ。

 借金返済に関しては、明日から身を粉にしてでも働かなくてはならないだろう。


 だけど、後悔はこれっぽっちもない。

 あの親子の笑顔が見れたことで、これ以上の報酬はないと思えたからだ。


「アイちゃんのお人好しには心配になるくらいだよ………」


 ユウキが坦々スープを飲み込んだあとに、憂わしげなため息を吐いた。


 ははは、と苦笑いで返すしかない。


「…………あれ? そういえば、ひまりちゃんは?」


 病院に来るまではあの世話係も含めて一緒だったはずが、姿が見当たらない。


「もう帰ったんじゃないの?」


 ココロの言う通りかもしれないが、自らの意思で帰ったというより、あの鬼執事に無理にでも連れ戻された可能性が高い。


「…………俺、ちょっと近く見てくるわ」


 何となく、気になった。


 あの時の、シャドウの存在に慄然としていた彼女の顔が。


 ベンチから降りて足が着地したところで、がしっとユウキに腕をつかまれた。


「アイちゃん…………浮気は許さないからね…………?」


 据わった目でじっとこちらを見る兄に、アイスケは「はい」と、強張った声で返事した。







 気になるとは思ったものの、無駄足だったかもしれない。ひまりはともかく、彼女を護衛するあの世話係は、あからさまなくらい悪魔を嫌っているようだし。きっと、一分たりともお嬢様を自分たちと近づけまいと番犬並みの警戒を払っているだろう。


「そんなに信用ならないかな…………」


 自動ドアをくくり抜けて、病院から出たが、あの子の乗っていそうな高級車やリムジンは見当たらない。


「帰っちゃったか………」


 仕方ない、と来た道を戻ろうと踵を返した時──



「止まれ、悪魔の小僧」



 刃物の切っ先が喉にあてがい、ひっ、とアイスケは短い悲鳴を漏らした。



「命が惜しければ、黙ってついて来い」


 左斜め上に視線だけ向けると、鬼の執事が静かな殺気を放っていた。

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