表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/136

第四十五話 伏見の厄日

 神樹ヶ咲総合病院にて、梶山親子とアイスケの検査結果は一点の陰りもなく異常なし。


 伏見の応急の処置もあってか、母親の体内は一ミリの瘴気も残っておらず、魔障による神経の損傷も見られなかった。

 アイスケに関しては、悪魔の治癒力からか疲労感も綺麗さっぱり消えて、健康そのもの。

 息子の純は、栄養失調を伴い点滴を必要としたが、幸いにも、シャドウの憑依を受けた後遺症は見られなかった。そもそもシャドウは、取り憑いた生者の肉体を我が物にする目的があるので、己の器にもなる体を傷つける真似はしない。だが、稀に青瘴気が暴発して、生者の体内に魔障がつく恐れもある。

 それも兼ねて、魔障科の医師でもある伏見の独断で検査が行われ、今、その検査表を見て彼も一息ついた頃だ。


「一番生力抜かれたのは他ならぬボクかもね…………本当にこの町は心臓に悪い………」


 缶コーヒーを一口飲んでは、陰鬱な愚痴がこぼれた。


「伏見さん、お願いがあるんですけど………」


 丸椅子から立ち上がって、ラムが言った。


「はいはい………分かってるよ。騎士団にはボクが適当にぼかして報告しておくから………」


「ありがとうございます」


「ボクだって不本意に騎士を名乗る前に医者だ。だからこそ患者のプライバシーを守る義務を優先するんでね………」


「その患者の中に、アイスケも含んでおいてもらえます?」


 ピクっと伏見の眉が吊り上がる。


 缶コーヒーをテーブルの上に置いて、ラムの方へ向き直った。


「キミの怪しげな研究と、あの子がどう関係しているのかはさっぱりだけど…………今日のアレは、キミの毒でも飲まない限り忘れられる光景じゃないよ………」


「じゃあブスッといきますね」


「冗談にもならないからやめて………」


 平然と注射器を突き付けたラムに、伏見はげんなりとした。


 四つ子は院内の休憩スペースで待たせており、この鍵がかかった診察室は人知れない二人だけの空間。決して穏やかではない重い空気が流れていた。


「……………母親が関係してるのかな?」


 伏見の言葉に、ラムは押し黙った。


「悪魔の力とは思えない………それにあの子の母親は、確か………」


「伏見さん、他所の家庭の詮索はやめて下さい。不愉快なんで」


「詮索って…………そんな嫌味ったらしく言わなくてもねぇ………」


 伏見は小さくため息をつくが、ラムは颯爽と背を向けた。


「あの子の歌に関しては俺もまだ研究途中なんです。シャドウの弱点になることは分かっても、あのメカニズムは解明できていない………」


 ラムは顔だけ振り返って、言い放った。


「あなたもご存知の通り、この世界には欲にまみれた腐った研究者がごまんといる。煌転生計画の時みたく、子供の命をモルモットとしか見ていないクズどもがね。そんなヤツらに弟の体が弄られるなんてことになったら、そいつら皆殺しにしても俺の怒りは収まりませんから」


 脅しとも言える、宣戦布告。


 伏見は込み上げてきた唾液を缶コーヒーで流し込んだ。


 そして、ラムが扉に手をかけた時。



「キミ、意外とお父さんに似てるところもあるんだね………」



 ぴく、とラムの指先が反応する。


「あの暴れん坊魔王も、家族への愛情は異常なまでに強かったってね………まぁ、それを言うならキミたち兄弟はみんな………」 



 ブシュッ!! と伏見の頭上に注射針が突き刺ささり、ジュワァ、と髪の毛が数本溶け崩れた。



 息も凍って見上げた先には、赤黒い目を剥いた悪魔が、獣の唸り声の如く荒い吐息を漏らしていた。


「伏見さん。今回の件に関してはあなたには感謝しています。でも………」


 悪魔が耳元で囁く。



「二度とあのゴミクズ野郎と俺を一緒にするな。反吐が出る」



 その殺気にギラつく目と、地獄の底から這い上がるような低い声は、飄然とした笑顔の仮面がすべて剥ぎ取られた、彼の本性がチラつかせた瞬間だった。


 伏見はひっく、としゃっくりを上げる。


 ラムはそれ以上は何も言わずに、注射器を壁から引っこ抜くと、白衣を翻しながら部屋から立ち去った。


 ずるずると壁をもたれながらずり落ちて、呆然と床に転がる伏見は、ぼそりとか細い声で呟いた。


「本当に………今日は厄日だよ………」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ