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第四十二話 未知なる力

 その場にいる誰もが、顎を落とした。

 ただ一人、この案を持ちかけたラムを除いて。


「クソがァアアアアアアアアアッ!! 次は絶対に殺すからなぁあああああッ!!」


 少年の肉体から分離され、霊力となる青瘴気を吹き飛ばされたシャドウは、人型のシルエットはあるものの、怒号も掠れるほどかなり衰弱化している。

 アイスケの歌声に反射され、宙を彷徨いながら、風に流されるままに飛び退った。


「逃がさないよっ!」


 ぷくーっと怒りの籠った表情で、頬膨らまし、ユメカが黒血のスライムを解き放つ。


 が、シャドウの足に降りかかったかと思えば、水面を突くようにすり抜けてしまった。


 ケハッ、と最後の悪あがきにと嘲笑して、シャドウは天高く逃げ去ってしまう。


「そんなっ!」


 ユメカの飛び上がる声に、ラムは空を睨んで言った。


「シャドウ本体に物理的な攻撃は効かないんだ。例え天性血統の黒魔法でも、聖魔法でもね」


「野放しにするしかないってこと!?」


「分離できるだけでもやっと、ってとこかな」


「それじゃあ………憑依はまた繰り返されるの?」


「残酷だけど、それが今の現実だね」


 四つ子の三人は腑に落ちないような顔でシャドウの消えた空を見上げていたが、それ以上は何も言うことはなかった。


「どういう……ことだ…………?」


 凛が目を瞠って、わなわなと体を震わす。



「なぜ………なぜ魔王の子が詠唱を唱えられる!? 祓魔ふつまの書も持たないままでっ!」



 激しく息を吐いて、力なく両腕を垂らしてうつむくアイスケを見て、凛も、伏見も、狼狽の色を隠せなかった。


 ラムはそんな二人の方へ振り向いて、言った。


「その真相は、俺もあの子も分かってないんですよ」


「は?」


「ただここ一年の俺の研究で、あの子の歌声には魔力を揺るがす力があることが判明した」


「魔力? 詠唱は霊力を鎮圧させるものだろう?」


「今の自身の状態をよく確認してほしい」


 あれ、と四つ子が目をぱちぱちさせて、手の平を開いたり握ったりした。

 凛と、伏見も、胸に手を当てて、首をひねった。


「な、ぜ………魔力が………回復している………?」


「そういうことです。あの子の歌は、単なる詠唱とも言えない。でもどちらにせよ、シャドウを引きずり出すほどの未知なる力を含んでいることを、今、証明したかった」


「今って………初めて試したのか!?」


「実験っていうのは、いつでも初めての挑戦ですから」


「………何なんだこの兄弟は………」 


 凛は未だに信じられない様子で、額に手を当てて固まっている。

 だがその瞳がひまりを映した時、ピクリと眉が動いた。


「シャドウを………引きずり出す………」


 あの小さな少年には、未知なる可能性が秘められている。

 その事実が、目に焼き付いて離れないほど、証明されてしまったのだから。

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