第三十一話 お兄さんと呼ぶな
「やっと着いた………」
白とベージュのツートーンカラーのレンガの外壁に、勾配のあるグレーの三角屋根。依頼人の住居は、暖かみのある欧米風な外観の家だった。
窓は多いが、二階の一部屋だけカーテンが閉ざされている。おそらくあそこに、引きこもりの少年がいるのだろう。
「着いたのはいいけど………」
ユウキは渋い顔をして横を見る。
「何でこいつが一緒なのかなぁ!?」
ふぇ? とヒマワリ頭の少女が小鳥のように首を傾げる。
実はあの自販機での出来事のあと、ココロに「さっさと仕事に戻るわよ!」とどやされたものの、世間知らずなお嬢様を放っておくのも心配で、戸惑ってキョロキョロと見交わしていると、煌家のお嬢様、ひまりが満月眼を閃かせて言ったのだ。「ヒーローさんのお仕事、見てみたいですっ!」と。勇者の聖魔法、月詠のフラッシュを間近で食らった四つ子はしばらく眼瞼痙攣に苛まれ、まさに悪魔の咆哮で地面にのたうち回った。悪気ゼロの脅迫に恐れをなしたリーダーの判断により、あくまで「見学者」として連れてきたわけだ。
もちろん、理屈の通る理由もあった。
「いくら翡翠があっても、こんな危なっかしい子そのまま放っておけないだろ。不良と善人も見分けられない天然記念物だぞ?」
庶民の面白げに釣られてあっさり誘拐される光景が速攻で目に浮かんだ。
むしろ今までよく無事だったなと幸運に感謝するべきだ。
「ならさっさとあの世話係を呼んで保護してもらえばいいじゃん! 何で忙しい俺たちがわざわざ面倒みなきゃいけないのさ」
「だから、意地でも自由を満喫したいんだって。相談の依頼だし、大人しく見学させるぐらいいいじゃねーか」
「アイちゃんのその優しさがいらぬ好感を持たれるんだから………」
ユウキは不愉快そうに言って、拗ねた幼子みたいに口を尖らした。
「安心してくださいっ! 絶対にお仕事の邪魔にはなりませんからっ!」
「当たり前だろ。ちょっとでも邪魔になったらすぐにつまみ出すから」
「のーぷろぶれむ! です!」
「むっかつく…………」
アイスケは乾いた笑みを浮かべた。
普段から穏やかでよく笑うユウキが、こんな敵意剥き出しな刺々しい態度を取るとは、この子とはよほど相性が合わないようだ。その原因は自分にもあるようだが、こればかりはどうしようもない。
分け隔てのない優しさで接するのがヒーローとしての基本だし、それに、困っている人や危なっかしい人を放っておけないおせっかいなところが、自分の直しようのない性分である。
パン! とココロが手と拳を合わせる。
「アイスケ! 何かあったらアンタの責任だからね!」
「ええっ、俺が悪いの!?」
「そうだよ〜! アイスケがあちこち色気振り撒くからいっつもこうなるんだよ〜! いくらお色気担当だからって……」
「やめてそんな淫魔みたいに言うの! 俺はただ親切心で………」
「アイちゃんの優しさは、老若男女狂わす恋の媚薬………」
「何の話!?」
「お兄さん、お姉さん、中に入らないんですか?」
「がーっ! だからお前にお兄さんと呼ばれる筋合いは」
「さっきからうるさいわよ小舅」
「誰が小舅だッ!?」
「男の嫉妬はみっともないよぉ〜小舅?」
「お前たち〜〜〜っ!」
ガチャ、と玄関のドアが開いた。
出てきたのは、エプロンを着た、色白で体の線が細い女性。
「あの………もしかして、ファミリーズの方々ですか?」
ちょっと戸惑いがちに微笑む依頼人を前に、もう、恥ずかしいの一言しか浮かばなかった。




