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第二十七話 寄り道もまた人生?

 依頼人の住所をマップに検索すると徒歩二十分、と表示されてからかれこれ四十分も歩いている。

 その理由は馬鹿げたもので────


「はむはむっ! んんっ、このソーセージパンおいひいね〜! やっぱり甘い菓子パンよりお肉たっぷりの惣菜パンの方がお腹が膨れるよぉ〜はぐはぐっ!」


 家で朝食を取ってから一時間もしない内に、ユメカの腹から野良犬の唸り声のような凄まじい音が鳴って、周りの兄弟 (主にココロ)に噛みつきまくるので、やむを得ずコンビニに寄ってパンを三つ買った。今その三つ目にがふりついているユメカは、ほっぺたを膨らませて幸せそうなアホ面を晒している。あまりの食欲に仕事のことをすっぽ抜かしているのだろう。歯型だらけの兄弟 (特にココロ)は呆れるのも慣れてしまって、ジト目で見るだけで何も言うことはなかった。


「…………何か喉乾いたな」


 灼熱の太陽の下でアイスケがうだるように呟いた。

 うっかり水筒をリュックに入れ忘れてしまったのだ。


「あっ! ユメさっきジュースも買ってきたよ!」


「くれっ!」


「は〜い!」


 何だかんだ気が効くじゃないか、とちょっぴり見直して、渡されたペットボトルの口に吸い付いて喉の渇きを潤す──


「うげえっ!」


 潤うはずがなかった。


 口に流れ込んだのは生臭い油のような液体で、しかも喉にパチパチと弾ける。あまりの気持ち悪さにそのまま地面にリバースしてしまった。

 白っぽく濁ったドロドロしたものが目に映る。


「うえぇっ、何だよこれ!?」


「モツ鍋サイダー」


「何でだよ!? そんな罰ゲームの上限もぶち抜いたヤバすぎるサイダーが何で普通に売られてる!? そしてなぜ買った!?」


「店員さんがね、勧めてくれたの。深夜テンションで大量発注しちゃって全く売れなくて困ってるから、買ってくれたら嬉しいなって」


「まんまと誘導されてんじゃねーよっ! くそっ! あのコンビニ二度と行かねえ………」


 思えば、虫のグミとかチョコおにぎりとか地雷商品がちらほら見えていた。もっと注意を払うべきだった。


「アイちゃん、顔色悪いよ。大丈夫?」


「あ〜………喉がイガイガする。冷たい水が飲みたい………」


「さっき通った道で自販機があったわよ」


「……………ダッシュでいってきます」


 待っている依頼人には非常に申し訳ないが、今はこのえずきそうな喉を一刻も早く癒さなくては。アイスケは来た道を戻った。





『精神的な問題でしょ………? 下手すれば悪化することだって………』


 ココロの言葉が脳裏を過ると、少し足がすくんだ。

 どんな理由があるのかは知らないが、中学生の男の子が部屋に引きこもっているのは、精神状態が不安定であることに違いない。母親の言うことに耳を傾ける余裕もないのだとしたら。きっと今も、彼は暗い闇の中に一人で蹲っているのだろう。


 だけどアイスケは、陽の当たる道を歩いてふと思った。


 彼の引きこもりを治すことが、果たして本当に正しい選択なのだろうか。

 自ら闇に潜む少年を、無理やり光の方へと引きずり出すことが、ヒーローとして然るべき行動なのだろうか。

 そうすることで、彼は心の底から救われるのだろうか。

 それでハッピーエンドと言ってしまえば、何かが足りない気がした。


(会ってみないと、分かんないよな…………)


 無駄な道草食ってないで、とっとと水分補給を済ませてしまおう。


 アイスケは近道の路地裏を駆け抜けて、先を急ぐ。実質的には戻っているが。


(おっと………先客か)


 自販機の前に、小さな女の子が立っている。

 仕方ないので、アイスケは後ろに並んだ。

 背丈が自分よりも低い。

 まだ小学生に入って間もないくらいの、少女とも、幼女とも言える、幼い子供だ。

 ロリータ風のフリフリなワンピースに、二つに結い上げた亜麻色の髪が微風になびいている。


 何だろう。何かが物足りない気がした。


 淡く金色に輝く髪は、結び目に細いヘアゴムだけ巻かれていて、もちろん綺麗な髪なのだが。何だか少し乏しいような、寂しいような、こう、もっと、装飾があってもいいんじゃないかと。リボンや、お花や、そうだ! 黄色いヒマワリなんかが一番似合うんじゃ──と、アイスケの胸中の独り言が止まる。


 そーっと、忍び寄るように、背後から女の子の顔を半分盗み見ると、満月が浮かぶ瞳にバサバサの長いまつ毛に縁取られていた。


「あっ! あっ! きみは………」



「えいっ!!」



 言葉が出る前に、女の子はワンピースの裾を全開に広げて、自販機に向かって回し蹴りをかました。


 ガゴンッ! と重い音が響く。


 まさか、ヒマワリがパンツの柄という形でお目にかかれるとは思わなかった。


 自販機は小刻みに揺れたが、ふぇ? と女の子は拍子抜けしたような様子で首を傾けている。



「あのー………未来の勇者様?」



 ひゃいっ! と背後からの呼びかけに肩が跳ね、女の子は振り返る。


 突然で偶然でちょっぴりバイオレンスな、再会だった。


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