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ファミリーズ 〜魔王の子たち、ヒーローやってますが何か?〜  作者: 仲乃 斉希
第一章 ③悪魔の大儲け計画! 爆誕!
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第十五話 頼朝様が飛びつく先は

「えっ!? 家康様まで!? 早すぎない!?」


 最初の捕獲からまだ五分しか経ってないのに、次の朗報がきた。


『アンタらがちんたらしてんじゃないの』


 スマートウォッチからのココロの声は、さっきよりも怒りに尖っていた。


「さっきユウキが二匹とも連れて依頼人のところへ行ったから」


「そっか。お疲れ様………です」


 心苦しそうなアイスケの声色にココロは気付いたようで、ため息を吐く。


『べ、別に責めてるわけじゃないから。元から東のエリアにいたってだけよ。こっちは釣り場もあるみたいだし』


「はは………ありがとココロ姉ちゃん」


『別にいいの。あと一匹………じゃなくて、お一方ね。頼朝様を見つけるまでは、私もこのエリアから離れないから、アンタとユメカも、頼んだわよ………』


「はふはふ~! ラム肉のバーベキューもおいひ~! おかわり~!!」


『……………とりあえず依頼が終わったらユメカは私がシメとくから』


 ドスの効いた声を最後に、通話が切れた。


 アイスケは乾いた笑みを浮かべる。

 自分はリーダーとして、初歩的なミスをしてしまったかもしれない。


(人選ミスだわぁこれ………)


 あの大食いバカ姉貴を止めることは、アイスケには到底不可能だった。

 その証拠に、ピンクパンダの小銭入れがどんとん軽くなっていく。

 しかし、東に釣り場があるとは把握していなかった。魚は猫の大好物だし、頼朝様もそちらにいる可能性が高いかもしれない。


(無駄足だったかなぁ………あと無駄遣いも)


 そうがっかりと肩を落とした時、複数の足音が聞こえた。

 サングラスをかけてバッグパックを背負った三人の男たちだ。

 いかにもアウトドアらしい雰囲気が醸し出されている。


「あっ、ちょっと! そこのきみ!」


 一人の男がこちらに駆け寄った。


「その網、貸してくれないかい?」


「え? 虫取りですか?」


「虫じゃないよ、猫だ」


「へ!?」


「水上アスレチックのところに、猫が迷い込んだんだ。危険な状態だから、早く助けたい」


「猫って………白い子猫ですか!?」


「そうだよ、よく分かったね!」


 間違いない。頼朝様だ。

 アイスケは虫取り網の棒をギュッと握って、駆け出した。


「えっ、ちょっときみ!!」


「俺が助けます!!」


「助けるって、きみはまだ子供だろう!」


「ただの子供じゃありません」


 アイスケは振り返って、爽快に笑う。


「ちょっぴりダークなヒーローです!」


 そんな捨て台詞を吐いて、アイスケはユメカの首根っこをつかんで引きずりながら先へと進んだ。





 木の踏み台に立って、ふう、と息をつく。ロープをつかんでぶら下がると、アイスケは上から下へとに滑走した。 

 地面とそれほど距離はないが、思ったよりもスピードはあってわあっと叫んだ。

 まるで空を飛んでいるようなスリルだ。

 冷たい向かい風が全身を打ち、髪の毛が踊るようにはためいた。

 ゴール地点まで突き抜けたあと、反動でゆらゆらと揺れ、その勢いに乗って踏み台までジャンプした。ロープはワイヤーに吊り下げられながら来た道へと戻っていく。

 上で順番を待つユメカに大声で言った。


「先に行ってるからな!!」





 ネットクライミングは、ゴール地点まで想像以上に長かった。だがこの網の壁を乗り越えないと、水上アスレチックには辿り着けない。


 よし! と掛け声でアイスケは網をつかんでよじ登った。また上の網をつかんで、足を引っかける。

 隣から、サッとムササビの如く速さの人影が横切った。


「何だ今の………」


 フラフラ揺れる体にバランスを取りながら、アイスケは何とかゴール地点の丸太までつかめた。

 見上げると、そこにはふふーん、と得意げな顔で、手を腰に当てて胸を張るユメカの姿が。


「なっ!」


「きゃははっ! アイスケおそーい」


「お前が速いんだよ!! つかお前アレは登るというより飛んだだろ!!」


「アイスケも飛べばいーのに。尻尾でピョーンって」


「あ、確かに………」


「あのね、バーベキュー食べたらパワーが出たの! ありがとうアイスケ! 帰りもよろしくね!」


「帰りはねーよ! 俺のピンクパンダちゃん小銭入れはもうほぼからっぽですぅ!!」


「え~」


「え~じゃない! 行くぞ!!」


 ユメカに喝を入れて、アイスケは尻尾を弾いて先へと急いだ。





「お待たせ! 二匹とも山中さんに預けてきたよ!」


 バラエティコーナーの入り口に立つココロのところに、ユウキは神速で走り来た。


「四つ子のグループメッセ見た?」


「見た。頼朝が西のエリアで危ない目にあってるってね。俺たちも急ごう」


「ちょ、ちょっと待って………」


 ココロがジト目で見る。

 ユウキがぶら下げている二つの小玉スイカを。


「それは、どうツッコんだらいいの?」


「ああ、これはね」


 ユウキは苦しい微笑を浮かべた。


「必殺奥義だよ」





 水の上に敷き詰められた、丸太の橋、ネットブランコ、透明のすべり台。

 水上アスレチックは、入ってすぐ人集りができていた。

 水上を囲む木の柵の上に、子猫が怯えた様子でうずくまっているのだ。柵はアトラクションの離れにある。水深は三十センチだが、柵は高くて長身の人でも手が届きそうにない。か弱い子猫が下手に落ちたら命に関わる問題だ。


 一人の屈強な男性が、丸太に乗ってぐらぐらと揺れる中、ギリギリまで腕を伸ばして子猫を受け止めようとする。

 すると、うずくまっていたはずの子猫が、シャーッと背中の毛を逆立て睥睨した。

 男性ビクッと体が跳ねて、そのままドボンと水に落ちてしまう。


 その一部始終を見ていたアイスケとユメカはごくりと生唾を飲んだ。


「頼朝様は警戒心がお強いな………」


「網使う?」


「いや、それでびっくりされて落っこちたら大変だし………」


「またたびスプレーは?」


「それも興奮して落っこちる可能性もある」


 元気な姿で連れて帰らないと、依頼人に合わせる顔もない。


「ちょっとやばくない? どうする? 騎士団に通報した方がいいのかな?」


「警備部隊とか?」


「!」


 周囲が焦り始めている。騎士なんぞ呼ばれたら、一番の手柄を横取りされてしまう。報酬の家宝も白紙に戻されるかもしれない。


(ここまで来たんだ! 絶対に俺が助けるっ!)



「アイちゃん!」



 背後から兄の声がして、振り返るとユウキとココロががすでに到着していたようだ。


「すっげえ、二人ともはえーな」


「まあね。それより、頼朝……様はどうなってる?」


 アイスケは、端の柵にフーッと威嚇している頼朝様を指差した。


「やっぱりねぇ………」


 ユウキはそれほど驚いた様子はなかった。

 むしろ、納得した顔つきで頷いている。


「なぁ、ユウキ兄ちゃんのスピードで掻っ攫うことはできねーか?」


「地上だったら余裕だけど、さすがに水の上は走れないなぁ」


「そっか………」


「実はね、さっき山中様から聞いたんだけど、頼朝様はかなり気難しいお方らしくてね………懐く相手にも条件があるみたい」


「条件? 何だそれ?」


 アイスケは首を傾げる。


「そう、頼朝様はね………」


 ユウキは目を尖らせ、険しい表情で言った。



「巨乳にしか懐かないんだ」



「「「え?」」」


 残りの三人は目が点になる。


「だから、巨乳にしか懐かないんだ」


「……………猫、だよな?」


「一応オス猫だから」


 ユウキは二人の妹の胸をガン見して、


「だから、俺たちで救出するのは困難だと思う」


「どこ見て言ってんのよ!!」


「ひどいよユウキくん!!」


 ココロとユメカはサッと胸を手で隠す。


「確かに、山中様のお胸は爆弾並みだったな………」


 朝の交渉の際にも七回くらいはチラ見した。 

 しかし、頼朝様もあの若さにして隅に置けない。何だか武将というより悪代官に思えてきた。


「そっかー! じゃあ巨乳の人に頼んだらいいんだねー! あっ! すみませーん! 何カップありますか?」


「バカユメカ!! その人のは乳じゃなくて大胸筋だ! まず性別を確認しろ!」


 ゴリマッチョの方へ突っ走ったユメカを慌てて連れ戻す。

 ゴリマッチョはちょっと怒っていた。

 いや、例え女性にしても「何カップありますか」は失礼極まりないだろう。

 ベリーといい、どうしてうちの兄弟はいつも常識の斜め上を行くのだろうか。


他人ひとに頼ってたらダメだろ。俺たちが受けた依頼なんだから、俺たちで解決しないと!」


「でも無理でしょ、アンタ乳出せんの?」


「うっ………」


 ココロの言葉の棘が胸に突き刺さる。


「確かに………それは」


「できるよ」


 ユウキがはっきりと言い張った。


 にっこりと笑って持ち上げて見せたのは、二つの、小玉スイカだった。





「何あれ?」


「やばくない?」


「ままー、みてみてー」


「こらっ! 見ちゃダメよ!」


 周囲がざわざわと騒ぐ。

 スマホで撮影する者もちらほら。


 皆の視線の集まる先は、白い子猫───ではなく、子猫の前でぷるぷると震えながら両手を広げる、胸が破裂寸前に膨らんだ少年だった。


「頼朝様ぁ~、わたくしの大きな胸にいらっしゃ~い。あっは~ん」


 アイスケの胸はボン! ボン! と異常なほど巨大な膨らみを持っていた。

 小玉スイカを無理やり詰め込んで、タオルで腰を縛った結果がコレだ。

 胸が痛い。腰が重い。そして周囲の好奇の視線と冷ややかな嘲笑が死にたいくらい恥ずかしい。

 頼朝様も威嚇するどころか口が開いたまま固まっているし。



「アイちゃぁ~ん! 可愛いいいいいっ! 可愛すぎるうううううう!! ロリ巨乳アイちゃんなんて貴重すぎる!! あーもう何しても可愛いいいいいいい!!」


 カシャ! カシャ! カシャ! カシャ!

 ハアハア鼻息を荒くしながらスマホで連写するユウキ。


  その傍らで、ココロとユメカは抜け殻のような虚な目をしていた。


「私帰りたい……こいつらの身内とか思われたくない………」


「ユメも………」


 二人は汚いものを避けるように後ずさった。



「頼朝様~! あ~そび~ましょっ」


 ボイン! と胸を揺らすように服越しからスイカを軽く持ち上げた。


 頼朝様は相変わらず口を開けたままだが、にぃ、と小さく鳴いた。威嚇する声色とは少し違う。


「ほ~らほ~らぁ! 一緒にいい国つくろうよぉ〜」


 アイスケは調子に乗って、スイカをぶるんぶるんと上下に揺らした。もう恥はドブに捨てた。

 今はどんな汚い手を使ってでも、依頼を成功させなくてはならない。

 頼朝様に熱視線を送って、得意なウィンクを披露する。


「にゃあ~」


 頼朝様は甘えるように鳴いたかと思うと、そのままアイスケの胸にダイブした。


 わあっと周囲は嘲笑から一変して歓声を上げる。

 ユウキもシャッターを押す指を止めて、ぽっかりと口を開ける。

 ココロも、ユメカも、後ろに引いていた身体が自然と前のめりになる。


 あの警戒心の塊のような子猫を手懐けた、そう誰もが少年の勝利を賞賛した瞬間だった。


「にゃ?」


 頼朝様が小首を傾げる。


 顔を擦り付けようとした胸は石のように硬い。


「しゃ~~~!!」


 低く唸って、鋭い爪で交互に裂くと、パーカーが破けて胸元から緑と黒のシマシマが飛び出た。



 ユウキがクッと歯を食いしばった。


「しまった! 気付かれたか! もっと柔らかいトマトにするべきだった! アイちゃんのロリ巨乳を見たいがために俺はっ………何て愚かな過ちを………!」


「その発想自体が過ちなんだけど」



「うわああっ! やめて! スイカはいいけどピンクパンダちゃんの服は破かないで! 俺の勝負服なのよ!!」


 しかし頼朝様はかなりご立腹のようで、ひっかき攻撃を止めない。その衝撃で腰に巻いたタオルが取れて、二つのスイカがドボーン! と水に落ちる。


「わっ!」


 重力がかかってアイスケも丸太から落っこちた。


「にゃッ!」


 頼朝様も水に沈む。


 周囲が悲鳴を上げた。


 ぶくぶくと白い泡が水面に浮いて、青白い波紋が広がる。


「アイちゃん!!」


 ぶしゃぁ! と水飛沫が飛んだ。


「!」


 誰もが瞬きを止めて見つめる。



「ったく、世話の焼ける殿様だ」



 水面から、赤くてどろどろのスイカ塗れでずぶ濡れになった少年が顔を出して、その横から伸び出た尻尾に、白い子猫が巻きつけられていた。

 にゃ! と不機嫌そうな鳴き声で顔を背けている。


 周囲から再び歓声が沸き上がった。


「我らが悪魔でヒーロー! ファミリーズ!! 何かお困りのみなさ~ん!! 遠慮せず、じゃんじゃん相談してくださぁい!!」


 それなりの報酬も期待しますが、とアイスケはいたずらっぽく囁いた。





「まぁ~~~!! 秀吉! 家康! 頼朝! 会いたかったわ~~~!!」


 ぽっちゃりと太った体型で、三匹の猫を潰れるかと思うくらいの力で抱きしめる女性。

 依頼人の、山中様だ。

 太い指には色とりどりの宝石の指輪がきらめいていて、首にも真珠のネックレスが白く輝いている。絵に描いたような社長夫人だった。


「ファミリーズの四つ子ちゃん!! 本っ当にありがとう!! 噂に聞いていた通りのとっても頼もしいヒーローね!!」


 アイスケは深くお辞儀をした。


「めっそうもございません。本来ならば傷一つもない綺麗なお体でお返ししたいばかりでしたが………本当に申し訳ございません」


「とんでもないわ!! どろんこでもずぶ濡れでも、こうして無事帰ってきてくれただけで十分よ!! とっても嬉しいわぁ!! 本っ当に、感謝の気持ちでいっぱいよぉ!!」


 ずぶ濡れなのはこっちもなのだが、というツッコみも飲み込んで、


「光栄なお言葉でございます」


 アイスケはまた深くお辞儀する。


「それにしても、頼朝を手懐けるなんてすごいわぁ。この子ったらワガママだし、大きな胸にしか飛び込まないのよぉ」


「スイカの力でございます」


「へ?」


「いえ、何でもございません」


 アイスケの紳士のような言葉遣いと振る舞いに、残りの三人は生温かい眼差しで黙って見守っていた。

 依頼人は神様で、飼い猫は殿様。

 暗黙のルールはまだ続いている。


「そうだわ!! 約束していた依頼料のことなんだけれど………」


 一瞬ガバッと四人の顔がもげそうな勢いで上がった。


「実は主人が会社を継いでから、我が家に家宝がありふれていてね、まだ誰にも見せたことないのだけれど、ヒーローの四つ子ちゃんには特別にお渡ししたいの」


 アイスケは深く深く、頭を下げた。


「誠に恐れ多い限りでございます。ありがたく頂戴いたします」


「こちらこそ嬉しいわぁ! ぜひ、応援よろしくね!」


「はい、応援させていただきま………応援?」


 顔を上げると、そこにはビニールに包まれた一枚の写真。


 顔面痙攣を起こしたようなウィンクをする水着姿の山中様と、そのふくよかな胸の上に乗っかる三匹の殿様。

 写真の右下には、下手くそな字で書かれたサインがある。


「実はね~、まだ家族以外には言ってないのだけれどね~………私、モデルを目指そうと思ってるの!!」


 体をくねくねさせながら、山中様は恥じらうように言った。


「も、モデル………」


 と、山中様のぽっこりお腹を見ながら反復する。


「それを主人に言ったら、もうあの人恥ずかしいくらいはりきっちゃって!! すぐに写真館に行って、この子たちも一緒になって作ったのよ!! 私のブロマイド!!」


 四つ子の顔は石のように硬くなっている。


「まずは君の美貌を世に知らしめないとって、主人ったら千枚も焼き増しちゃってね~!! まだデビューもしてないのに~!! やだ~恥ずかしいわぁ!!」


 四つ子は顔筋一つ動かさずに、石像のように立ち尽くしていた。


「…………あの、山中様」


 アイスケの硬く閉ざしていた唇が、小さく開いた。カクカクとゼンマイ仕掛けの人形の如く動きで写真を受け取る。


「家宝、というのは…………」


「もっちろん!! 私のそのブロマイドよ!! ちゃんと生のサイン付きだから、安心してね!!」


「………………」


 にゃあ、と腕に抱かれた猫たちが退屈そうに鳴いた。


「あら、お腹空いたの? そうよねぇ~、もうこんな時間だものね~、さっ、お家に帰ってオーガニックのキャットフードを食べましょうね~」


 山中様は三匹の殿様と顔をスリスリする。


「今日は本当にありがとうね!! また何かあったら、ぜひ頼みたいわぁ!! じゃあねぇ~!!」


 手を上げてタクシーを捕まえ、依頼人は嵐のように帰っていった。


 一枚の写真だけを残して。


「………………」


 閲覧注意レベルといってもいい、そのシュールな写真を眺めて、アイスケは消え入りそうな声で誓った。


「俺、もう金持ちは信じない…………」

お読みいただき、ありがとうございます。


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