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ファミリーズ 〜魔王の子たち、ヒーローやってますが何か?〜  作者: 仲乃 斉希
第一章 ③悪魔の大儲け計画! 爆誕!
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第十四話 三匹の殿様

 休日のアスレチック広場は親子連れに溢れていた。

 駅から徒歩十分の距離にある開放的な無料施設のため、子供にも大人にも大人気なお出かけスポットである。


 そんな中、虫取り網に、猫じゃらしとまたたびスプレーを両手に持った悪目立ちしまくりの四人の中学生に、周囲は遠巻きにひそひそとざわめいていた。



「殿様救出大作戦だぁ────!!」



 どんっ! と虫取り網の棒を地面に叩きつけて、アイスケは叫んだ。


 周囲がしぃん、と静まり返る。 

 ココロが怪訝そうな顔でこちらを見た。


「え? 迷い猫救出作戦じゃなかったっけ?」


「バカ言え!! ただの猫じゃねえ!!」


 どんどんっ! とアイスケは棒を二回叩く。


「まず今回の依頼人は、大手会社の社長夫人、山中様だ。繰り返し言う、社長夫人、山中様だ。繰り返し言うッ!! 社長夫人ッ!!」


「分かった分かったから!! どんだけ金持ちアピールすんのよ!」


「山中様は昨日の夜、三匹の飼い猫とご自宅のお庭で戯れていらっしゃった。だが散歩好きの飼い猫たちは、敷居を跨いで外へ出てしまった。山中様は必死に追いかけたが、この広場の出入り口を最後に見失われたらしい」


「それで、俺たちに至急救出依頼が来たわけだね。でも、どうして殿様?」


 ユウキの問いかけに、アイスケはコホンと小さく咳払いした。


「山中様は歴史ドラマがお好きなようで。その飼い猫の名前が、黒猫の秀吉、三毛猫の家康、そして一番若い白い子猫の頼朝だ」


「えっ、何で信長じゃないの」


「信長は昨年に息を引き取ったそうだ。その次に飼われたのが頼朝だ」


「せめて戦国時代の武将で揃えようよ………」


 確かに、それはアイスケもツッコみたくなった疑点である。

 だが、家計が火の車の今、この依頼を前に迷いなど微塵もなかった。


「いいか!? 社長夫人からの依頼なんて千年に一度の大チャンスだと思え!! 依頼人を神様だと思え!! そして猫を殿様だと思え!!」


 うわぁ、と三人はげんなりとする。


「ところで、そこまで気合が入ってるんなら、相当の報酬が約束されてるってことよね?」


 ファミリーズの報酬は、事前に依頼人との交渉のうえ、依頼成功時に渡される後払い制度となっている。

 ヒーローは、助けることが大優先であって、最初から見返りを求めない。それがアイスケの考えたルールだった。


「にっしっし~」


「………何よ?」


「にっしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃっ!」


「笑い方がキモい!!」


 だが今のアイスケの顔は、見返りという下心が露骨になってニヤニヤしている。



「コホン! 山中様は、飼い猫を無事に取り戻せた際には、何と! 山中家の家宝を一部譲ってくださるとおっしゃったのだ!!」



「か、家宝!?」


「本当なの!?」


「わ~い! 家宝だ~!」


 ユウキとココロとは愕然としたが、ユメカはぴょんぴょんと飛び跳ねてバンザイしている。


「最高だよなぁ、ユメカ姉ちゃん!!」


「さいこ~っ! お宝のために頑張るぞ~っ!」


「「おー!!」」


 アイスケとユメカは揃ってガッツポーズ。


「「お、おー………」」


 ユウキとココロは控えめな声を揃えた。





 ぐらぐら揺れる丸太の橋を渡り、雲梯にぶら下がっている吊り輪をつかみながら振り渡る。ロープを伝って木の砦に上り、天辺で辺りを見渡した。


 目を凝らして食い入るように見回ったが、なかなか見つからない。

 鱗のように立ち重なる人海の中、小さな動物を見つけ出すのは非常に困難だ。


「何度か来たことあるけど、やっぱり広いな………聞き込みした方が早いかもな」


 そう頷くと、アイスケはぱぁっといたいけな眼差しになって、赤ちゃんみたいなよたよた歩きで、ボストンバッグを肩にかけた若い女性に近づいた。


「あのぉ………きれいなおねえたぁん」


 もじもじとしながら猫撫で声に似た甘い声に、女性はビクッと体を揺らす。

 爛々とした無垢な眼差しで見上げるアイスケと視線が合うと、分かりやすいくらいに顔が赤くなった。


「な、何かな?」


 女性はしゃがんで、アイスケと目線を合わす。


「あのねぇ……… ぼくのねぇ………だいじなねこちゃんがここでまいごになっちゃったのぉ。うっ……うぇっ………」


 アイスケが手を目に当ててすすり泣くと、女性はあたふたとした。


「た、大変!! お母さん呼ぶ?」


「うう……ひっく。ううん。ぼくひとりでさがせるんだもん。それでねぇ、おねえたんなにかしらないかなぁとおもったの」


「私? えっと………ごめんね、さっき来たばかりで、何も知らないなぁ」


「そっかぁ………おねえたんきれいでやさしそうだから、さいしょにきいちゃったっ! えへへっ」


 アイスケの無邪気な笑みに、女性はさらに顔が赤くなった。


「あ、その、えっと、確実かは分からないんだけど………あそこに、バラエティコーナーがあるでしょ?」


 女性は、大きな看板が立ったところを指差した。


「私、たまにここに来るんだけど、あの辺で迷子の犬が見つかったって話を聞いたことがあるの。たぶん、バーベキュー場や屋台もあるから、匂いに釣られたのかな?」


「そっかぁ! じゃあいってみるぅっ!」


「大丈夫なの? お姉ちゃんもついていこっか?」


「だいじょうぶ! ぼくおとこのこだもんっ! きれいなおねえたん、ありがとうね! ばいばい! だぁ~いすきだお~!」


 カーッと顔が茹でたカニのように真っ赤になる女性に手をひらひら振って、アイスケは兄姉たちの元へ戻った。


「っつーわけだ。あのバラエティコーナーにいくぞ」


 声のトーンを通常に戻して、看板の方をクイッと親指で差した。


「ねえ今の演技いる?」


「役者を目指す者は、常に演技に磨きをかけなきゃな!」


「完全に楽しんでやってるでしょ」


「にっしっし~」





 バラエティコーナーは、東と西の口で分かれている。

 手っ取り早く終わらせるためにも、アイスケとユメカが西、ココロとユウキが東の方へと二手に分かれて行くことにした。





「珍しいわね。ブラコンのアンタのことだから、てっきりアイスケと組むと思ってたのに」


 ユウキの隣に歩くココロが、目を丸くして言った。


「ほらぁ、ね。アイちゃんと隣にいると、殺人級の可愛さにもうメロメロでドキドキで………大事な仕事に集中できなくなっちゃうから」


「重症ね………ほんっと、アンタたち、ちっちゃい頃から過保護でべったり。おおきくなったらけっこんする! なんて言ってたくらいだし」


「あれ? それはココロもでしょ。小さい頃、ユメカと誓いのキスまでしてたじゃないか」


「は、は、はぁ!? あ、ああああれはユメカから一方的にしつこいから! し、仕方なく!」


「顔真っ赤だよ?」


「う、うっさい! それにキスなんて我が家じゃ挨拶みたいなもんでしょ! ほんっと! うちの家族ってウザいくらい愛情たっぷりよねぇ!!」



「ココロ。それは、愛されなかった人にとっては、とてつもなく羨ましい言葉なんだよ」



「そ、れは………」


 堰き止められた川のように、ココロの言葉が詰まる。


 ユウキは神妙な表情で、どこか悲しそうでもあった。


「な……何よ急にマトモな話になって………調子狂わせないでよね!」


「はは、ごめんね」


 ユウキは困ったような微笑を浮かべていて、ふんっ、とココロは拗ねた子供みたいに鼻を鳴らした。


「!」


 バサバサと草むらが揺らめく。

 小さな物影が草の中を走った。


「あれって………!」


 ココロが言い切る前に、ユウキが神速のスピードで追駆し、またたびスプレーを撒き散らす。


「にゃぁ~~~~」


 甘えた鳴き声がした。

 ごろん、と黒猫が草むらから顔を出し、幸せそうに手を顔にこすりつけている。


「………ホントに効くんだね、コレ」


 ユウキは猫とスプレーを見交わしてから、目をぱちくりさせた。

 ココロはスマホで撮った依頼人からの写真を確認して、首を縦に振った。


「秀吉捕獲成功ね」





「えっ、もう見つかったのか!?」


 ココロからスマートウォッチで連絡を受けたアイスケは、素っ頓狂な声を上げた。


『そ。間違いなく秀吉よ』


「おい! 殿様に呼び捨てはダメだろ!!」


『ハァ、間違いなく秀吉様!』


「殿にお怪我はないか?」


『ちょっと泥がついてるけど、目立った外傷はなさそうよ』


「よかったぁ」


『それより、そっちはどうなの?』


「え………」


『ちゃんと進んでるんでしょうね?』


「も、もちろんだぜぇ!! じゃんじゃんアトラクション乗り越えて進みまくって」


「バーベキューおいひい~!」


「ちょ! 黙れユメカ!」


『は………? バーベキュー?』


「あっ、あーっ! バーベキューの匂いに誘惑されながらネットクライミング登るの辛いわ~! じゃあな! また何かあったら報告して!!」


『ちょっ、ちょっと!』


 強引に通話を切った。


 はあ、と息をつく。


 二手に分かれてから、まだ十分もしない内に見つけたとは。さすがは仕事が早いユウキと、しっかり者のココロだ。


 それに比べて………。


「はむはむぅ! ん~! おいひい~! おいひいおアイスケ!」


 屋台の隣のベンチに座って、バーベキューを貪り食うこの大食いバカ姉貴は、一辺ビンタした方がいいのだろうか。

 西のエリアに入ってすぐ、いい匂いがする~! と犬のように走り出して、この屋台を見つけ、奢って! のおねだりに無視して進もうとしたら頭の天辺から噛みつかれた。


 そして今に至る。ネットクライミングどころか序盤のターザンロープですら乗れていない。

 こんな怠けっぷりがココロにバレたら、とばっちりで鉄拳制裁を食らってしまう。


「おい姉ちゃん!! とっとと行くぞ!!」


「おじさん、おかわり~!」


「あいよ!」


「おいこのバカ姉貴いいいいいいいい!!」





「あいつら………絶対サボってやがるわ!」


 ココロは腕を震わせながら、一方的に切断されたスマートウォッチを睨みつけた。


「あのユメカのことだからね………仕方ない。その分俺たちが頑張るしかないよ」


「不公平!」


 ムスッと膨れるココロに、ユウキはまあまあと苦笑を浮かべながら宥めた。

 またたびの効果のせいか、ユウキの腕の中で黒猫は気持ちよさそうに足を伸ばしていた。

 首を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らす。


「一旦俺が依頼人のところへ連れて帰った方がいいかな?」


「そうね。途中で暴れられたら面倒だし。確か駅前のベンチで待ってるんでしょ?」


「よし、じゃあ行くから、何かあったら連絡………」


「待てええええええええい!」


 しわがれた声の怒声がして、二人はハッとする。


 白髪の老人が、息を切らしながら走っていた。

 その前には、魚を咥えた三毛猫がぴょんぴょんジャンプしながら駆けている。


「あれ………家康!?」


 老人はヨタヨタと重い足を引きずって走っており、猫との距離もどんどん遠ざかってゆく。


「この泥棒! ワシの釣った魚じゃぞ!!」


 掠れるほど声を荒くして、老人は足元も見ずに走っていると、丸太につまずいて体がよろけた。


「ぎゃあっ! わっ! わっ! わっ!」 


 ふらふらと体が揺れて仰向けに倒れそうになったところを、ココロがひょいと軽々しく抱き上げた。


「ユウキ!」


「了解!」


 ユウキは風も突っ切るスピードで走り、三毛猫の前で立ち塞がった。


 にゃあっ! と口を開けて魚を落とし、猫はびくりと慄いた。


「殿とはいえ、泥棒はダメですよ? 家康様」


 ユウキはにっこりと、慎ましやかな笑みを向けたのであった。



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