表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/136

第十八話 凛の決意

 電話が繋がったのは、四度目にかけた四コール目だった。


「お嬢様!! お嬢様!! ご無事ですか!?」


 凛は校内を疾駆しながら、スマホを耳に当て、声を激した。


『凛さん………はっ、はい! 大丈夫、です』


 聞こえた。尊きあるじの、ほのかに甘い声が。

 それだけで、胸にぽっかり空いていた穴が塞がった気がした。


「学園外へ向かわれているようですが………教師と共に避難されているのですか!?」


 と、GPS画面の中に動く点をなぞるように視線を動かす。


 しかし、お嬢様の足でこの速度は速すぎる。教師の手で運ばれているのか………つまり、容態が良くない!?


「お嬢様ッ!! この凛がすぐに向かいますッ!!」


 凛はさらに声を激した。


 お嬢様は少し驚いたように息を呑んで、


『だ、大丈夫です! いっ、今、その………助けてくれている人が、いて………』


「誰です!?」


『えっと、その………』


 えへ、とお嬢様は照れ臭そうに笑った。



『アイスケくんの、お姉さんです………』



 ぶちり、と額に癇癪筋が張った。


「直ちに向かいますッ!!」


 一言叫んで、凛は電話を切った。


 はあ! と苛立だしげにため息を吐き出す。


 学園の教師に保護され、避難している最中──そう答えたならば、まだ胸がすく思いであった。


 だが、相手は魔王の子だ。

 確かにお嬢様のことでは深い恩がある。


 が、あの野蛮な兄弟に、お嬢様を護衛できるほどの良識は考えられない。


 自分がしっかりしなくては。


 いかなる状況でもあるじを救い出すことが己の使命だ。



 視界に埋まる魔獣の群れを前に、凛は決死の覚悟で頷いた。



 大太刀の柄を握りしめ、鞘に収める。


(秒殺だ)


 掌をかざすと、空の太陽よりも勝る一閃が瞬いて、烈烈たる光が全方面に羽ばたいた。


 辺り一面に広がる黄金の光が、淀んだ霧を飲み込み、掻き消す。


 ジュゥゥゥゥ、と焼きごてで押し潰すような焼ける音と、醜い呻きを最後に、悪魔の大群は、千切れた尾だけに成り果てた。


 闇を打ち消し浄化する聖魔法にして天性血統、月詠つくよみ。その力を与えれし者は勇者の血統、煌一族のみだが、凛は煌の人間ではない。


 煌の遺伝子を組み込まれた、かつて起きたむごい研究の中の実験体であった。


「ひっ………!」


 唐突に、魔獣ではない声が、それも、高くあどけない声が耳に走ったので、凛ははっと息を呑んだ。


 声の方へ辿る。池を越えた、校庭にそびえ立つ楠木の後ろに、小さな人影が見えた。


 まだ七、八歳くらいの、幼い少女だった。


 凛の顔を見ると、ひっ! とまたビクつく。


「こんなところで何をしている。教師から保護されていないのか?」


「ぁ、あっ……」


 少女は辿々しい声を出して、震える唇を開く。


 少しだけ、お嬢様と重なって見えた。


「先生はっ………いたん、だけど………」


 少女はようやくして言葉を紡いだ。


「警報がっ………なる、前に……友達のっ………りこちゃんが…………飼育小屋へ、行くっていってた、から………」


「飼育小屋? どこにあるんだ?」


「A棟の………近く………」


「なっ………!」


 ファイアドレイクの出所である。しかも凛の向かう目的地とは反対方向だ。


「なぜ教師に言わなかった!?」


 ひぃっ! と少女は涙目で慄く。


 むぐ、と凛は唇を噛み締めた。


 怖がらせるつもりはなかったが、どうやら自分は無意識に圧を出してしまうようだ。


「お前も、友達も、教師とはぐれたということか………?」


「あっ………はい…………パニックに、なっちゃって………先生にも、言えなくて………でも、りこちゃんとっ………電話も、繋がらなくて………心配だから………助けに行きたい……けどっ! 魔獣が、多くて………どう、したら、いいか………」


「ちなみに聞くが、お前とその友達のランクは?」


「D、ランク…………」


 ランクの最底辺。完全に避難勧告対象である。


 凛はこめかみに手を当てて、重い息を吐いた。


 こうしている間にも、GPSの点滅は動いている。だが、それが校内(戦場)の中にいることには変わりない。


 見下ろすと、少女は今にも泣き出しそうに、潤んだ瞳をして、震える小さな肩を抱きしめている。


(優先すべきはお嬢様ただ一人………私には、お嬢様だけが………)



『凛さん………凛さんは優しい人です。鬼さんなんかじゃありません。だから、その優しさを、ひまりも誇れる優しさを、凛さんも誇りに思ってくださいね』



 いつの日か言われた、主の言葉が、頭の中で鮮明と蘇った。


 くっ、と歯噛みして、凛は、痛いくらいに拳を握る。


 爆発しそうな胸の鼓動に当てて、握りしめる。


 胸の奥を掻き乱すような血みどろな激情に、目前の少女の嗚咽がなびくように響いた。


 熱く、痛い喉に唾を押しやる。


 低く、重い声が喉から口へ這い寄る。


「……………案内してくれ」


 ふぇ、と少女の目が見開く。


「その、友達のところへ、案内してくれ。敵なら私が瞬殺する」



(お嬢様を、頼んだぞ、ファミリーズ…………)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ