第十四話 おしゃべりランチタイム
「紅蓮 緋色くんって…………あの、終末の炎………! 紅蓮 蘇芳さんの息子さんですか!?」
「そっ。さすがひまりちゃん、騎士様の名にも詳しいね」
「当然ですっ! 突撃部隊元隊長で、第三次魔人戦争では、たった一人で百の悪魔軍部隊を撃滅させた最強の炎使い、終末の炎の使い手! 火の加護を受けた天性血統の英雄ですよ!! 魔法使いでその名を知らない人なんていません!」
長机で食事を並べて向かい合わせになって、アイスケとひまりは、二人きりという奇跡的に得たシチュエーションでおしゃべりランチタイムに入っていた。
「何やらお兄さんと揉めていましたが、大丈夫でしょうか………?」
犬猿の仲の二人は舌戦の勢いにのって手が出る前に、駆けつけた教頭によって職員室へと強制連行された。
あのまま二人が衝突したら校舎ごと崩壊しかねないので、厳格な教頭もいい仕事をしたと思う。
今頃みっちりお説教されているだろう。
「大丈夫大丈夫。いつものことだから」
「お二人は、仲が悪いんですか………?」
「うーん………悪いといえば悪いんだけど………何だろう、あーゆーのって………」
はっ、と思い浮かんだ言葉に、アイスケは鷹揚に頷いた。
「ライバルっていうのかな」
一言で表すと、その響きがしっくりとくる。
ひまりはパチンと両手を合わせて、満月の瞳を光らせた。
「ライバル………何だか漫画に出てきそうなカッコいい言葉ですぅっ!」
「ああ、特に少年漫画ね」
ひまりには無縁のジャンルかもしれないが、ひょっとして前にも言ったように、庶民の子供の愛読書を盗み見したってこともあるかもしれない。
アイスケは椅子に背もたれして天井を仰いだ。
「ひーくんは幼稚園の頃からの幼馴染でね…………俺ってば昔、ガチで危ねーヤツらに誘拐されてさ…………もうダメだって、何もかも諦めて大泣きして、絶体絶命の大ピンチだって時に、ひーくんがたった一人で駆けつけてくれた。まだ四歳なのに、大勢の誘拐犯にも怯まずに立ち向かって、小さな体がボロボロになりながらも戦って、死んじゃうんじゃないかって思うほど血を流して、それでもただ泣くことしかできなかった俺を助け出してくれた」
怖くて、痛くて、眩しくて、希望だった思い出を語った。
「あの時から、ひーくんは名前の通り、俺のヒーローになった。悪人面の不良だけど、ホントはすっげー優しいってことを、俺は身をもって知ってる」
英雄の父親のことはよく知らないけれど、息子の彼は、アイスケにとっては純正の英雄だったのだ。
ひまりは温かい眼差しで話を聞いていた。
「それからかなー、ユウキ兄ちゃんのライバル意識が強まったの。普段はおっとりしてるくせに、ひーくんの前じゃ野生の獣みたいに威嚇すんだ」
「んー………きっと、アイスケくんのことでヤキモチを焼かれてるんじゃないでしょうか?」
ひまりは珍しく大人びた口調で首を傾げる。
「ヒーローのアイスケくんのヒーロー………素敵なお話です! アイスケくんも名前の通り、愛されてるんですねっ」
「重い愛だけどな」
にししっ、とアイスケは歯を見せて笑った。
「まぁあの二人の戦力は学園のトップクラスで互角で争ってるからな。そーゆー意味でもライバルってやつなんだろ」
しかし、互角という意味では緋色の実力も尋常ではない。天性血統の生まれとはいえ、相手は魔王の子、それもスピードでは魔界四天王匹敵レベルに達した人外の兄と、負けず劣らず並んでいるのだ。
問題児と警戒されつつ、周囲の本心は期待の眼差しも熱いものだろう。
未来の、有能な騎士として。
「あれ?」
ひまりが拍子抜けしたように呟いた。
「今日の空いている席は、二つありましたよね? もう一人の方は、お休みですか?」
あー、とアイスケはうだるような声を上げた。
「そいつは………知らない方がいいかも」
「え………?」
ひまりは箸を持つ手を止めて首を捻った。
「そんな………クラスメイトですよ?」
「だって……言いたくないし」
アイスケが小さい子供のように口を尖らせて言うと、むっ、とひまりはむくれる。
「教えてくださいよ! アイスケくんは案内役さんなんですよ?」
「それとこれは別!」
「別じゃありませんっ! 気になるじゃないですかぁ!」
「あっ、もう一時半だ。ひまりちゃん、早く食べなきゃ!」
「むむむぅ…………何だかはぐらかされたのです………」
ジト目でこちらを見つつも、ひまりはだし巻き卵を丸ごと口に入れ、リスみたいにもぐもぐしている。
不機嫌でも可愛いな、と口には出せないけれど思った。
お弁当を平らげると、重箱を風呂敷に包んで、机の端に寄せる。お待ちかねのデザートタイムだ。
結局ひまりが完食できる自信がないと言ったので、うめえんだ棒は五本に決めた。
エビマヨ味、タコヤキ味、チーズ味、テリヤキバーガー味、悩んだ末に最後の一本は定番のサラダ味にしたようだ。
冒険してみたいが王道も捨てがたい、そんな気持ちは何となく分かる。
「ふふふ…………えへへ………」
並べたうめえんだ棒を眺めては、ひまりは頬に満面の笑いの渦が漂った。
食べてもないのに落っこちそうな緩々のほっぺたを持ち上げて、肩を左右に揺らしては小さな足をバタバタさせている。
アイスケは、率直に思った。
(めっちゃ写真撮りてえ…………)
普段は変態兄貴だの罵っていたユウキの気持ちが不本意ながらほんの少し分かったというか、瞼に焼き付けるだけでは物足りないほど愛らしい生き物を目の当たりにしてしまった。
スマホを触りたい欲深い自分と、変態のレッテルを貼られたくない臆病な自分が脳内で戦っていたのであった。
お読みいただき、ありがとうございます。
もしよろしければ、ブックマーク、下の星の評価ボタンを押していただけると励みになります。




