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第十三話 泥沼関係勃発!

「エビマヨ味と………タコヤキ味! チーズ味に………あっ! テリヤキバーガー味も忘れちゃダメなのですっ! う〜ん………あと一個は………」


 煌家のお嬢様が首を捻って、うめえんだ棒の注文に思い悩んでいる様子。

 何だかここまで馬鹿真面目な表情を見たら、庇護欲を掻き立てられるようで、十個までに上限を増やしてやりたくなる。

 アイスケはピンクパンダの小銭入れを開けて、中を確認した。

 十円玉が六枚で、百円玉は三枚ある。まぁ、駄菓子には余裕か────と、ひまりの方へ向こうと顔を上げると、視界が反転した。


「ひゃいっ!? あ、アイスケくん!?」


 アイスケは一瞬にして、その場から消失した。




 風を突き抜けて、生徒らの悲鳴を横切りながら、アイスケの視界の嵐は食堂の隅の壁際で止まった。

 目をぱちくりさせる。

 足が地につかずにぶらぶらしていた。

 この非常に馴染みのある格好────どうやらお姫様抱っこされているようだ。

 馴染みのあるとは男ながら情けないが。


「怪我はないか?」


 低音だが濁りがなく澄んだ声。

 顔を上げると、燃えるような赤髪の少年。蛇の如く鋭い目つきが、まっすぐとこちらを見下げていた。


「ひーくん………」


 形相からして不良らしさの滲み出る少年を見ても、アイスケはそれほど驚くことはなかった。


 彼の名は紅蓮ぐれん 緋色ひいろ


 幼稚園の頃から親しい仲の、幼馴染であるからだ。


「俺は全然大丈夫だけど………ひーくんはまたサボり? 成績いいのにもったいねーよ」


「……………」


 そう、彼は今朝から無人だった席のうちの一人の生徒で、サボりの常習犯として学園の問題児と扱われている。


「あのー、ところで………この逃避行はなに?」


「ちっせー女にたかられてたから、阻止した」


「あー………」


 どうやらカツアゲされたと勘違しているようだ。ひまりのほわほわオーラからして、その可能性は考え難いとは思うのだが。


「違うよ、あの子は勇者の娘の煌 ひまりちゃん」


「勇者の娘………?」


「そっ。ひーくんホームルームにいなかったから知らなかっただろうけど………今日うちのクラスに転校してきたんだ。俺はその子の学園案内役を任されたってわけ」


「………………」


「さっきのは俺から奢るって言ったんだよ。それも十円のうめえんだ棒。あのお嬢様、高級菓子よりあーゆーのに憧れるんだぜ? 価値観が違うよなぁ」


「………………」


 緋色は研ぎ澄ました瞳でじっとこちらに視線を縫い付け、無言を貫いている。


 聞いているのか、聞いていないのか、興味がないのか、感情の示さない瞳からは解釈できないが、このクールな振る舞いこそが緋色という男だった。


 彼のことはよく理解しているのだが、この体勢での沈黙はいろんな意味で辛い。


 アイスケは下手な笑みを張り付けた。


「あのー………そろそろ離してくれるかな?」


 すると、石のように動かなかった緋色の指がピクリと反応して、さらにギュッと抱きしめてきた。


「ちょっ、ひーくん………」


「今朝の占いを見た」


「え?」


「アイスケの双子座は最下位だった。今のお前は臭豆腐も持っていない。だから間男や間女からは俺が守る」


「デジャヴ!!」


「デブ………? アイスケ、デブ専なのか? なら、今日からデブ活する」


「待って違うどうしてそうなった!?」


「唐揚げ丼メガ盛を頼んでくる」


「待って待って!! 早まらないで!! 無駄な脂肪を求めないで!! あとそろそろ離して────っ!」


 ふっ、と背後から襲い来る砲弾の如く拳。


「!」


 体を即座に半回転させ、緋色は地の上を滑り、後ずさった。


 ゆらり、と奇襲をかけた少年───ユウキが顔を上げ、蛇の瞳に負けんばかりの鋭利な眼差しで睨んだ。


「緋色ォッ!! アイちゃんを離せぇッ!!」


 いつもの朗らかな笑みとは別人の、獣性剥き出しに叫びを散らすユウキ。


 その命令を欺くかのように、緋色はアイスケを自分の胸の方へ抱き寄せた。


 ぐっ、とユウキが歯噛みする。


「お前にしては珍しく近距離で攻めたな」


 緋色は挑発的に鼻を鳴らした。


「当たり前だろ。アイちゃんに掠るわけにはいかないからな」


「何だ。命中に自信がないのか?」


「てっ──めぇッ!!」


「ちょちょちょ!! お前ら落ち着けっ! ここでやり合うなっ!」


 頭の上で飛び交う暴力じみた口論に、アイスケは制止を促した。


 と言っても、この二人が揃ったとなるともう手遅れだと気が滅入る。


 何せ犬猿の仲と知られるコンビだ。


 周囲の生徒らも察したのか、危険物を見るような目で逃げ去っていった。


「お前に言いたい文句は腐るほどあるけど………一番は………これだっ!」


 ユウキがスマホを突きつけたかた思うと────そこにはいつぞやに無理矢理撮影させられたセーラー服のアイスケが映っていた。


「俺のアイちゃんの鬼可愛い秘蔵写真が大量にお前宛てに送信されてたっ!! 隙を見てスマホ盗みやがったなぁ!?」


「当然だ。セーラー服のアイスケなんて俺のアイスケフォルダにも入っていない。独り占めはさせねえ」


「俺が着せて撮ったんだから俺のものだしっ!! 今すぐ消せよっ! じゃないとお前のスマホぶっ壊す!!」


「やってみろ。バックアップなら大量に取ってる」


「くそっ!! 気味が悪いほど抜かりのない男だっ!!」


 気味が悪いほど変態な会話だ。


 もうどうでもいいからそれ以上その写真を公の場で晒さないでくれ。


「俺はアイスケを愛している。すでに幼稚園の頃に婚約済みだ。嫁の写真を持っていて何が悪い」


 緋色は毅然たる態度で言った。


 カッ、とユウキの瞳が紅くギラつく。


「っざけんな…………アイちゃんと婚約したのはこのお兄ちゃんだってんだぁっ!! 間男がぁっ!!」


「うるさい小舅だな」


「小舅言うなっ!!」


「なら仕方ねえ。百歩譲ってお義兄(にい)さんって呼んでやる」


「どいつもこいつも〜〜っ!! 断るっ!! 死ねっ!!」


「ごめん、ちょっとトイレ」


 にっこり笑顔で緋色に断りを入れ、アイスケはお姫様抱っこから掻い潜って、地面へと着地した。


 二人はまだ目から火花を散らすように吠えている。撒くにしてはちょうどいい。


「あっ、アイスケくん! 大丈夫ですか!?」


 受付方面からひまりが走り来た。


 必死になって探してくれたのか、額から汗が滴っている。


 そうだ。自分にはこの子と昼食を食べるという最大のミッションが残されている。


「ひまりちゃん。行こう」


「あれ………あちらにお兄さんがいますよ。男の人も………」


「あっお前スク水のアイちゃんまでパクリやがったなぁ!!」


「下からのアングルもクソ可愛いな」


「当たり前だろアイちゃんは天使なんだからぁ………ってお前は消せ──────っ!!」


「む? すくみずのあいちゃんって何ですかぁ?」


「何でもないよ。アレは鳥の囀りだ。行こう」


「したからのあんぐる?」


「行こう」


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