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第十二話 食堂のおばちゃんには優しく、可愛く!

「………で、何でこいつも並んでんの?」


 十五台の受付もあってか、長蛇の列もスイスイ進む中、ユウキはアイスケの後ろでにんまり笑顔のひまりを睨んだ。


「待ちに待った庶民の日常体験! すくーるばーじょんっ! です!」


 ひまりがびしっと指を上に突き上げて、何やらキメ顔で言っている。


「君、お弁当あるよね?」


「もちろんお弁当も食べますっ! ですので私はデザートを注文したいのですっ!」


「デザートって…………」


 アイスケは目をぱちくりさせた。


「お嬢様………残念ながらお嬢様のお口に合うスイーツなどはここにはございませんが………」


「うめえんだ棒があるじゃないですかっ!」


「デザートって駄菓子!?」


「それだけのために並ぶヤツ初めて見た………」


 お嬢様の好奇心にはいささか理解できない二人は、ぽかん、と立ち尽くした。


 ちょうど受付が三台空いたので、三人は注文へと進んだ。


「あら、アイスケちゃん。何にする?」


 馴染みの割烹着のおばちゃんがにこりと笑いかけた。


 刹那────アイスケの表情筋が、中学生男子からいたいけな幼子なものへと豹変する。


「ぎょうざていしょく! あっ、あのねぇおねえちゃん………こないだおねえちゃんがさーびすしてくれたからあげ………おいちかった………またたべたいなぁ」


 ズキュン!! とおばちゃんの胸にキューピッドの矢が射抜いた。


 トドメにと、潤ませた瞳をぱちぱちさせ、「だめ?」と小首を傾げてみる。


 グハッ! とおばちゃんが胸を押さえて呻いた。


「もっ、もちろんいいわよっ!! 餃子定食、唐揚げ三つオマケにつけとくねっ!」


(へっ、チョロいな)


 と、胸中ではニヒルに笑いつつ、表面では「ありがとぉっ! おねえちゃんだ〜いしゅき!」とファンサービスも忘れない。


 ワンコインで餃子定食+唐揚げ三ついただきだ。

 後ろの列からは「ずるいぞーっ!」だの「ゲスロリめーっ!」だの負け犬の遠吠えが聞こえるが、お構いなしだ。

 これが勝ち組の世渡り術というものである。


「ん?」


 お盆を抱えて、そういえばひまりは買えたのだろうかと端の受付を見てみると、何やらおばちゃん共々困っている様子。駄菓子一つで何をそんなに時間がかかるのか───と近づいてみると、ひまりの手には黒光りする一枚のカード。


(またか──────っ!)


 思わぬデジャブにアイスケはずっこけそうになる。


「ですからっ! ここにあるうめえんだ棒をすべて買い取りたいんですっ!」


「そう言われてもねぇ………現金しか使えないのよぉ………」


「むむ〜………分かりましたっ! ではここの食堂の権利を五千万円で買い取りますっ!」


「えっ、私クビってこと!? なっ、何て恐ろしい子なのぉ────っ!?」


(またか──────っ!!)


 もはや自分以上に注目を浴びまくっているひまり。もちろん悪い意味で。


 これ以上の暴走は食堂だけには留まらなくなるので、アイスケは全力疾走でひまりのカードを押さえ込んだ。


「ひまりちゃん………現金持ってないの?」


「はい………もしかして、ここでもカードは使えないのですか?」


「ウン…………」


「そ、そんな………じゃあ、権利を買い取ることも?」


「う、ウン…………ダメ」


「はぅ………」


 小さな唇を窄めて、ひまりはしょんぼりする。 


「うっ………」


 今にも泣き出しそうなその幼い顔を見て、果たして知らんぷりできる男は男と言えるのだろうか。


 うん、とアイスケは自分に言い聞かせるように、声に出して頷いた。


「五本までなら………奢ってあげる」


 まさか煌家のお嬢様にこの言葉をかけるとは一生もないと思っていたが、この現状。


「あっ、ありがとうございますっ! アイスケくんは神様ですねっ!!」


 たった五十円でこんな無邪気な笑顔を見れるなら、これはまたお得した気分だ。

 

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