第十一話 昼食はみんなで
三人で廊下を歩きながら、アイスケはツッコまざるを得ない点について問うた。
「ひまりちゃん、それお弁当?」
ひまりが両手で抱える風呂敷に包まれた重箱らしきものだ。
「はい。煌家専属のシェフの人が作ってくれました」
「わぁ………すっげー」
中身は見ずとも、豪勢な料理が敷き詰めているのが想像できる。
専属のシェフとは人生に一回でもいいからドヤ顔で言ってみたいものだ。
「アイスケくんたちは、お弁当ではないのですか?」
その質問に、ずっと無言の圧を放っていたユウキの眉がピクリと吊り上がった。
「あのねぇ、うちは十人兄弟だよ? いくら料理上手なベリー兄でも、朝から全員分のお弁当とか作れるわけないでしょ」
「べりー、にい………」
「うちの長男だよ。あいにくシェフを雇うようなセレブな君とは住んでる世界も違うんでね?」
ほぁ、とひまりは口を大きく開けて、
「すごいっ! 一番上のお兄さん、お料理がお上手なんですねっ! 私も庶民の家庭料理というものを食べてみたいです〜! はわぁ〜」
「こいつ………」
たぶん、脳内お花畑のひまりにユウキの嫌味の言葉は掠りもしないのだろう。のれんに腕押しとはまさにこのことだ。
「俺たち兄弟はいつも食堂のメニューを注文してるんど………星ノ木はね、昼食はみんな食堂で食べるように決まってるんだ」
アイスケはさっそく学園のルールを一つ教えた。
「お弁当とか、コンビニで買う人もいるんだけどさ………食事を共にして仲間の絆を深めるべし、とかいう学園長からの教育方針でね」
「なるほどなるほど………お友達百人を目指すべしっ、ですねっ!」
「まぁ………そういうことかな」
「でも………ここは、小中高一貫ですよね。みんなが集まったらすごい数になるんじゃ………」
「初等部と、中高で食堂は二つに分けてるんだ。まぁ、それでもおっしゃる通りすごい数なんですけど」
星模様が刻まれた、大きな扉の前まで辿り着いて、アイスケは先に足を踏み入れた。
「その分、こっちも広いからさ」
視界の果てまで広がる、曠然たる広場。
ひまりは目を瞠った。
体育館を上回るほど広大な空間で、七十ほどの長机が一面に敷き詰めている。数えるとキリがないほどの生徒に溢れていた。
食欲をそそる美味しそうな匂いも充満している。
パンやおにぎりといった軽食から、ご飯にお味噌汁のついたお店のような定食や、カレーやオムライス、丼ものなど、食事のレパートリーもフードコート並みに豊富だ。
「すごい………すごい………すごいですぅっ! こんなにぎやかにお食事できるところ、初めて来ましたっ!! はわぁ〜」
ひまりは緩々のほっぺたに手を当てて、恍惚とした表情を浮かべた。
「いつも外食は個室か貸し切りだったので………まさか庶民の溜まり場に仲間入りできるなんて………はわわぁ〜」
「何こいつわざと煽ってんの?」
「天然なんだ、許してやってくれ」
すでにユウキの額に癇癪筋が走っていたので、アイスケは宥めるように言った。
「あっ、あちらにお姉さん方もいますよ!」
と、ひまりが手を向けた先に、ココロとユメカがすでに長机で食事を取っていた。
二人のお盆にのっているのはとんかつ定食。
(今日も松坂牛は無理だったか………)
だが、何やらおかずの交換か、ユメカが「あ〜ん」と箸でつかんだとんかつの一切れを、ココロが顔を赤くしながらも口に含んだ。上機嫌で何よりだ。
「あ、兄たちもいる」
ユウキが指差した先に、双子のフウガとコウガがいた。
大好物のチーズサンドを同じリズムで食らいついている。食べ方の品には欠けるが、珍しく口論もなさそうで安心した。
「アイちゃん! 何頼む?」
「餃子定食」
「あははっ、アイちゃんいつも餃子一択だね」
「新しい挑戦をしたいと思いつつ本命が忘れられないんだ」
そういえば、同じものばかり食べる人は頑固で執着心の強いタイプだってテレビで言っていた。
自分の性格は楽観的な方だし、そうでもとないと思うのだが。
「じゃあ俺は、激鬼辛カレーにしようかな」
「…………また?」
兄の場合は、ちょっと当たっているかもしれない。




