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第十話 昼休みは波乱の幕開け

「昼休みだ──────っ!」


 地獄の小テスト三昧も鉛筆転がしで乗り切って、待ち侘びていたチャイムが鳴った。


 ぐ〜っ、とアイスケは腕を上へと伸ばす。


 生徒らが駆け足で向かう先────食堂だ。


 何やらココロとユメカも慌ただしそうにカバンから財布を取り出している。


「私たち、先に行ってるから!」


「一日五食限定の松坂牛ステーキ定食〜! 今日こそ食べようねココロちゃん!」


「ええ! 今日こそ一番乗りよっ!」


 と、二人の姉は疾風の如く速さで突っ走っていった。


 ちなみにアイスケも、幻の松坂牛ステーキ定食はお目にかかったことすらない。噂ではそれを巡って暴力沙汰にもなったとか。


(っていうか………ユウキ兄ちゃんに頼めば一発じゃね?)


 隣でカシャカシャ無断撮影してくる兄を横目に思ったが、もう遅いか。


(今日もあの二人はサボりか………)


 朝からずっと無人だった二つの席を見て、アイスケはしんみりとした。

 その席の斜め後ろに、ひまりが座っている。

 周囲の生徒らの動きを見て、おろおろとしていた。


「ひまりちゃん、午前の授業お疲れさま」


 む、と不貞腐れる兄をよそに、アイスケはひまりに笑いかけた。


「ちょっと緊張してたね」


「は、はい………庶民の方々と同じ空気を吸っていることにときめいてしまって………」


「一応名門校なんですけど!? 金持ちも結構いるよ!?」


「で、ですが、庶民代表のアイスケくんの隣に座れることにもドキドキで………」


「ねえ喧嘩売ってる?」


 何でだろう。女の子に言われたら嬉しいはずのセリフも、いらぬ一言で苛立たせるものになる。


 しかしほわほわと幸せオーラを全開にするひまりを見ては、相変わらずの天然っぷりに対抗するすべもない。


「ねえアイちゃん! 早く一緒に食堂行こうよ!」


 兄が不機嫌そうに呼びかける。


「え………でもひまりちゃん…………」


「俺とその子と金と名誉、どれが大事なの!?」


「選択肢が重すぎるっ!」


「お兄さん! お金や名誉よりも、大事なのは愛ですよっ!」


「金と名誉に恵まれすぎたヤツに言われても説得力ないから!! っていうか俺はアイちゃんに聞いてんの!! 女狐は黙ってろ!!」


「私はキツネさんではありませんっ! お兄さんは一度眼科へ行かれるべきですっ!」


「あ〜〜〜!! 嫌味の通じないヤツだなっ!! こいつ嫌いっ! すっごい嫌いっ! あとお兄さん言うなっ!」


 また相変わらずのいがみ合いに挟まれて、苦笑いするしかない。


 いつも穏やかなユウキが荒れくれてるのは、なかなか新鮮で、それに面と向かって天然をぶっ込むひまりもあなどれない。


「あっ、いたいた〜」


 人気ひとけも減ってきた教室に入ってきたのは、白衣のラムだった。


 だが、その姿は朝とは別人のようで──


「にっ、兄ちゃん!? 髪が戻ってる!?」


「薬の作用が切れたみたいですね〜。あとここでは先生」


 いつものボサボサのオールバック風の兄を見たら、謎の安心感が湧いた。


「ちょうどアイスケくんに頼みたいことがあってね〜」


 兄は虚な眼差しで言った。


「今日からアイスケくんは、ひまりちゃんの案内役になってもらいま〜す」


「あんない、やく?」


「そう。学園案内役です。転校生だと分からないことも多いと思うので、空き時間に手取り足取り教えてあげてほしいのです」


「俺で、いいの?」


「アイスケくんじゃなきゃダメなのです。これはお世話係の霧崎さんからの希望……いわば指名ですので」


「えっ、凛さんが!?」


「はい。ということで、ひとまず食堂まで付き添ってあげてください。先生は色々と忙しいので、さよなら〜」


 そよ風が吹くようにラムは去っていった。

 続いて生徒が出ると、教室は三人だけになる。


 ひまりは小さな拳をほっぺたの方まで上げて、目をキラキラさせた。


「アイスケくん! よろしくお願いしますね!!」


「う、うん。よろしく」


「俺も行っていいよねぇ?」


 ひっ、と這い寄る瘴気にビクついた。


 ユウキの血走った眼球はふるふると今にも飛び出そうなほど震えている。


「アイちゃんとお兄ちゃんは一心同体なんだから………お兄ちゃんも同伴で間違いないよねぇ!?」


「はいぃぃっ! 三人で仲良く行きましょうぅぅぅ!」



『生死に関わるほど波乱な一日が待ってるでしょう!』



 朝の占いの言葉が、電撃のように頭に走って、ただならぬ胸騒ぎがした。


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