情報収集:ティアの視点
「あの糞オヤジ! 一国の王として失格じゃないのかしら?」
「ティア様。お怒りなのは分かりますが、やけ食いはよくないかと」
「分かってる。けど、食べずにはいらないのよ! まったく!」
アスガルドに到着して5日目。
アスガルド王へと謁見を許されるまで随分と時間を要した。
同盟国の特使として派遣された私達に対する粗雑な扱い。
これだけでも問題だが謁見時の対応が駄目すぎる。
今後の軍事方針について語ろうとしても少しの知識も無い。
謎の建造物について聞けば歯切れが悪い。
何より私を舐めまわす様な視線には身の毛がよだつ。
それを思い出すと同時に身体がぶるりと身震いする。
さっさと明日開かれる大会に参加して国に帰りたい。
幸い大会が開かれる場所は謎の建造物らしい。
少しは情報を得る事ができるだろう。
国民達に聞いた情報によると誰もあそこに入れた者はいないらしい。
「王国中の建築事業者に話を聞きましたが建造には関与していないとのことで」
「機密を守る。そのための嘘かもしれないけど、そうとは思えないのよね」
「だとすれば誰があの巨大な建造物を一瞬で?」
「私が知りたいわね。建造期間はどのくらい? それも調査してきたのでしょう?」
「7日程だそうです……」
「私達を馬鹿にしているの?」
「それが本当のようで。夜が明ける度、驚異的な早さで進捗が進んでいたとか」
目の前の料理を掻き込む。
苦笑しながら私を見る兵士達。
少し恥ずかしい。
けれどイライラするのはしょうがない。
そんな話ある筈がないのだ。
国民全体で私達を謀っているのだろうか。
「大会の出場者で目ぼしい名前とかあった?」
「第2区分に分類される者達が殆どですね」
「未スカウトで特機戦力となる人材はいないか……」
魔王に対抗するため国同士で決めた4つの区分がある。
第1から第3は常識の範囲内で実力が計れる者達だ。
しかし特機は違う。
一人で戦況を変える、国家に仇名すことが出来る人物を指す。
最近では大賢者のスキルを持つ青年がそれに指定されている。
「それぞれに集めた情報を私に頂戴。整理して報告書を書くから」
「事務仕事であれば私が」
「それは上の立場の人間がやるべきよ。現状を把握しないといけないもの」
ふんぞり返って指示を出すだけなら誰でも出来る。
上司であれば現状を把握することは大事だ。
有事の際に迅速に対処できるのは、それを積み重ねた結果である。
それが私の持論だ。
アスガルド王のような無能者にはなりたくない。
「貴方達は5日間、十分に仕事をこなしてきた。今日は休暇にしなさい」
「しかし……」
「皆家族がいるのでしょう? お土産の1つや2つ、買っていってあげなさいな」
私以外は皆、既婚者であり子供がいる。
稀にあるかないかの隣国への出張だ。
少しくらいは息抜きをしてもいいだろう。
王は駄目だがこの国は美しい。
思い出作りとして散策するのもありだと思う。
「ではお言葉に甘えます」
「ええ。私は宿にいるから、何かあればすぐに呼びなさい」
食事を終えると部下達はそれぞれに水の都へと消えていく。
全員を見送った後、集めた報告書に目を通しながら街を歩く。
目にするのは大会参加者のリストだ。
一般兵が知らない秘密のリストがある。
影の実力者と呼ばれる者達だ。
普通に関わるのは危険とされる要注意人物。
その名が無いかどうか再度、私自身の目で内容を確認する。
「そういった奴等は偽名を使うだろうけどね……」
そう嘆息した時だった。
「そこの綺麗なお嬢さん」
私の行く先を遮る様に一つの影が落ちた。
紙に向けていた視線を上げる。
どうも、と手を振る優男。
背が高く、かなり軽い印象がある。
咄嗟に思ったのは女遊びが好きそうな奴、だ。
「御免なさい。私、忙しいのよ。他を当たって頂戴」
「それは駄目だ。ここ数日で見た中で君が最も美しい華だから」
半目で睨んだ。
馬鹿みたいな謳い文句。
こんな言葉に引っ掛かる女がいるのだろうか。
無視して横を通り過ぎようとした時だった。
「大会のリストか。この世界……、国に来たばかりで誰が有名か分かんねぇな」
私の手にあった筈の資料が無い。
念の為、バックの中に手を伸ばしたが最重要機密となる資料は無事だ。
大衆の前ということもあり、開示されても問題ない資料を読み込んでいた。
それが功をそうした、というばそうだが現状は違う。
この男、私に気付かれずに紙を抜き取った。
「少しは俺に興味が湧いた?」
「貴方も大会参加者なの?」
「ああ、俺も参加するぜ。一般のルートとは少し違うけど」
「一般のルート?」
「おっと、それはこっちの話だ。それよりさ、少しだけ俺と遊ばないか?」
「何を遊ぶというの?」
「美味い菓子屋が近くにあるらしいんだ。一緒に食いに行こうぜ!」
「…………」
「怖い顔するなって。男一人だと微妙だから、一緒に食う相棒を探していたんだ」
悪意の無い無邪気な笑顔。
本来ならお断りの話だが、彼の実力について私は未だ計りかねている。
有能な人材の発掘。
少しの時間なら付き合うのもありだ。
部下達に宿に居るといった手前、1時間ほどで戻りたい。
彼と共に行くとしてもあくまで情報収集。
遊びや逢引といった邪な考えはこれっぽちも無い。
「いいわ。仕事前に甘いモノを補給しておくも悪くない」
「可愛いのに固い口調は無しにしようぜ」
「か、可愛いとか、破廉恥なことを言わないで!」
「アハハ、可愛いが破廉恥とか面白いこと言うな」
そう言って手を伸ばす優男。
私をその手を軽く叩き落とし、彼の横に並ぶ。
「調子に乗らないで。私の名前はティアよ。貴方は?」
少し考える素振りを見せたが彼はすぐに無垢な笑顔に戻ると、
「俺の名前はライト。よろしくな、ティアちゃん」
「気安くちゃん付けするな。馬鹿」
この現状を見れば、恋に現を抜かす少女の様に見えてしまうだろうな。
私は仕事のつもりだが、部下達に会わない様にと切に願う。
もし噂になるようなことがあれば、叔父様が黙っていないわよね。
そう思うと少し気が重くなる私なのであった。




