再会:ナナリーの視点
五日間の旅路の果て……。
クリスにご飯を振舞う機会は何度もあった。
けれど……。
「はあ……。結局、何もしないまま街に到着してしまった」
溜息が漏れる。
そんな私を尻目に子供達は初めての王国にご満悦のようだ。
今の私は教師という任に就いてる。
恋愛だのうつつを抜かすのは今は止めよう。
気持ちを切り替えなきゃね。
「水の都スゲェ!」
「街の隣にある建物とか見たこと無い」
水の王国として有名なアスガルド。
噂には聞いていたがとても美しい街だと思う。
気になるのは街の隣にある巨大な建造物。
見たのは外観だけだがとてもこの世のモノとは思えない造形をしていた。
その都市を見ながら、
「何とか入ってみたいものだけどね」
「どうやら明日には入れるみたいよ」
「どういうこと?」
ソフィアが親指である方向を指差す。
「武術大会?」
掲げられていたのは大きな横断幕。
受付嬢が居て大会に参加する出場者を募集しているようだ。
そこに示された様々な掲示物から鑑みるに謎の都市で大会が開かれるらしい。
「新生アスガルド王国のお披露目会か……。何かきな臭いわね」
「そうなの? すごく楽しそうだけどね」
そう言ってソフィアは受付へと足を延ばす。
大会に参加するつもりみたいね。
「クリスの名前は書いておいたけどナナリーはどうする?」
「僕は強制参加なの? 参ったな……」
「私は……」
嬉しそうに駆け出す生徒二人の首根っこを摑まえる。
参加しようとしているみたいだがそうはいかない。
旅行中に怪我でもさせようものなら親御さんに申し訳が立たない。
「私はこの子達の面倒をみるわ。貴方達二人が参加して」
ぶーぶーと文句を零す子供達の声は無視する。
了解、と言いながら再度書類に向かうソフィア。
二人の後姿を暫く眺めていると何やら見知った人影が……。
あのデカい盾を掲げたおっさんは確か、
「盾のおっさんじゃない。貴方も参加するの?」
「おお! ナナリーじゃないか」
「元気そうね」
「ああ! あの件以降、久々に修行に励んでね。実力を試そうと思っていたんだ」
「優勝は難しいかもよ? ソフィアと大賢者様も参加するから」
「ハハハッ! 優勝などは考えていないよ。伝説の戦姫も参加するようだしな」
「戦姫?」
「有名な人物だぞ? セントラリア王国の戦姫ティアと言えばな」
噂で聞いたことがあるような気がするけど殆ど覚えが無い。
私の微妙な反応に苦笑した盾のおっさんが別の話題に切り替える。
「ところでナナリーはリムルムントの三人組と行動を共にしているのか?」
「意図せず職を授かってね。私の後ろにいる二人組の教師役よ」
「この子達のか?」
私の後ろに隠れるようにしておっさんを観察する二人。
デカい身体にビビって私の背後に回ったわけではない。
小声で、一発殴ったら倒れるかな、とか不穏な呟きをするのは止めて欲しい。
実力を試したいお年頃なのだろうが限度がある。
鬼ごっこの時に見せた雲を切り裂く一撃。
あれは常人の域を遥かに超えている。
「私もこの大会が終わればリムルムントへ向かおう思っていたのだがな」
「思わぬ再会ね。リルアは村でお留守番中だから村に来る口実はあるわよ」
「そうか。彼女には改めて礼を言わねばならないと思っていたしな」
「礼?」
「私がレベルアップしたのは彼女のお陰でもあるのでね」
あのモノみたいにぶん投げた件か……。
はたから見れば感謝するような光景では無かったようにみえるのだけど。
暫くおっさんと会話していると受付からクリストソフィアが戻って来た。
「あれ? おっさんじゃん!」
「お久しぶりです」
「二人とも元気そうでなによりだ」
「なになに? おっさんも大会に参加するわけ? 対戦しても手加減しないよ」
「望むところだよ。それに君達以外の猛者も何人かいるみたいだしな」
「へぇー」
ソフィアが嬉しような表情を浮かべる。
好奇心旺盛なのか血の気が多いのか……。
リムルムントで育つとそういう子に育つのだろうか。
私の手には何とか脱出を試みようとする子供達がいる。
貴方達は絶対に大会へ参加させるわけにはいきません。
断じて。
「ところで他のメンバーのこと知っていたりするの、おっさん」
「セーラとアスカは学園に入学するそうだ」
「打診があったやつね。リムルムント組はパスしたけど」
「彼等も学園に入る準備を終えたら、君達の村に立ち寄ると言っていたぞ」
「そっか、楽しみだね」
柔和な笑顔で答えるクリス。
セーラか……。
ダンジョン攻略ではクリスに好意を寄せていた筈だ。
離れた今でも彼のことを慕っているのだろうか。
ダメダメ。
今は仕事中だ。
私情を挟むのは宿に着いて、一息ついてからだ。
ソフィアがふと疑問を上げる。
「他のおっさんズは?」
「知らないな。彼等は冒険者だ。いずれフラッと村に訪れるのではないか?」
「それもそうか」
立ち話も何なので私達は近くの食事処へ移動することにした。
その道中でも目に入るのは謎の建造物だ。
無機質で何処か禍々しさすら感じる。
大会の場をそこに選択したのは各国へ力を示すという意味もある筈だ。
嫌な予感がする。
微かに胸に去来する不安。
その思いも全て杞憂に終わればいいのだけど。




