踊り子:ガイルの視点
――トカゲさん急いで!
聞こえる。
そうか、これがリルア様のスキルに導かれし者の声か。
つまり、幾つもの集落が全滅させられたその裏に、
「悪がいる!」
急げと身体に激を入れる。
向かう先には、倒すべき敵と救うべき我が同胞達がいるのだ。
ゴブリン達の集落が間近に迫ると、黒煙が昇ってるのが確認できる。
微かに聞こえていた悲鳴も段々と大きなモノとなる。
「ガイルさん! 貴方の指示を仰ぎたい!」
「拙僧が先頭に立ち、敵を食い止める! 他はゴブリン達の護衛にあたってくれ」
「了解です。各自行動に入ります」
今いるメンバーは拙僧も含め五人のみ。
オークの四人には巨体を生かし、身体を張ってゴブリンの守護を優先させる。
敵の気配が感じられないが、既に撤退したのか。
集落へと到着する。
鼻を刺激する血と黒煙の匂い。
既に無数の死体が転がっているが、助けを呼ぶ声も多い。
「リムルムント村のガイルだ! 救援に来たぞ! オークに続いて逃げるのだ!」
村人を誘導しつつ、敵を探知するため神経を研ぎ澄ます。
ゴブリンの集落では有り得ない音、匂い、気配を辿っていく。
一番に感じた違和は鋼鉄を擦るような異音だ。
それも無数に存在する。
音の出所に向かい特に燃え盛りの激しい場所へと歩を進めていく。
「あはーん、何か初めて強そうな奴が出て来たわねん」
「貴様か、我が同胞達の集落を襲ったのは!」
「そうよ。わたすぃが、魔物達を倒した華麗なる踊り子……リン子様よ」
声の方向に視線を向ければ、そこに変態がいた。
紅蓮の炎を背景に細長い木に股間を擦り付ける薄着の禿頭男。
――うお! 変態がいる!
――なんか女の子の水着を来た変態がおるよ!
導かれし者の声も同じ意見だ。
そして、あの薄い布は水着と呼ぶらしい。
変態の周囲には此れまで見た事のない謎の集団が鎮座している。
生命の息吹が感じれぬな。
言い換えれば命ある者が放つ脈動にも似た気配というものがない。
そこにただ無機質な何かが存在するだけ。
「魔物だけど中々にビビッと来る美男子じゃない? 一緒に遊びましょうよ」
「ふざけた奴め! 拙僧の槍術で撃ち滅ぼしてくれる!」
「いいわね、いいわね! そのヤル気! 一緒に踊りましょうよ!」
変態が突如として踊り始める。
正直、見るに堪えない姿だ。
色々な意味で早急に排除せねば。
ただひたすらに真っ直ぐ、心の臓を穿て。
素早さのみを求めた高速の突進。
見切れぬ。
拙僧のレベルは100を超え、通常の人族であれば到達し得ぬ領域にある。
だが、変態はふわりと宙に舞うことで一撃を回避する。
美しき鳥の羽ばたきを思わせる様な跳躍。
一瞬、美しいと思ったが奴は変態、惑わされるな。
此方の動きを見て緩やかに回避した。
一連の動作から奴も拙僧と同じ領域に踏み込んだ者と判断する。
しかし、宙に飛んだのは間違いだ。
相手の動きを見て急遽、槍の軌道を地面に向ける。
突き刺さった槍がつっかえ棒となり、下半身を無理矢理に宙へと跳ね上げた。
宙へと舞い上がる敵に対し、大上段への踵落としで迎撃する。
直撃せよ……、だがその願いは叶わなかった。
変態が中空で方向転換したのだ。
疑問に対し、答えを得るために相手を見れば、
「面妖な鉄の長靴め!」
変態が穿く鉄の長靴。
その下部から炎が噴射し、空中では有り得ない軌道を確保していた。
変態が綺麗な三回転を決めて着地を決めると、
「"マキナ"の基本よ。私達は自身の持つ機械武具の能力を高める事が可能なの」
「武装強化の術か!」
「そう。力の行使を機械に限定している分、効果を爆発的に高める事が出来るの」
機械、マキナ、よう分からん単語だ。
要約すると、鋼鉄の武具に力を通し易い能力なのだろう。
高速戦闘の最中、中空で人体を望む方向へと転換させた膂力……。
相当のモノだとお見受けする。
仕切り直しだ。
槍を中段に構えて相手を睨む。
変態は両腕と両脚を絡ませる様な姿勢を取って此方を挑発する。
「大体、貴方の実力は分かったわ。私の二分の一以下ってところね」
「たかが一度の接敵で何が分かる?」
「場数よ、場数。こう見えても、魔王軍と戦った歴戦の猛者なのよね、私」
「魔王、だと?」
何を言っている?
魔王が復活したのは数百年前の話。
最近、噂こそ耳にするが復活していたという話は聞いたことがない。
であれば、此奴の正体は――。
「多元から来た者か?」
「あら、知ってるの? 多元じゃなく異世界と呼んでほすぃわね、異世界」
「その異世界の住人が何故、別の世界に住む命ある者達を殺す!」
「私は勇者の仲間よ。魔物はぶち殺すに決まってるでしょう」
「何だと!?」
「魔物が居なくなったら、人、自然、世界。全部、壊していくのだけどね」
「狂っているな、貴様……。ここで拙僧が引導を渡してやろう」
「トカゲがイキらないでよ。お仕置きとしてわたすぃの力で殺してあ・げ・る」
高めに作られた声が急に重低音のモノに変わる。
隆起する筋肉。
ドクドクと脈打つ血管。
膨らむ急所。
――おえっ……。
導かれし者達よ。
分かるぞ、その気持ち。
何が来る、と身構えた時だった。
汗を撒き散らせながら激しく踊り始める変態。
それと連動して動くモノがあった。
変態の周囲で沈黙を保っていた、鋼鉄の人形が動き始めたのだ。
最初に存在していた人形は五体。
しかし、それだけではなかった。
地中深くに眠る鉱石や周囲の木材が大量に重なり、新たな鉄人形が作られる。
「私のスキル【マリオネットダンス】は機械人形を創造し、操ることが可能なの」
「人形如きに拙僧が負ける筈など、」
「1体のレベルは150。わたすぃの見積もりでは貴方は100程度よね」
「馬鹿な150レベルの人形を作るだと!?」
「そうよ、私はこれを舞踏会と呼んでいるの!」
村、平野、森、果ては遠方の山々から大量の資材が変態へと集まっていく。
高速で創造される鋼鉄の軍勢。
「100の人形と独りぼっちの貴方、いつまで踊り狂うことが出来るかしら?」
人形の一部には頭蓋や骨と思しき、突起物が浮き出ているモノもいる。
死者すらも道具の一部として利用する能力
死した者達を愚弄するか……。
許せん。
奴の言う事が本当であれば、圧倒的な実力差だ。
しかし、
「拙僧には目標がある。ここでは死ねんのだ」
いつの日か人と魔が手を取り合う日を夢見て、集落を守って来た。
人を理解するために、襲うような行為は止めてくれと頭を下げた時もある。
皆、笑顔で快諾してくれたあの日を思い出す。
それを、貴様は……。
「同胞達の仇を取って見せようぞ!」
拙僧に迷いはない。
狙うは変態、一点集中。
それだけを心に止め、鋼鉄の軍勢へ高速の突撃を開始した。




